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第7回 IFRS基準による実例紹介(日本電波工業)

汐留パートナーズ株式会社
公認会計士・税理士 前川研吾
ICAEW IFRS Certificate

●IFRS適用第1号「日本電波工業」

 今回は、IFRS適用第1号の上場企業として注目を集めている日本電波工業株式会社(東京証券取引所市場第一部上場)(以下、「日本電波工業」といいます。)のIFRSによる連結財務諸表を分析し、IFRSの実例紹介をいたします。
 携帯電話やデジタルカメラ部品の水晶デバイスの製造・販売を手がける日本電波工業は、2010年3月期の決算を、IFRSを適用し公表しました。IFRS適用の理由として、「財務報告の一層の品質向上と経営効率の向上を図るため」としています。
 かつて、1999年にアニュアルレポートにレジェンドクローズ(警告)を入れなければならないという問題、いわゆるレジェンド問題が生じ、日本基準の品質と信頼性を損ね、ジャパンプレミアムの要因の一つともされました。日本電波工業は、ロンドンで資金調達をしていたため、レジェンド問題に対応すべく、2001年度から海外向けのアニュアルレポートをIFRSで作成するなど、早くからIFRSに取り組んできた企業でした。
 したがって、IFRSにかなり前から取り組んでいる企業であるため、今後IFRSを適用する企業にとってそのままお手本とはなりませんが、日本電波工業のIFRSによる連結財務諸表を分析することには十分に意義があることでしょう。

●連結財務諸表におけるIFRSと日本基準の比較

 日本電波工業の日本基準による連結損益計算書と、IFRSによる連結包括利益計算書を比較したものが以下となります。

7-1.JPG

 これによると、日本電波工業ではIFRSを適用した決算において、売上高、当期(純)利益についてはそれほど影響が大きくなかったと言えます。一方で、営業利益は4,855百万円から3,979百万円へと876百万円も減少しています。その理由は、従来の日本基準において、営業外損益項目や特別損益項目で処理されていたものが、日本基準にはない「その他の営業収益」や「その他の営業費用」に含まれることとなり、営業利益計算上に影響を与えることとなったためです。具体的には、固定資産廃棄損、減損損失、休止固定資産減価償却費、和解費用等が記載されています。従来の日本基準では臨時巨額なものはすべて特別損益で処理し、それらの影響を排除した営業利益や経常利益を重視する傾向がありました。しかしながら、IFRSが導入されると上述のように、これら臨時巨額なものと言えども営業利益計算上に含まれてくることから、これらも含め安定的な経営を行っていくことが求められることでしょう。
 一方で、投資家からすると、営業利益に臨時巨額な損益が含まれることとなったことから、一会計期間における本業の儲けを簡単には把握することができなくなったという意味では少々扱いにくくなっています。
 以下、日本電波工業のIFRSによる決算における主要なポイントとして、「売上高(収益認識)」「有形固定資産(減価償却等)」「その他の変更点」について解説していきます。

●売上高(収益認識)について

 IFRSでは、「出荷基準」が全部否定されるわけではないものの、顧客に商品等の経済価値やリスクが移転した時点で売上高を計上する「着荷基準」又は「検収基準」が中心になると言われております。仮に出荷基準が認められず、着荷基準又は検収基準となった場合には、決算月において着荷又は未検収のものは、在庫として計上する必要があります。
日本電波工業では、リスクと経済価値が顧客に移転したタイミング(着荷基準等)で売上高を計上していることから、日本基準と比較して約60百万円売上高が減少しています。これは、日本電波工業の連結売上高の1日分にも満たない影響であり軽微であったことがわかります。
 一方で、棚卸資産が約43百万円増加していますが、これは、出荷済み未着荷の製商品について在庫として計上したことによるものと推測されます。
 ちなみに、着荷基準「等」となっておりますので、実際、すべての取引に厳密に着荷基準を採用したのではなく、一部についてはみなし着荷基準(出荷日の1~2日後を着荷日とする方法)を適用したのではないかとの推測も生じます。大型機械等の製造・販売を海外向けに行っている企業等では、出荷基準→検収基準という変更で売上高への影響が非常に大きくなることが予想されましたが、日本電波工業では出荷基準→着荷基準という変更がそれほど影響を及ぼさなかったようです。

●有形固定資産(減価償却等)について

 わが国のほとんどの製造業の企業は、税法の耐用年数に基づく定率法で減価償却を行っていることでしょう。しかしながら、IFRSでは規則性より実態との整合性を重視します(原則主義)。そのため、減価償却方法も耐用年数も日本基準とは大きく異なります。生産拠点としてのアジア各国では定額法による減価償却を行っていることが一般的であり、今後は会計方針の統一の観点から定額法を採用するケースが増えることでしょう。
このように有形固定資産については、減価償却方法をはじめとして、IFRS導入による影響が大きいと言われます。日本電波工業の決算について、(1)減価償却方法の変更、(2)耐用年数の変更、(3)残存価額の変更の3点について分析していきたいと思います。

(1)減価償却方法の変更
 日本電波工業の決算において、減価償却方法が定率法から定額法へ変更されました。固定資産の経済的価値の費消状況として、定額法が実態にあっているとの判断をしたということでしょう。この結果、定率法によった場合と比較して、減価償却費が約8億円程度減少し、税引前利益がその分増加しているようです。
 下記(2)(3)の影響もありますが、最も減価償却費への影響が大きかったのが減価償却費の変更であると言えるでしょう。これは短期的には利益の増加要因になっていますが、一方で中長期的に見ると将来的な費用の負担要因とも捉えることができるでしょう。

(2)耐用年数の変更
 耐用年数は、当該資産を保有する企業にとっての期待効用の観点から検討されます。したがって資産の耐用年数の見積りは、企業の当該資産の過去の使用実績や、同様の資産を有する企業の使用実績等に基づいて判断されることとなります。
 日本電波工業は、すでに2009年3月期において日本基準とIFRSともに主要な機械装置等の耐用年数を短縮していました。法人税法上の法定耐用年数が、実際に使用できると期待される期間と整合していないとの判断をしたということでしょう。
 耐用年数を短縮すると減価償却費は増加しますが、上述のように、減価償却方法を定率法から定額法へ変更しており、これによる減価償却費減少要因のほうが効果が大きかったため、結果的に減価償却費が約8億円程度減少していると考えられます。

(3)残存価額の変更
 残存価額については、耐用年数到来後に廃棄が予定されているか、それとも中古市場等での販売を予定しているかなど、設備ごとの処分方法を予測し、それに応じて残存価額を見積もることになります。
 日本電波工業は、IFRSで2008年3月期において「機械装置」、「工具器具及び備品」の残存価額をゼロにし、2009年3月期において「建物及び構築物」の残存価額をゼロにしています。
 過去実績より、残存価額による処分を行うことができなかったことからそのようは判断をしたのだと思われます。
 残存価額をゼロとすると、毎期の減価償却費は増加しますが、上述のように減価償却方法の変更による減価償却費減少要因のほうが効果が大きかったようです。

●その他の変更点について

(1)新株予約権付社債
 IFRSでは新株予約権付社債のような複合金融商品を、負債と資本に区分し、負債項目の一部を公正価値(Fair Value)で評価します。日本電波工業の決算では、新株予約権付社債について当該会計処理を行ったことから、社債が減少し、一方で、社債償還益の増加と社債利息の増加があり、日本基準と比較して約449百万円税引前利益が増加しています。

(2)有給休暇引当金
 IFRSでは有給休暇を費用として見積り計上する必要があります。日本の有給休暇制度をみると、有給休暇の消滅時効は2年であり、累積有給休暇に該当し、有給休暇の付与が前年度の勤務が条件になっていることから、負債として計上する必要があります。日本電波工業の決算でも2010年3月期において約427百万円の有給休暇引当金を計上しています。ただし、日本企業の場合あまり有給休暇の消化率は高くないため、初年度の計上時にはインパクトは大きいものの、その後はさほど影響額は大きくないものと考えます。
 
