1.概要
ITの利活用を検討する企業が抱えやすい懸念点を、以下の3つに絞って取り上げたいと思います。
1.IT導入の効果がわからない
2.コストへの不安
3.従業員が使いこなせない
今や企業規模を問わず、ITの利活用の議論は避けては通れないものですが、検討していくにあたって、上記のような懸念点を、一つは抱えているのではないでしょうか。ITの利活用の検討をおこなう担当者や経営に関わる方は、社内の効率化、マンパワー不足の解消、売上の向上といった、ITツールへの期待と、さまざまな懸念点との板挟みに陥るということもあるかと思います。そこで、まずはITツールに共通する特徴を確認した後、具体的な懸念点の原因や対処法の一例を紹介することで、皆さまのIT導入検討の一助になれば幸いです。
2.ITツールに共通する特徴
まずはITツールに何を期待すべきかを確認するために、多くのITツールが持つ特徴を見ていきましょう。
特徴 | 詳細 | |
① | データ化 | ペーパーレス化と言い換えることもできます。ITツールの利用によってこれまで紙でおこなっていた業務をデータにすることができます。 データ化すれば、紙では面倒の多い管理・検索・確認・集計といった日々の処理の手間を大幅に削減することが期待できます。 |
② | 一元化 | ITツールは情報をリアルタイムで更新できるので、Excelで情報管理している際に生じるバージョン管理や複数ファイルが混在することによる混乱を無くすことができます。 また、紙とExcelの両方を利用する業務に関しては双方を廃止し、ITツールのみで業務を完結させることができます。 |
③ | 連携の高速化 | ITツール同士のAPI連携やCSVのインポート・エクスポートによって連携業務を高速化できます。 特に業務毎にさまざまな工夫が凝らされた、いわゆる「秘伝のExcel」を用いていると、複雑な算式の連続や処理のためのシートの増加などによって、連携に手間を要することも多いのではないでしょうか。 関連する複数の業務範囲にITツールを導入することにより、個々の業務のみならず、連携が高速化され、業務全体の最適化をおこなえます。 |
こういった特徴とITツール毎の機能が合わさることで、
・間接業務効率化によるコア業務の時間増加
・残業時間削減による人件費削減
といった効果を期待することができます。この特徴を踏まえて、具体的な懸念点について見ていきます。
3.懸念点と対処法
懸念点1:IT導入の効果がわからない
この懸念点の原因は偏に、「使ったことがない」ということではないでしょうか。使用したことのないITツールの効果の明瞭なイメージを、ホームページやパンフレットの数値、説明、画像のみで持つのは困難と言えます。特に数値化の難しい管理業務を効率化するITツールは、「本当に効率化されるのか?」という懸念に繋がりやすいでしょう。
ITツールの導入効果は、そのままIT導入の成否と置き換えられる重要な要素なので、きちんと実感を持って導入を進めることが最善と言えるでしょう。
対処法①:求める機能を明確化する【要件定義】
ITツールの効果を実感し、導入で満足感を得るためには、ITツールに何を求めるかを明確化することが必要です。当然のことではありますが、いくら機能が充実した安価なITツールを導入しても、求めていた機能がないのでは、そのITツール導入は失敗と言えるでしょう。こういった認識のズレによる失敗・不満足を生まないためには、ITツールの導入で、
どの業務の、何を、どのように、変えたいのか
という希望の明確化が必要です。
明確化された希望を元に、
・どのツールなら実現可能か
・実現可能なツールがない場合にはどういった代替案があるか
といった検討をおこなうことで、イメージとのズレによる失敗・不満足を防止することができるでしょう。
対処法②:体験版の利用
ITツールの導入効果を実感するには、各ITツールのホームページなどで公開されている無料体験版を利用することが効果的でしょう。体験版の利用時のポイントは、複数名の従業員の力を借り、本導入と同等の計画をおこなうことです。
本導入と同等の準備、導入、利用をおこなうことで、効果の他、導入にあたっての課題を明確化することができます。また、ほとんどの場合、体験版でおこなった設定を本導入時に引き継ぐことが可能ですので、工数の分散にもつながります。
体験版の運用で実感した効果と生じた課題を比較することで、
・本当に自社に必要か
・導入するには何が課題か
といった具体的な検討の材料を獲得することができます。
懸念点2:コストへの不安
コストはどの企業も必ず気にするポイントではないでしょうか。ITツール検討時にコストへの不安が生じる要因には、
・利用費が毎月大きな負担になる不安
