汐留パートナーズ・ニュースレター 2019年11月号

はじめに

10月1日より消費税率が10%に引上げられたことに伴い、「キャッシュレス・ポイント還元事業」の運用がスタートしました。

これは8%の軽減税率と共に、増税負担を軽減するための新制度ですが、消費者にとっては「どこで」「何を」「どのような方法で支払って」買うのかにより、①軽減税率の対象か、②ポイント還元の対象かの組み合わせのパターンがいくつもあり、極めて混乱しやすい状況にあると言えます。軽減税率制度については過去に一度取り上げましたので(2019年8月号:https://shiodome.co.jp/news/3615/)、今回はキャッシュレス・ポイント還元事業について見ていきたいと思います。

概要

「キャッシュレス・ポイント還元事業」とは、消費税率引上げに対する需要平準化及び国内キャッシュレス化の加速を目的として、消費税増税後の9カ月間に限り、登録している対象店舗にて、対象キャッシュレス手段を利用して買い物することで、最大5%のポイントの付与、又は店頭での値引きがなされるシステムをいいます。

対象店舗

ポイント還元制度に登録している中小・小規模店舗が対象となり、大手量販店などの大企業は、ポイント還元の対象にはなりません。またフランチャイズチェーン傘下の中小・小規模店舗対象店舗では2%の還元となります。

 具体的には対象店舗には、店頭にポスターやステッカーが貼られており、また経済産業省のホームページやアプリにて対象店舗の検索が可能となっています。

※経済産業省ホームページ:https://cashless.go.jp/consumer/

対象キャッシュレス手段

主なキャッシュレス手段としては、クレジットカード、デビットカード、電子マネー、QRコード、モバイル決済などがありますが、店舗によって、対象となるキャッシュレス手段が異なるので留意が必要です。

自分が持っているキャッシュレス手段が対象であるか否か確認するには、決済事業者へ問い合わせるか、こちらも上記経済産業省のホームページにて確認が可能となっています。また、当該ホームページでは主要なキャッシュレス決済サービスの紹介も行っています。

おわりに

世界に目を向けると、欧米先進国ではデビットカードが生活の一部を担っていたり、既にキャッシュレス化は多く取り入れられています。

普段は現金決済が多いという方も、今回の「キャッシュレス・ポイント還元事業」をきっかけに、キャッシュレス決済を検討してみてはいかがでしょうか。その際に、対象店舗や対象キャッシュレス手段に関して、また同時にスタートした軽減税率制度も相まって、実務上迷われるケースも出てくるかもしれません。ご不明点等がございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせください。

正規・非正規雇用の平均給与の現状と「同一労働同一賃金」対応

◆企業が支払った給与の総額、7年連続増加

国税庁が租税負担の検討のため例年実施している「民間給与実態調査」の最新版が公表されました(2018年12月31日現在の源泉徴収義務者が対象)。

調査によれば、昨年中に民間の事業所が支払った給与の総額は、223兆5千億円(前年対比3.6%増)でした。給与総額の増加は7年連続のことです。

◆正規・非正規雇用の平均給与

また、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は440万円(同2.0%増)でした。この平均給与を正規・非正規雇用でみると、正規504万円(同2.0%増)、非正規179万円(同2.2%増)とのことです。

正規・非正規間では、給与に倍以上の格差があるといえます。

◆同一労働同一賃金まであと半年

2020年4月には、いわゆる「働き方改革関連法」(パート・有期法、改正派遣法等)による「同一労働同一賃金」がいよいよ適用され、企業は正規・非正規雇用での不合理な給与の格差を禁じられることとなります(ただし、パート・有期法の中小企業への適用は2021年4月から)。適用により、非正規雇用の平均給与は来年以降も増加するでしょう。

◆同一労働同一賃金による人件費増をどうするか

日本経済新聞(2019年9月21日付)が実施した「社長100人アンケート」によれば、同一労働同一賃金に対応した制度の導入により人件費が「増える」「どちらかといえば増える」と回答した企業は46.9%でした。

また、既に同一労働同一賃金に対応した制度整備を終えた企業のうち、「基本給・給与」を見直した企業は少なかったようです。同アンケートでは、非正規雇用に賞与支給を開始する企業は10.5%、非正規雇用の基本給を正規雇用並みに引き上げる企業は7.0%と少数でした。一方で、「手当・福利厚生」を見直したという回答が多く、たとえば「時間外・深夜・休日手当の割増率」を見直した企業は17.5%だったとのことです。

企業によって対応に差はありますが、給与を中心とする待遇格差の是正や、そのコストへの対応が必要です。大手他社の動向も参考にしつつ、対応を急ぎましょう。

Q 素因による減額とは?

Aさんは当社の元従業員です。Aさんは,当社において長時間労働を継続するうち,うつ病にり患したものの,これを知った上司においてAさんを休息させるための特段の措置をとることはありませんでした。結局,Aさんは自殺してしまいました。当社は,Aさんの遺族から損害賠償を請求されております。Aさんの自殺は,Aさんの健康管理につき当社が安全配慮義務を怠ったことに起因するとのことです。ところで,Aさんに対する周囲の評価は,極めてまじめで責任感が強い,完璧主義的傾向が強いというものでした。自殺というのはAさんの判断が介在してのことですし,Aさん自身休息を十分にとらなかったことも踏まえますと,全てが会社の責任なのかという疑問も過るところです。Aさん自身の要因について,何か考慮されることにはならないのでしょうか。

A 素因減額が認められるのは限定的です。

◆ 素因減額とは

判例上,損害賠償責任の範囲を判断するにあたり,被害者の素因が考慮されることがあります。素因とは,個々の人が有する身体的心理的素質のことです。たとえば,被害者が,加療50日と診断されたむちうち症について,実際は治療に10年もの歳月をかけたという件で,当該被害者の心理的素因による影響を考慮することにより賠償額を限定した判例があります。

◆ Aさんの場合

Aさんの件と同様の事態が生じて訴訟となった実例があります。同訴訟の第2審は,被害者のうつ病親和的性格,被害者自身休息をとっていないこと,家族の対応などを指摘して賠償額を限定する判断を示しました。しかし,最高裁は,当該被害者従業員の性格が,同種業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り,その性格等が損害の発生や拡大に影響を及ぼしたとしても,これを心理的素因として賠償額を限定することはできない旨判断しました。

たしかに,素因減額という法理は一般論としては認められた考え方ではあります。しかし,企業としては,Aさんのような件においては具体的適用段階で否定される可能性が高いことを念頭において労務管理を実施されるよう留意したいところです。