(3)その他包括利益
 IFRSでは 「その他の包括利益」、「当期包括利益」 という、日本基準にはない新しい概念があります。その他包括利益には、主に海外資産の為替換算調整勘定や保有株式の評価差額等が含まれます。従来は貸借対照表に計上されていたものが、包括利益計算書に計上されることとなったという変化であることから、投資家は期間損益を見る上では、当期包括利益ではなく当期利益を重視することが予想されます。
 日本電波工業の決算では、その他包括利益として為替換算調整勘定、保有株式の評価差額が計上されており、当期包括利益は当期利益よりも約169百万円減少しています。

(4)注記情報の増加
 日本電波工業の2010年3月期の有価証券報告書は115ページでした。2009年3月期の有価証券報告書は103ページでしたので、12ページ増加しています。従来の日本基準にはない注記事項が随所に見られます。そして、未適用の新基準及び解釈指針が22個ある旨の注記もあり、今後注記情報がさらに増加することが予想されます。

●IFRS導入に向けて

(1)早期に準備を進めること
 日本電波工業は、IFRSの適用を早期から準備をしていたため大きな混乱はなかったようです。しかしながら、業種によっては影響が非常に大きい企業も多いはずです。日本電波工業のようにうまくIFRSによる決算を行うことができるとは限らず、事前にできるだけ準備を進めることが重要となることでしょう。

(2)リスクの先送りをしないこと
 IFRSは公正価値を重視しており、価値の測定に対しては非常に厳格です。したがって、リスクを示す含み損についてはすぐに開示されることとなります。このように経営にとって重要なリスクを先送りしないことが重要であると日本電波工業の代表取締役会長兼CEOの竹内敏晃氏も仰っています。私たちはIFRSを通じて常にリスクに敏感に、そして変化に対応できるようにしなければならないことでしょう。


終わり

第6回 IFRS導入が会社に及ぼす影響(その2・有形固定資産)

汐留パートナーズ株式会社
公認会計士・税理士 前川研吾
ICAEW IFRS Certificate

●影響が特に大きい「有形固定資産」

 今回は、IFRS導入が会社に及ぼす影響が特に大きいものとして、「有形固定資産」について解説します。日本基準においては、有形固定資産についての概括的な規定はありませんが、IFRSにおいては、主に
・IAS第16号 有形固定資産
・IAS第36号 資産の減損
の2つの基準で有形固定資産に関する会計処理等が定められております。

 日本基準とIFRSでは主に以下の項目について差異があります。
・当初認識後の測定(原価モデルと再評価モデル)
・減価償却(償却単位、償却方法、耐用年数、残存価額等)
・資産の減損(減損の認識、減損損失の戻入れ)
 なお、平成22年4月から始まる会計年度より、資産除去債務の報告が義務付けられ、この点の差異は解消しました。
 以下、日本基準とIFRSの差異について確認するとともに、導入による影響について解説いたします。

●当初認識後の測定
 
 IFRSでは、有形固定資産を認識した後の測定方法として、以下の2つの方法が認められています。採用した方法は会計方針(アカウンティング・ポリシー)として企業が所有するすべての有形固定資産に適用されなければなりません。

(1)原価モデル(Cost model)
 有形固定資産を、その取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した額で計上する方法です。

(2)再評価モデル(Revaluation model)
 有形固定資産を、再評価日における公正価値から、再評価日を起点として発生する減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した額で計上する方法です。

 原価モデルは、日本基準と差異はありません。
 一方で、再評価モデルは、IFRSにしかない会計処理方法です。
 具体的には、資産を再評価した結果、資産の帳簿価額が増加した場合は、その増加額をその他の包括利益(固定資産再評価益)として認識し再評価剰余金の項目で株主持分に計上します。一方、再評価の結果、資産の帳簿価額が減少した場合は、その減少額を当期の費用(固定資産再評価損)として処理します。もし、一度固定資産再評価損を計上した資産について、資産の帳簿価額が増加した場合には、その再評価益については、当期損益として認識します。また、一度その他の包括利益で固定資産再評価益を計上している資産について、資産の帳簿価額が減少した場合には、その他包括利益の範囲内においては、その累積額を減少させるように処理します。
 このように、再評価モデルは実務的には非常に煩雑となるため、多くの企業は原価モデルを採用しています。

●減価償却

 IFRSでは規則性より実態との整合性を重視します(原則主義)。そのため、減価償却方法も耐用年数も日本基準とは大きく異なり、また、毎期見直す必要があります。日本基準とIFRSでは減価償却について、いくつかの重要な相違点があります。以下の5つの相違点については、ぜひ押さえていただければと思います。

(1)減価償却単位(コンポーネント・アカウンティング)
(2)減価償却方法
(3)耐用年数
(4)残存価額
(5)減価償却方法、耐用年数、残存価額の見直し

(1)減価償却単位
 IFRSにはコンポーネント・アカウンティングという考え方があります。コンポーネント・アカウンティングとは、有形固定資産を構成要素ごとに取得原価を分けて、それぞれに固有の減価償却方法、耐用年数、残存価額を適用するという考え方であり、これにより減価償却単位が細分化されることとなります。
 すなわち、一体として取得した設備であっても、ある部分が設備全体に対して重要な構成要素となっていて、しかも他の構成要素と異なる減価償却方法や耐用年数を採用すべき場合には、他の構成要素と区分して個別に減価償却を行わなければなりません。
 例えば、航空機は、日本基準では1機ごとを1つの資産として減価償却を行うと考えられますが、IFRSでは機体、エンジン、座席等の構成要素に分解し、それぞれを個別の資産として、適切な減価償却方法と耐用年数によって償却することになるでしょう。
 また、IFRSでは大規模な検査や交換が予定されている資産は、本体部分と取り換える部分を分けて会計処理して、検査や交換する時点で取替資産の取得と除却の会計処理をしているケースもあります。
 日本では、法人税法上の「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」や「耐用年数の適用等に関する取扱通達」の区分に基づいて減価償却計算を行う会計実務が一般的であるため、耐用年数が異なるものをひとまとめとして減価償却を行っているケースも多いと思われます。

6-1.JPG

(2)減価償却方法

 IFRSでは、減価償却方法については、固定資産の経済的価値の費消状況に応じた方法を選択適用することになります。
 経済価値の費消パターンについては、物理的価値減耗と機能的価値減耗がありますが、物理的価値減耗とは、使用による減耗・摩耗、時の経過による老朽化などをいい、機能的 価値減耗とは発明・新技術の発見などによる陳腐化、産業構造の変化にともなう経済的不適応化などをいいます。
 昨今の経済環境はITの高度化によって、機能的価値減耗の要素が非常に強いと言えます。技術革新の影響を受けやすい勘定科目である機械装置や無形資産については、定率法による減価償却が好ましいものと考えても不思議ではありません。または、生産高比例法や販売高比例法による償却方法が実態を表す場合もあるかもしれません。このように、業種業態及び個々の企業の生産環境等を総合的に考慮して個々に決定すべきです。
 欧米などの導入事例においては、定額法を採用するIFRS導入企業が多いとも言われています。いずれにせよ、同業他社の事例等を比較検討することが有用になると考えられます。

(3)耐用年数

 耐用年数は、当該資産を保有する企業にとっての期待効用の観点から検討されます。したがって資産の耐用年数の見積りは、企業の当該資産の過去の使用実績や、同様の資産を有する企業の使用実績等に基づいて判断されることとなります。日本においては、法人税法上の耐用年数が、実際に使用できると期待される期間と整合していないケースもあると思われますので、網羅的な見直しが必要になります。

(4)残存価額

 残存価額については、耐用年数到来後に廃棄が予定されているか、それとも中古市場等での販売を予定しているかなど、設備ごとの処分方法を予測し、それに応じて残存価額を見積もることになります。 IFRSでは、残存価額が重要ではない場合が多く、実務上は残存価額をゼロとして減価償却を行うケースが多いようです。