・いくら掛かるか分かりにくい
という2つがあります。
ITツールのホームページに掲載されている料金体系やプランはさまざまで、特に複数のツールを比較検討している場合・複数の業務にITツールの導入を考えている場合には、混乱してしまうということもあるのではないでしょうか。
そこでまず、ITツールの料金体系によく見られる料金の種類を見ていきます。
種類 | 詳細 |
基本料金 | 固定利用料です。利用状況にかかわらず毎月など一定期間で定期的に生じます。 複数名で利用するITツールの場合には、一定の人数の利用料金が含まれている場合もあります。 |
従量課金 | ITツールの利用者1名当たりに掛かる料金です。勤怠や経費など管理・間接業務のソフトにおいてよく見られます。 ITツールにより、基本料が別に掛かるものと掛からないものがあります。 |
初期導入費 | ITツールの導入に係る初期設定料金です。必須な場合と任意で依頼が可能な場合があります。 過去に利用していた情報や各種マスタデータの引き継ぎなど、設定に必要な情報が多い場合には高額になる可能性があります。 |
最低料金 | 利用人数によって料金が変動するITツールにおいて、最低限支払う必要がある料金を指します。 最低○名分、最低利用料金○円といった表記のものが該当します。 |
オプション料金 | 基本機能の他、利用したい拡張機能に付されている料金です。 同様の機能を保持するITツールでも、必要とする機能が基本機能かオプション機能かによって料金を変動させる要因になります。 金額的には大きくないことが多いですが、毎月必要になるケースが多く、年間のコストを大きく左右することもあります。 |
この他、
・年払い・月払いといった支払いタイミング
・機能別のプラン
・下位プランではオプションの機能が、上位プランだと標準装備の場合がある
など、さまざまな要素が絡み合い、料金の検討を煩雑にしがちな面があります。
対処法①:ITツールを一つずつ導入する
複数のITツールの導入を検討している場合には、導入しやすいITツールから順に導入していくことが有効です。
検討が必要なツール・プランを絞り込むことで検討の複雑化を防ぐほか、部分的な効率化によってコストを削減し、削減したコスト分を別のツール導入費に充てる、といった無理のない効率化も可能になります。
導入計画は長期になりますが、一つ一つのツールの効果測定をしながら、堅実な業務効率化がおこなえます。
対処法②:要件定義をおこなう
今確認した料金体系の分かりにくさを解消するには、定義した要件を満たすことができるツール・プランを選別する発想になると良いでしょう。要件によって検討すべきツール・プランを絞り込むことで、必要になる費用の正確な検討が可能になります。
懸念点3:従業員が使いこなせない
従業員がITツールを使いこなせない原因には、大きく2つの要因が考えられます。
①必要な操作が多い
②画面の見方が分からない
双方とも、新しいITツールに苦手意識を持っている人の抵抗感を呼び起こしやすい要素でしょう。画面の見方はマニュアルの作成・活用で解決が望めますが、「必要な操作の多さ」はそうはいきません。
操作が増えるのは、導入段階で、
・ITツールの選択を誤った
・ITツールの無理な使い方で業務を構築した
など導入段階に原因がある場合が多いためです。
対処法:ITツールに業務を合わせる
ITツール導入時には、
①ITツールを業務に合わせる
②業務をITツールに合わせる
という2つの考え方があります。
①では現在の業務フローを変えずにITツールを利用するにはどうすればいいか、②ではITツールに合わせるためにどの業務をどう変えればいいか、ということを考えます。無意識に①の考え方をしてしまいがちではないでしょうか。
前提として、ITツールは多くの企業の最大公約数的な設計となっている場合が多く、個々の企業に完璧に合う、というケースは稀です。ここで既存の業務フローを守るためにITツールの想定を超えた無理な運用をおこなおうとすると、必要な操作の増加に繋がり、ITツールの僅かな仕様変更で業務フローが崩壊する可能性も孕みます。
IT導入で優先すべきは求める要件の達成、であり現在の業務フローを変えないことではありません。
ITツールの使いやすさを意識した業務フローの変更は、必要な操作を減らし、従業員の苦手意識を軽減することにも繋がります。
4.おわりに
ITツールの導入を、ただ紙をツールに置き換えただけ、という形で終わらせないためには、懸念点の解消を重ねることによる綿密な計画設計が必要です。今回取り上げた以外の懸念点についても、計画段階で可能な限り解消することを推奨致します。ITツールの導入・業務フローの構築でお困りの際には、是非お気軽にお問い合わせください。