(5)減価償却方法、耐用年数、残存価額の見直し

 IFRSにおいて、減価償却方法、耐用年数、残存価額の見直しは、会計上の見積りに該当します。これらの見積は最低でも年1回、期末日に見直す必要があります。見直しの結果、以前の見積りと異なる場合には、会計上の見積りの変更として、変更が生じた期から修正します。日本では、これらの見直しが適時適切に行われていないことが多いと思われますので、有形固定資産の除売却時に多額の損益が発生することが実務上多かったのですが、今後はこのような現象は少なくなることでしょう。

●資産の減損

 日本基準とIFRSでは、資産の減損に関して基本的な点において差異はありません。しかしながら、主に以下の項目について差異があります。

(1)減損の兆候について
(2)減損損失の認識について
(3)減損損失の戻入れについて

(1)減損の兆候について
 日本基準では減損の兆候における具体的な数値基準が設けられていますが、IFRSではこのような数値基準はなく、減損の兆候となる場合がより広範囲に及びます。

(2)減損損失の認識について
 日本基準では、資産または資産グループに減損の兆候が認められた場合、減損損失テストを実施しますが、テストには割引前将来キャッシュフローを用います。一方で、IFRSではテストには割引後の将来キャッシュフローを用います。IFRSのほうがより厳しく、より早期に減損損失を認識することとなります。

(3)減損損失の戻入れについて
 IFRSでは、過年度に認識された減損損失(のれんを除く)は、減損損失が最後に認識されてから回収可能価額の算定に用いられた見積りに変更があった場合には、当該減損損失を戻入れます。この場合、資産の帳簿価額は例外を除き、減損損失の戻入れとして、その回収可能価額まで増額されます。日本では減損損失の戻入れは禁止されています。

●IFRS導入により有形固定資産関連で影響が及ぶ領域

(1)固定資産システムへの影響 
 固定資産システムは、これまでも減損会計や税制改正を受けて、機能の更新を続けていますが、今後、IFRSが導入され、減価償却方法、耐用年数、残存価額が毎期(複数回)変更されるのであれば、より一層柔軟なシステム設計が必要になるほか、コンポーネント・アカウンティングの実践にあたって、固定資産管理の運用を見直す必要が生じると考えられます。ERPに含まれる資産管理モジュールの活用など、今後の検討課題は大きいと考えられます。

(2)連結会計システムへの影響
 連結会計システムにおいて、未実現利益消去のモジュールに減価償却計算が組み込まれているものもあり、一部のシステムでは、新規連結時に評価替を行う減価償却資産の償却を管理する機能を内包しており、個別の固定資産システムと同様に機能追加が必要になると思われます。その一方で、将来的に個別の固定資産システムとシームレスに情報交換ができれば、処理漏れを防ぎ、網羅性を確保できるとともに、システムの二重投資を回避できるのではないかと考えられます。
 また、固定資産に関してもIFRSの特徴である膨大な注記情報が要請されるため、柔軟な連結パッケージの設計機能が重要であると考えられます。

 以上、有形固定資産会計はIFRS導入において非常に影響が大きい領域と言われます。その理由はわが国において過去から現在まで、法人税法の基準に準拠した処理を行ってきたからに他なりません。

 次回第7回では、日本電波工業株式会社のIFRS基準による連結財務諸表を参考に、IFRSの実例について解説いたします。
 

第7回へ続く

第5回 IFRS導入が会社に及ぼす影響(その1・収益)

汐留パートナーズ株式会社
公認会計士・税理士 前川研吾
ICAEW IFRS Certificate

●影響が特に大きい「収益(売上高)」

 今回は、IFRS導入が会社に及ぼす影響が特に大きいものとして、「収益(売上高)」について解説します。収益については、まずは売上計上基準を企業ごと定める作業が大変になりますが(アカウンティング・ポリシーの作成)、一方で、業務プロセス、情報システム、内部統制(J-SOX)、組織、管理会計(部門・人事考課含む)、予算制度など、影響が及ぶ範囲が非常多岐に渡るということも念頭に置かなければなりません。

●日本基準での収益認識

 我が国では、収益認識に関する包括的な会計基準は存在しませんが、1949年7月に設定された企業会計原則において、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」とされています。このように日本基準においては、実現主義に従い、収益認識を行います。
 一般的には、実現とは、商品又は役務の提供とそれに対する貨幣性資産(現預金、売掛金、受取手形など)の受領が要件となるとされています。しかしながら、日本基準において実現主義に関する具体的な考え方は特に定められてはいません。事業内容の多角化・複雑化や技術環境の高度化などを背景として、いつ、いくらで収益を認識するかなど判断が容易でないケースが非常に増えており、不適切な会計処理等につながっているとの指摘もあります。

●IFRSでの収益認識

 IFRSでは収益について次のように定義しています。

 「収益とは、株主等持分参加者からの拠出に関連するもの以外で、資本の増加をもたらす一定期間中の企業の通常の活動過程で生ずる経済的便益の総流入をいう。」

 ここでいう「経済的便益」とは、IFRSにおいては非常によく登場する概念であり、企業への現金等の流入に直接又は間接的に貢献する潜在的能力のことをいいます。
 収益認識の一般原則は、将来の経済的便益が流入する可能性が高く、信頼性をもって測定できることとされています。
 このように、IFRSでは抽象的な考え方の説明も多いのですが、実務上は具体的には、顧客との間でのリスクの移転条項がどのようになっているか、商品等の出荷とリスクの移転が同時に行われているかなど、より細かく取引形態について検討する必要があり、売上計上基準を決定していく必要があります。

●日本基準とIFRSの差異

 もし日本基準でしっかりと「実現」について検討がなされているのであればIFRSと大差がないかもしれません。2009年7月に日本公認会計士協会(会計制度委員会)から公表された、研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)-IAS第18号「収益」に照らした考察-」によりますと、日本基準とIAS第18号との間には、本質的な考え方の相違はないとされています。
 しかしながら、日本基準とIFRSとを比較すると、IFRSのほうが収益認識に対する考え方について深く議論を求めていると言えるでしょう。日本基準とIFRSとの差異について考える場合、論点としては例えば以下の項目が挙げられています。

(1)総額表示と純額表示
(2)収益認識時点(物品の販売)
(3)取引の識別(複合取引)

 後ほど、具体例を交えて、上記3つについて解説していきます。

●IAS第18号での収益認識基準

 IAS第18号では収益の形態別認識基準として、以下のように、「物品の販売」、「役務の提供」、「企業資産の第三者による利用」の3つの取引形態に分けて示しています。

(1)物品の販売
 ①所有に伴う重要なリスクと経済価値が移転していること
 ②重要な継続的関与がないこと
 ③収益の額を信頼性をもって測定できること
 ④経済的便益が流入する可能性が高いこと
 ⑤原価の額を信頼性をもって測定できること

 IAS第18号では、物品の販売に関してはこれら5つの要件をすべて満たした場合に収益を認識することができるとされています。

(2)役務の提供
 ①収益の額を信頼性をもって測定できること
 ②経済的便益が流入する可能性が高いこと
 ③原価の額を信頼性をもって測定できること
 ④決算日現在の進捗度を信頼性をもって測定できること

 IAS第18号では、役務の提供に関してはこれら4つの要件をすべて満たした場合に収益を認識することができるとされています。

(3)企業資産の第三者による利用
 ①収益の額を信頼性をもって測定できること
 ②経済的便益が流入する可能性が高いこと

 IAS第18号では、利息、ロイヤルティ及び配当を生む企業資産を第三者が利用することにより生ずる収益は、これら2つの要件をすべて満たした場合に認識することができるとされています。

 以上をまとめると次の通りです。

5-1.JPG

 このようなIFRSの規定を踏まえ、IFRS導入を検討している企業は、売上計上基準を決定していく必要があります。

 IFRSでの収益認識に関する会計処理の具体例

 IFRSでの収益認識について、会計処理を中心とした導入インパクトを具体例を交えてみていきたいと思います。 

(1)総額表示と純額表示
 百貨店や総合スーパーなどの流通業者では、実際に顧客に商品等が売れた段階で正式に仕入計上し、売れなければ商品等を返品し仕入れがなくなる、いわゆる消化仕入と呼ばれる取引形態があります。このような場合、重要な在庫リスクや与信リスク等を実質的に負担していない場合が多く、そのためIFRSでは、百貨店や総合スーパーなどの流通業者がリスクを取っていないと考え、売上高は仕入額を含めた販売総額(総額表示)ではなく、粗利に近い手数料のみ計上(純額表示)となります。
 大手百貨店では、約7割が消化仕入とも言われ、売上高が半減してしまうのではとも言われています。今後、売上高は企業規模を測るモノサシではなくなっていくことでしょう。

(2)収益認識時点(物品の販売)
 日本の会計基準では、一般的に商品等を販売する場合、顧客に商品等を出荷した時点で売上を計上する「出荷基準」が認められていますが、IFRSでは、「出荷基準」が全部否定されるわけではないものの、顧客に商品等の経済価値やリスクが移転した時点で売上高を計上する「着荷基準」又は「検収基準」が中心になると言われております。
 仮に出荷基準が認められず、着荷基準又は検収基準となった場合には、決算月において着荷又は未検収のものは、在庫として計上する必要があります。これら在庫は棚卸をすることができないため、管理をどのように行うかなども検討する必要があるかと思います。

5-2.JPG

(3)取引の識別(複合取引)
 さらに、情報サービス産業におけるソフトウェア取引や、工事契約に関する施工者の会計処理において、ある1つの取引が経済的に分割される複数の取引から構成されている場合(複合取引)には、それぞれを分割して収益認識を行わなければなりません。例えば商品等の販売価格にアフター・サービスに対する識別可能な金額が含まれているような複合取引の場合、商品等の販売自体の構成要素と販売後のアフター・サービスの構成要素とに識別し、それぞれに対して収益認識要件を適用することになります。その結果、商品等の販売自体の構成要素に対しては物品の販売に係る収益認識要件が適用される一方、販売後のアフター・サービスの構成要素に対しては、役務の提供に係る収益認識要件が適用され、サービス提供期間に応じて収益認識を行います。日本基準ではこのあたりの取り扱いが曖昧であり、一括して収益認識の会計処理がなされているケースがあると考えられます。 

●IFRSでの収益認識により影響が及ぶ領域

 IFRS導入により会計処理面でのインパクトがあることは上述したとおりですが、合わせて業務プロセス、情報システム、内部統制、組織、管理会計、予算制度など、多岐にわたる影響を網羅的に把握しておく必要があります。
 例えばIFRSの導入により売上計上のタイミングや認識される金額に変化が生じる場合で、売上データの集計・確認作業が経理部門ではなく、営業部門等でほぼ完結している場合を想定します。
 この場合には、営業部門の業務プロセスに影響が及ぶだめ、業務プロセスの変更等が必要となります。場合によっては、取引先との調整が必要となる場合もあります。また、その集計・確認作業が情報システムにより行われているならば、情報システムの改修・バージョンアップ対応等が必要となります。結果として、内部統制評価上も、業務記述書、フローチャート、リスク・コントロール・マトリックス(RCM)等の修正が必要となります。その他、組織変更、部門・人事考課を含む管理会計体制、予算制度の見直し等、IFRS導入による影響は多岐に渡ることでしょう。

●IFRS導入における注意点

 IFRS導入にあたって、注意すべき点は、企業によって顧客との契約内容や取引条件が様々であることです。IFRS導入に際しては、顧客(買い手)とのリスク移転条件、買戻条件、取引慣行などをどのように考えるべきかを含め、取引種類ごとに売上計上基準の妥当性を検討していく必要があります。IAS第18号は収益認識・測定についてのプリンシプル・ベースであるため、判断に迷う際はこの原則に立ち返る必要があります。
 また、IAS第18号では収益の認識に関して具体的な会計方針が開示されることが要求されています。収益の認識は、企業の経営成績を表す包括利益計算書の起点となるものであり、その計上基準を重要な会計方針として具体的に開示することは、財務諸表利用者が企業の経営状況を理解し、投資意思決定を行う上で非常に重要であるためです。したがって、財務諸表利用者に対して、説明可能な合理的な収益認識のルールを定め、適切に運用していく必要があります。
 このように、企業経営に大きなインパクトを与える収益認識における日本基準とIFRSとの差異については、早急に対応準備を進めていく必要があります。
 次回第6回では、IFRS導入が会社に及ぼす影響が特に大きいものとして、「有形固定資産」について解説します。
 

第6回へ続く

第4回 導入にあたっての重要ポイント(その2)

汐留パートナーズ株式会社
公認会計士・税理士 前川研吾
ICAEW IFRS Certificate

●IFRS導入にあたっての課題・ポイント(続き)

 前回第3回では、IFRS導入のポイントとして、「連結先行と連単分離」と「アカウンティング・ポリシー(会計方針)と重要性の数値基準」について解説させていただきました。今回第4回では「業務プロセスとシステムの見直し」と「二重帳簿対応と遡及修正対応」について解説します。

●業務プロセスの見直し

  IFRSによる財務諸表の作成は、経理部門に任せておけばいいのでしょうか。答えは「No」です。財務諸表は、様々な業務プロセスにおいて発生した数値が情報システムにより処理され、集積された結果として作成される会計報告書です。したがって、経理部門のみでIFRSへ対応することはできず、他部門の協力を得ながら多かれ少なかれ業務プロセスの見直しを行っていくことが必要となります。営業・購買・生産部門などにおいてもそれぞれ業務プロセスの見直しが必要となり、全社プロジェクトとして推進していくことが極めて重要です。
 営業部門や購買部門においては販売や購買の業務の流れを見直し、時には取引先も巻き込んでIFRSに対応する必要があります。例えば、売上の計上基準が出荷基準から着荷基準・検収基準になることが最も影響が大きいのではとも言われております。また、生産部門においても、工場の機械設備の減価償却方法が定率法から定額法に変わった場合には、原価計算の仕組みを見直す必要も出てくると思われます。
 このように、様々な業務プロセスに変更が生じると、各部門において把握される数値に変化が生じます。その結果、部門の業績評価に影響を及ぼす場合もあるでしょう。人事部門においては部門の業績評価の結果、個人別人事考課、賞与算定等への影響が生じるものと思われます。
 また、予算・実績管理の対応においても、IFRS導入による影響が及ぶと思われますので、予算・実績管理を担っている部門(経営企画室等)においては、影響について理解をしておく必要があります。
 さらに、内部統制評価制度(J-SOX)への対応に関しても影響があるものと思われます。業務記述書(業務マニュアル)、フローチャート、リスク・コントロール・マトリックス(RCM)等を含めた内部統制の再整備も行う必要があります。
 IFRS導入における業務プロセスの見直しにおいては、変更が必要となる業務を見極め、社内、取引先及びシステム等への影響度合いを勘案しながら推進していくことが重要であるといえるでしょう。
 なお、業務プロセスの見直しとも関連して、IFRS導入による影響が大きいものとして「収益関連」、「固定資産関連」が挙げられると思います。これらについては、次回以降解説していきます。

●システムの見直し

 IFRS導入にあたっては、多くの企業においてシステム面への影響が大きいと言われております。大きく分けて、①基幹システム、②業務システムへの影響が重要であると考えます。

1.基幹システム

 IFRSプロジェクトを進める上で、まず基幹システムのあり方について考えることは非常に重要です。基幹システムのあり方として、コストや導入期間の問題を度外視すれば、最も理想的な形としては、親会社、国内連結子会社及び海外連結子会社を含めた連結グループにおけるグローバル統一システムとして、業務システムのみならず勘定科目、商品コード、取引先マスターなど様々な要素を統一してしまうパターンです。これにより究極的には、ボタン一つで連結財務諸表が作成できるようになると思われます。
 しかしながら、上記のような連結グループを横断するような基幹システムのあり方の実現は簡単なことではなく、大企業を除けば、実際は手作業が多く介在することになるのではないかと思われます。

2.業務システム

 IFRS導入に当たっては、前述のとおり、まずは基幹システムのあり方が重要ですが、次に個々の業務システムにも大きな影響があると思われます。例えば財務会計システム、連結会計システム、固定資産管理システム、販売・請求管理システム、原価計算・管理会計システムなどへの影響が予想されます。

<影響があると思われるシステムの例>
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 IFRSはムービングターゲット(Moving Target)であると言われ、改訂作業は継続的に行われています。IFRSが改訂された場合、アカウンティング・ポリシーやアカウンティング・マニュアルが改訂され、システム変更が必要となる場合があると思われます。このように、継続的なIFRS改訂に柔軟に対応するためには、基幹システム及び業務システムを連結グループ全体の視点により構築していくことが重要と言えるでしょう。

●二重帳簿対応と遡及修正対応

 前回第3回で、日本でのIFRS導入が「連結先行」、すなわち、連結財務諸表についてはIFRSを適用し、個別財務諸表については日本基準を適用するという形でスタートしたと述べさせていただきました。このように、連結先行を踏まえた場合、親会社はIFRSと日本基準の両基準による対応を常に念頭におかなければならなくなります。
 
1.二重帳簿対応

 IFRSと日本基準の2つに対応するため、親会社、国内連結子会社及び海外連結子会社からなる連結グループが取りうるパターンとしては、以下の3つが想定されます。なお、以下、海外連結子会社はIFRSの帳簿のみ作成することと仮定しています。

(1)親会社集中パターン
 このパターンは、親会社及び国内連結子会社が日本基準で帳簿を作成し、親会社が決算に当たり、親会社及び国内連結子会社の数値をEXCEL等の利用によりIFRSベースへ組み替える方法です。連結決算に当たり、国内連結子会社は親会社が数値をIFRSベースへ組み替えるために必要な各種情報を送付します。

 このパターンのメリットとしては、①個社においては従来の方法と日々の処理としては変わらないため対応しやすい、②システム対応等のコストが抑えられる、などが挙げられます。一方で、デメリットとしては、①IFRSへの組み替え作業が煩雑(特に期間利益が変わっていく場合には大変)、②決算早期化に支障をきたすおそれがある、③開示ベースの財務数値が管理会計数値と不整合になる、などが挙げられます。

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(2)個社分散パターン
 このパターンは、親会社、国内連結子会社及び海外連結子会社が、それぞれIFRSで帳簿を作成し、親会社及び国内連結子会社は、個別財務諸表作成及び税務申告のために、EXCEL等を利用しIFRSから日本基準への組み替えを行う方法です。

 このパターンのメリットとしては、①IFRSベースの連結財務諸表を作成する上で組み替え作業がなくなる、②決算開示の早期化が図られる、③開示ベースの財務数値が管理会計数値と整合する、④システム対応等のコストが抑えられる、などが挙げられます。一方、デメリットとしては、①IFRSから日本基準への組み替え作業が煩雑(特に期間利益が変わっていく場合には大変)、②経理部員が日々の処理をIFRSベースで行うことに順応するために時間を要する、などが挙げられます。

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(3)二重帳簿システム対応パターン
 このパターンは、親会社及び国内連結子会社において、システム上2つの帳簿をもたせる機能を構築する方法です。例を挙げますと、1つの仕訳から2つの帳簿を作成する機能などがこれにあたります。

 このパターンのメリットとしては、①IFRSベースの連結財務諸表を作成する上で組み替え作業がなくなる、②決算開示の早期化が図られる、③開示ベースの財務数値が管理会計数値と整合する、などが挙げられます。一方、デメリットとしては、①多額のシステム対応等のコストが発生する、②帳票を印刷保存する場合、紙のボリュームが膨大になる、などが挙げられます。

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2.過年度遡及修正

 IFRS基準書の中のIAS8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」では、①会計方針を変更した場合、②会計上の見積りを変更した場合、③過年度の財務諸表に誤謬を発見した場合、の取り扱いを規定しています。

①会計方針を変更した場合
 会計方針を変更した場合、原則としてその変更を過年度に遡及して適用します。開示されている最も古い期間の期首剰余金を修正するとともに、各過年度の数値についても修正を行います。過年度の影響を測定することが実務上困難な場合には、可能な限りで最も古い期の期首(又は日付)から修正を行うこととなります。

②会計上の見積りを変更した場合
 会計上の見積りを変更した場合、変更期間以降の将来に向けてその影響を損益に反映させていきます。

③過年度の財務諸表に誤謬を発見した場合
 過年度の財務諸表に誤謬を発見した場合、原則としてその誤謬が発生していた時点に遡及して適用します。開示されている最も古い期間の期首剰余金を修正するとともに、各過年度の数値についても修正を行います。過年度の影響を測定することが実務上困難な場合には、可能な限りで最も古い期の期首(又は日付)から修正を行うこととなります。したがって、日本基準でいう過年度損益修正項目は認められません。
 
 上記①~③のうち、①及び③において過年度遡及修正対応という問題が生じます。すなわち、過去の決算期間において仕訳入力を行う必要があることから、遡及期間の財務諸表の修正が必要となります。これについては手作業で行うことは非常に煩雑かと思われますので、過去の決算期間において仕訳入力を行った結果が、自動で遡及期間に渡って繰越処理できるようなシステム設計が必要になることでしょう。

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 次回第5回では、IFRS導入が会社に及ぼす影響が特に大きいものとして、「収益」について解説します。 

第4回へ続く

第3回 導入にあたっての重要ポイント(その1)

汐留パートナーズ株式会社
公認会計士・税理士 前川研吾
ICAEW IFRS Certificate

●IFRS導入にあたっての課題・ポイント

 IFRS導入にあたっての課題・ポイントは、企業ごとに業界、事業の特性等に応じて異なり、非常に多岐にわたります。例えば、業務プロセスの見直し、IFRSに対応できる社内管理体制の見直し、IFRS採用による企業業績への影響度合いの把握、マネジメント層へのIFRSの理解浸透、人材育成のための教育訓練制度、言語(英語)の問題、システム導入・改修、具体的なIFRS適用実務の積上げ、J-SOX(内部統制評価制度)への対応等です。その中でも、昨今議論がなされおり注目すべきものに次のようなものがあります。

・連結先行と連単分離
・アカウンティング・ポリシー(会計方針)と重要性の数値基準
・業務プロセスとシステムの見直し
・二重帳簿対応と遡及修正対応

 今回第3回では、IFRS導入のポイントとして、このうち「連結先行と連単分離」と「アカウンティング・ポリシー(会計方針)と重要性の数値基準」について解説していきます。次回第4回では「業務プロセスとシステムの見直し」と「二重帳簿対応と遡及修正対応」について解説します。

●連結先行と連単分離とは

 2010年3月期の決算において、日本電波工業株式会社(以下「日本電波工業」といいます。)がIFRSを適用し、日本で第1号のIFRS適用企業となりました。日本電波工業においては、連結財務諸表についてはIFRSを適用し、個別財務諸表については日本の会計基準を適用しています。このように、IFRSは我が国において「連結先行」という形でスタートを切りました。
 ゆくゆくは連単ともにIFRSを適用するということで「連結先行」による導入であると言われますが、一方でこれからも個別財務諸表については各国の会計基準を適用し続ける「連単分離」という考え方があります。我が国においては、会社法会計、税務会計、金融商品取引法会計と3つの制度会計が存在することから、法律間の調整が非常に煩雑になります。例えば、現時点においては会社法において配当可能利益を算定するうえで、IFRS基準を採用することは認められておりません。また、 税法上はいまだ確定決算主義を堅持しており、株主総会で承認された決算をベースに税務申告が行われることとなっています。
 さらに、「連単分離」を推し進めた結果、金融商品取引法ベースでの開示書類は連結ベースのみでいいのではないかとも考えられます。現在の上場企業の開示は連結ベースに重きが置かれており、また、四半期報告においては連結ベースのみの開示となっているためです。
 長期的には、各種の法改正を経た上で、単体と連結が整合性を取る方向で考えるべきでしょうが、短期的には、我が国における3つの制度会計、すなわち、会社法会計、税務会計、金融商品取引法会計というトライアングル体制の中では、制度として単体と連結の整合性を図ることは難しいのではないかというのが筆者の個人的な感想です。当面は「連結先行」なのか「連単分離」なのか、今後の動向に注目すべきと考えます。

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●連結の範囲と連結子会社の対応

 「連結先行」又は「連単分離」の議論があることについて述べさせていただきましたが、いずれにしても連結財務諸表をIFRSで作成するということには変わりありません。そこで、ここでは連結の範囲と連結子会社の対応について解説していきたいと思います。
まず、IFRSには、非連結子会社という概念がありません。日本では、例外規定や重要性基準により連結対象外として一部の子会社を連結の範囲に含めないことができましたが、IFRSでは原則として実質支配するすべての会社を連結しなければなりません。
 また、IFRSでは原則として連結子会社の決算期の一致も求めています。親会社(日本)は3月決算、子会社(海外)は12月決算という、3ヶ月間の決算日の差異は認められなくなります。諸外国での適用例を見ると、決算期変更により決算日を統一するか、統一できない場合には親会社の決算期に合わせて仮決算を行うことにより対応しているようです。
 さらに、連結グループにおける会計方針や勘定科目等の統一も今後より一層厳密に求められることになります。
 このように、IFRS導入にあたって連結ベースでの様々な対応が必要になることは間違いありませんが、これらの対応に関して、連結子会社は親会社にすべて任せておけばいいのでしょうか?答えはもちろん「NO」です。なぜなら、親会社がIFRS基準で財務報告を行う際には、連結子会社は非上場であっても、親会社がIFRS基準で連結財務諸表を作成するに当たって必要な情報の提供を行わなければならないからです。しかもその情報は極めて多岐にわたるため、連結子会社自身での情報収集作業が不可欠になります。そのためには、親会社は連結子会社へIFRS導入にあたって必要な協力を求めるとともに、連結子会社側でも親会社がIFRS導入にあたってどのような検討を行っているのかに注目する必要があります。
 しかしながら、IFRSがムービング・ターゲット(Moving Target)であり、上述した内容についてはまだ決まっていない重要事項が多数あるため、今後の動向に留意すべきでしょう。

●アカウンティング・ポリシー(会計方針)

 IFRSを導入するにあたっての重要なポイントとして、連結財務諸表作成に関する親会社と連結子会社との関係について述べさせていただきましたが、その中の会計方針の統一については、アカウンティング・ポリシーの策定が重要になります。
 第1回でIFRSの特徴ということで解説させていただきましたが、日本基準が「細則主義」と言われるのに対して、IFRSは「原則主義」と言われます。IFRSによる財務報告を実現するためには、原則に照らした個々の会計上の判断を行うことが重要です。その拠り所となるべきものが、アカウンティング・ポリシーであり、IFRSにおいては、企業は自社独自のアカウンティング・ポリシーを作成することが不可欠となります。
 具体的には、経理規程の下位にアカウンティング・ポリシーが位置づけられ、その下に、アカウンティング・マニュアルが位置づけられると考えられます。実務上は、まず、連結親会社が連結の視点よりしっかりしたアカウンティング・ポリシーを策定し、それを連結子会社へ展開します。しかも、国内連結子会社のみならず、海外連結子会社にも展開することとなります。連結子会社では、親会社が把握しきれていない自社特有の事象や自国特有の商慣行などを考慮して、様々な事象に対応可能となるように、連結グループのアカウンティング・ポリシーに適宜加筆し、親会社へフィードバックします。一方親会社は連結子会社からのフィードバックを受け、再度アカウンティング・ポリシーを見直します。このように試行錯誤を経て最適なアカウンティング・ポリシーの策定がなされるのではないかと考えます。
 アカウンティング・ポリシーについては非常にボリュームが多くなるものと予想されています。すなわち、IFRSの基準には詳細な規定がないため、各企業は会計規則や勘定科目を含む詳細なルールを策定しなければなりません。IFRS基準書や各事業プロセス等に応じ、体系立てて明瞭な作成が求められることになります。
 連結子会社には、連結グループのアカウンティング・ポリシーをよく理解し、親会社が連結財務諸表及び膨大な注記を作成する上で、必要な情報を適宜適切に提供できるようにすることが課せられます。したがって、今後は関係会社管理の一環として連結ベースでアカウンティング・ポリシーを整備し、運用していくことが重要となってきます。

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●重要性の数値基準

 企業と監査法人の間で見解の相違が生じるものの一つとして重要性の数値基準が挙げられます。企業にとっては、この重要性の数値基準によって煩雑な原則処理から逃れることができ、何かと便利な基準でした。時には、意図的に重要性の数値基準に触れないように取引のスキームを組むなど、重要性の数値基準が形式基準になってしまっている場合もありました。このように、日本基準では、「与えられたルールに従って処理をすれば問題がない」というように、経済実態を適切に反映しないような形式的な処理が行われることもあることが、問題視されています。
 例えば、関連当事者の開示については、日本では数値基準により開示対象を明確にしていました。また、リース会計についても日本ではファイナンス・リース取引と オペレーティング・リース取引の判定において数値基準がありました。
一方で、IFRSにおいては重要性に関する数値基準は一切ありません。IFRSは「細則主義」ではなく、「原則主義」として経済実態に最も適した会計処理を行うことが求められるためです。
 しかしながら、厳密な会計処理や表示を行うために必要なコストと、その結果得られるベネフィットとを比較し、ベネフィットよりもコストが大きくなってしまう場合には、簡便な処理や表示を認めるという重要性の原則自体は、IFRSになったとしてもなくなりはしないでしょう。
 IFRS導入後は、利害関係者における意思決定に影響を及ぼすかどうかを念頭に置き、企業と監査法人の協議により重要性の数値基準を決定することになるかと思います。我が国の実務上、前年度の財務諸表数値や当年度の予算に基づく財務諸表数値等を基礎として、一般的には次に掲げる事項が考慮されています。

・売上高に与える影響
・経常利益、当期純利益等の各段階の損益に与える影響
 (ただし、IFRSでは経常利益はなくなる)
・総資産に与える影響
・純資産に与える影響

 IFRS導入後は、重要性の数値基準をアカウンティング・ポリシーに織り込み構築していくことになるのではないでしょうか。次回第4回では「業務プロセスとシステムの見直し」と「二重帳簿対応と遡及修正対応」について解説します。

第4回へ続く

第2回 IFRS導入スケジュールについて

汐留パートナーズ株式会社
公認会計士・税理士 前川研吾
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●取り残された米国と日本

 2005年にEU域内の上場会社がIFRSの適用を義務づけられてから、IFRSを適用する国が急激に増加しているのが現状です。そんな中、先進主要国の中で、米国と日本だけが取り残される構図が浮き彫りとなっています。米国にも日本にも歴史ある自国の会計基準が存在し、IFRSをすんなりと受け入れることができなかったのです。

 しかし、米国も日本も、IFRSが国際的な会計の共通言語になりつつある中、時流に逆らうことはできず、IFRS導入についての検討を進めているところです。

●コンバージェンスとアドプション
 
 IFRSの対応方法には「コンバージェンス」と「アドプション」があります。コンバージェンスとは、日本語にすると「収斂」であり、自国の会計基準とIFRSの差異を解消するために、自国の会計基準をIFRSに近づけていくことです。一方、アドプションとは、日本語にすると「採用」であり、会計基準の差異を解消するのではなく、自国の会計基準を捨ててIFRSを採用することです。

 日本では、2011年6月末までにコンバージェンス作業を完了する予定です。例えば、2009年度は「工事契約に関する会計基準」、「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」など、2010年は、「資産除去債務に関する会計基準」、「棚卸資産の評価に関する会計基準(後入先出法の廃止)」などの会計基準が適用となっています。

 一方で、米国の証券取引委員会(SEC)は米国上場企業にIFRSを適用するかどうか(アドプション)について2011年に判断しますが、日本でもアドプションを視野に入れた動きが加速しています。IFRSはムービングターゲット(Moving Target)であると言われ、改訂作業は継続的に行われていることから、もはやコンバージェンスでは難しい状況であります。すなわち、日本基準をどんなに改訂してIFRSに近づけても、IFRSはまた改訂され変わってしまう・・・したがって、どこかでアドプションという決断をしなければならないのです。

●日本におけるIFRS導入の方法

 日本においては、2009年6月に金融庁が「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」を公表しました。これにより、日本において、IFRSへの取り組み方法がコンバージェンスからアドプションへと方向転換するに至りました。
日本では、任意適用を2010年3月期(年度)から、国際的な財務・事業活動を行っている上場企業の連結財務諸表に、任意適用を認めることが適当としました。これにより、日本電波工業株式会社(東証一部上場)が2010年3月期の決算からIFRSを適用し、日本で第1号のIFRS適用企業となりました。
 
 一方で、強制適用の是非は、2012年を目途に判断することとなっており、2012年にIFRSの強制適用を決定した場合には、2015年又は2016年に適用を開始することとなっています。米国がIFRS強制適用を決定した場合、日本もIFRS強制適用となる可能性が高いと言われていますが、もし、米国がIFRS適用を決定しなかった場合、日本が2012年に強制適用を判断するかどうかには疑問があると言われています。日本は過去、様々な事案について米国に追随するケースが多かったためです。

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●具体的な導入スケジュールは?

 3月決算の会社を念頭に、仮に2016年3月期からIFRSが適用となった場合を想定してみたいと思います。「2015年又は2016年に適用を開始」という言葉からだけでは、適用初年度が2015年3月期か2016年3月期か判断できないのですが、2015年3月期からの強制適用というのは時間的にも現実的ではないのではないかというのが筆者の個人的な感想です。そこで、以下では2016年3月期を適用初年度と仮定しています。
 
 まず、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」という基準の適用により、初年度であります2016年3月期は、2016年3月期のIFRS財務諸表のほかに、前期比較を可能とするために2015年3月期のIFRS財務諸表を作成し、開示する必要があります。そして、2015年3月期のIFRS財務諸表を作成するということは、2014年3月期の財政状態計算書(IFRSでいう貸借対照表のこと)を作成しなければなりません。つまり、IFRSで2年分の財務諸表の作成及び開示を行うためには、3年分の財政状態計算書の作成及び開示を行う必要があるのです。しかも、2014年3月期及び2015年3月期は、日本基準とIFRSの2つの財務諸表を作成しなければならないのです。したがって、初年度の導入作業は実務的に相当な負荷がかかることが予想されます。

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 また、IFRS導入作業が大変になる大きな要因として、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」に定められている、「遡及適用」があげられます。初年度IFRS適用企業は、最初のIFRS財務諸表(上記でいうと2016年3月期)の期末日時点で効力が発生するIFRSの基準を、一部例外はあるものの、基本的には全期間において適用することとなっています。つまり、過去からずっとIFRSを適用して財務諸表を作成していたかのように遡及適用する作業が伴うこととなります。そして、その際には、初年度より、「IFRSで認識することが要求されている資産及び負債を認識すること」、「IFRSで認識することが認められていない資産及び負債は認識してはいけない」、「認識されたすべての資産及び負債の測定にIFRSを適用すること」、などのルールに従い日本基準との調整を行わなければなりません。
 
 現在、進行中の事業年度が2011年3月期ですので、それほど多くの時間は残されていないように思えます。

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●IFRS導入スケジュール例

 海外のIFRS導入事例から見ても、まずは以下のような導入スケジュールが予想されます。ここでも2016年3月期においてIFRSが適用されるケースを想定します。業種、会社の規模、ビジネスの複雑性等により導入スケジュールは大きく異なりますので、ご理解いただければと思います。

●第1フェーズ:プロジェクトチーム結成(現在)
 プロジェクトチームを結成します。プロジェクトチームの結成にあたっては、経理部門のみならず、営業部や業務部などの事業部門や情報システム部門からのメンバーの選定も不可欠となります。

●第2フェーズ:影響度分析(現在~2012年3月)
 IFRS導入による影響度の分析を行います。その結果、会計方針、業務、情報システム、内部統制等に、どのような影響があるのかを大きな視点でとらえます。その結果を踏まえ、詳細なIFRSの導入計画を策定します。また、IFRSに対応できる人材育成のため、グループ会社向けの説明会や各種のトレーニングを含む教育研修を開始します。

●第3フェーズ:各種方針決定(2012年4月~2013年3月)
 詳細な影響分析を行い、その影響を考慮しながら、グループ会計方針書(アカウンティング・ポリシー)の策定、情報システムの要件定義を行います。この段階から、監査法人に内容の確認を行うことが重要と思われます。
 
●第4フェーズ:導入作業(2013年4月~2014年3月)
 グループ会計方針書を随時改訂しながら、また、情報システムの開発・改修作業を行いながら、各種規程・業務マニュアル類の整備等を行います。その際、内部統制(J-SOX)への配慮を行う必要があります。

●第5フェーズ:試行期間(2014年4月~2015年3月)
 財務報告プロセスや並行稼働期間の決算体制等の立案を行います。そして、日本基準による財務諸表とIFRS財務諸表とを並行して作成します。ここで作成したIFRS財務諸表は、初年度のIFRS財務諸表と比較して開示することとなります。

●第6フェーズ:初年度適用期間(2015年4月~2016年3月)
 IFRSに依拠して財務諸表を作成します。現時点では、適用初年度において第1四半期からIFRSを採用するか、年度末からIFRSを採用するかは未定です。

 IFRSの導入に当たっては、業種、会社の規模、ビジネスの複雑性等により準備期間はまちまちですが、実務対応上必要な期間として少なくとも3年程度はかかるものとされています。日本が2015年3月期よりIFRSの導入を決定した場合には、最低でも2011年4月から2014年3月の期間を準備期間として、また、2016年3月期よりIFRSの導入を決定した場合には、最低でも2012年4月から2015年3月の期間を準備期間とすることが望ましいと考えられます。

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 一部の大企業を除き、まだまだIFRSに関する準備は遅れがちだと思いますが、経営者(CEOやCFO)がIFRSに対する理解を正しく行い、IFRSプロジェクトチームの設置がなされていない場合には、設置を急ぐ必要がありそうです。IFRSの導入にあたっての課題や重要なポイントについては次回以降解説していきます。
 

第3回へ続く

第1回 IFRSとは

汐留パートナーズ株式会社
公認会計士・税理士 前川研吾
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●IFRSとは

 最近、新聞や雑誌で「IFRS」という文字を頻繁に見るようになってきました。会計業務に関係する方のみならず、たくさんの方々から「IFRSって何?」という質問を受ける機会が以前よりも多くなりました。

 IFRSとはInternational Financial Reporting Standardsの頭文字を取った通称であり、日本語では国際財務報告基準(または国際会計基準)といわれています。また、読み方も様々であり、「イファース」、「アイファース」、「アイエフアールエス」などと呼ばれています。

 現在のIFRSは、国際会計基準審議会(IASB)により設定された会計基準(IFRS)と、IASBの前身である国際会計基準委員会(IASC)により設定された会計基準(IAS)と、それらの解釈指針(SIC、IFRIC)から構成されています。今後は、IASBが既存のIASの改訂と新基準の公表を行っていきますが、現行のIASも新基準が公表されて廃止されるまではその効力を有することとなります。

 IFRSは2005年にEU諸国での統一基準として採用されました。その後採用する国が少しずつ増え、現在では世界100ヵ国以上の国々で採用されています。今後数年で150ヵ国以上にすぐに広まると予想されています。日本の会計基準がドメスティックな基準だとすれば、IFRSはその名のとおり、国際的な会計基準として世界共通の会計の言語として、今後ますます拡大が予想されます。このようにIFRSの採用が世界各国で拡大した理由としては、新たな会計基準を作ることや既存の会計基準を改定することよりも、IFRSを自国の会計基準としてそのまま採用してしまったほうが楽であるということが挙げられるでしょう。

●IFRSが必要となった背景
 
 IFRSが必要となった背景としては、企業活動及び資本市場のグローバル化があげられるでしょう。

(1)企業活動のグローバル化
 今日、海外における事業展開が従来にも増して進んでいます。その理由としては、市場拡大・開拓目的、低廉な労働力確保、安価な原材料調達、現地税制メリットの享受、為替リスクの回避などがあげられるかと思います。このように企業の事業展開がグローバル化するに伴い、海外子会社を含めたグループ会社管理を、統一された会計基準で行うことが必要となってきました。

(2)資本市場のグローバル化
 今日、従来にも増して投資家の投資行動がグローバル化しているといわれており、日本の東京証券取引所においても外国人投資家の影響力は極めて大きいとされます。このように外国人投資家がグローバルに投資意思決定を行う際に、各国の会計基準が異なっていれば、企業間比較が困難になり、市場自体の魅力も失われる恐れがあることから会計基準の国際的統一が求められることとなりました。
 一方で、他国の証券市場に上場し資金調達をする企業も増えています。その際に、IFRS基準を採用しなければ他国の証券市場への上場も難しく、スピーディーな資金調達が難しくなると思われます。その結果、企業の国際的競争力の低下をもたらす恐れがあるといわれています。

 このように、企業活動及び資本市場のグローバル化に伴い、国際的な活動を行う企業にとっては、会計の共通言語であるIFRSを採用することは必須といえるでしょう。

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●IFRSが適用となる日本企業
 
 IFRSが適用となる日本企業は、「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」(日本版ロードマップ)において以下の要件を満たす企業が想定されています。

①継続的に適正な財務諸表が作成・開示されている上場企業
②IFRSによる財務報告について適切な体制を整備し、IFRSに基づく社内の会計処理方法のマニュアル等を定め、有価証券報告書等で開示しているなどの企業
③国際的な財務・事業活動を行っている企業
 
 実際には、上場企業約3,700社が適用対象となるといわれています。
 
 一方で、非上場企業においては一般的には上場企業と比較してグローバルな投資の対象となっていないと考えられることから、現時点においては適用対象外となっています。2010年4月に金融庁から公表された「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」によりますと、そこでは、非上場の会社(中小企業など)に対するIFRSの強制適用は、将来的にも全く想定されていない旨のコメントがあります。

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●IFRS基準の特徴

 IFRSの特徴としては様々な点がありますが、例えば大きなポイントとしては、(1)原則主義、(2)資産負債アプローチ、(3)公正価値会計、(4)英語、が挙げられます。

(1)原則主義
 日本基準や米国基準は、数値等で示した詳細な会計処理まで規定しているため、細則主義といわれます。細則主義では数値基準等に触れなければ経済実態を適切に反映しないような形式的な処理を行うことが可能となり、この点が問題といわれています。一方で、IFRSでは詳細な規定をしておらず、原理原則を記述しており非常に抽象的であることから原則主義といわれております。原則主義においては、企業ごとに経済的実態をよく理解したうえでの判断、会計処理を行う必要がありますので、企業の負担増につながるといわれています。したがって、企業は独自にアカウンティング・ポリシー(会計方針)を規定する必要があります。

(2)資産負債アプローチ
 日本基準は、「期間損益」を重視した収益費用アプローチであるといわれています。これまで日本では一会計期間に獲得した利益に重きを置き、損益計算書を重視してきました。
一方でIFRSは「純資産」を重視した資産負債アプローチであるといわれます。IFRSでは時点での企業価値の測定として、保有する財産と負債の価値の測定に注目しています。その結果、純利益だけでなく、株の含み損益なども含めた一会計期間の純資産(資産と負債の差額)の増減額を包括利益としています。

(3)公正価値会計
 「公正価値(Fair Value)」とは活発な市場価格に基づく「時価」を意味しています。定義自体は日本基準とほぼ同じですが、IFRSでは市場価格がない場合の測定方法や開示方針などが日本基準と異なります。IFRSでは、上述した資産負債アプローチを採用しているため、資産、負債、その結果の純資産の測定を重視しています。
 日本でも会計ビッグバン以降、時価会計を導入しておりますが、IFRSではより広範囲において時価評価を行うことが求められてきます。

(4)英語
IFRSの正式版は英語であることから、我が国において利用可能であるためには、日本語での公表が不可欠であるとされています。しかしながら、日本語版は常に英語版から遅れて公表されることは避けられず、また、翻訳が適切になされない場合はIFRSの本質を理解できずに誤った解釈をしてしまう可能性もあります。

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●IFRSを導入するメリットとデメリット

 IFRSを導入するメリットとしては、(1)財務諸表の国際間比較が可能になる、(2)資金調達がしやすくなる、(3)連結グループにおける業績評価基準が統一化できる、などが挙げられます。

(1)財務諸表の国際間比較が可能となる
 IFRSという共通のモノサシで企業価値・企業業績を測定することにより、財務諸表の国際間での比較可能性が増します。例えば、従来は容易に行うことができなかった海外企業との財務諸表の比較が行いやすくなります。これにより、経営分析はもとより、海外企業とのM&A等も活発に行われることが予想されます。

(2)資金調達がしやすくなる
 IFRSによる財務諸表が全世界共通のものとなれば、外国人投資家が日本企業への投資がしやすくなるとともに、日本企業が海外の証券市場から資金調達を行いやすくもなります。また、その結果資金調達コストも削減できるものと考えられます。

(3)連結グループの業績評価基準が統一化できる
 連結経営が重視される今日、海外子会社まで含めたグループ管理が重要となっております。子会社がIFRSによる財務諸表を作成すれば、連結グループ内での業績評価基準が統一され、管理会計の観点からもメリットがあります。

 一方で、IFRSを導入することによるデメリットとして、(1)IFRS導入コストがかかる、(2)作業負担が増加する、(3)包括利益の特性上業績が大きく変動する、などが挙げられます。

(1)IFRS導入コストがかかる
 IFRSを導入するに当たっては、内部統制評価制度(J-SOX)が導入された時とは比べ物にならないほどの、コストがかかることが予想されます。例えば、業務プロセスの見直し、社内管理体制の見直し、IFRSに対応できる人材の育成、システムの改修・変更などです。また、IFRS導入後において、再度内部統制の整備及び運用を行う必要もあります。

(2)作業負担が増加する
 IFRS導入の過程及び導入後においては、経理担当者をはじめ、作業負担の増加が予想されています。IFRS基準の財務諸表と、税法基準の財務諸表と少なくとも2つの財務諸表を作成することから、二重に帳簿を作成する必要があるといわれています。また、IFRSによる開示書類においては膨大な量の注記が求められます。

(3)包括利益の特性上業績が大きく変動する
 IFRSによると業績評価指標として包括利益が重視されますが、包括利益には持合い株式の評価損益(含み損益)や、海外子会社の純資産の為替変動による評価損益(為替換算調整勘定)が含まれることから、業績が毎期大きく変動することが予想されます。安定して包括利益を伸ばしていくことは、包括利益の特性を踏まえると非常に難しいことと推測されます。

第2回へ続く
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