汐留パートナーズ・ニュースレター 2022年6月号

不動産の相続税評価に関する最高裁判決・雇用保険法改正と年度更新実務・無議決権株式

日頃よりお世話になっております。汐留パートナーズです。最近気温も上がってきておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

今月のニュースレターでは、税務より「不動産の相続税評価に関する最高裁判決」、労務より「雇用保険法改正と年度更新実務」、司法書士法人より「無議決権株式」について取り上げます。

令和4年3月30日に成立した改正雇用保険法では、段階的な雇用保険料の引き上げに注意が必要です。

今年は4月1日と10月1日の2回に分けて雇用保険料率の引き上げが行われます。料率が引き上げられることによる負担増もそうですが、本年は4月1日から9月30日、10月1日から来年3月31日のそれぞれの期間では概算保険料の計算時に注意が必要です。

この他、「失業等給付に係る暫定措置の継続等」や「求人メディア当のマッチング機能の質の向上」、「地域のニーズに対応した職業訓練の推進等」の計4つの措置が講じられておりますので、是非今月のニュースレターにて詳細をご確認ください。

 

はじめに

2022年4月19日、不動産の相続税評価に関する注目の最高裁判決が下されました。本件では、相続人は相続財産を財産評価基本通達に従って路線価にて評価したにもかかわらず、当評価方法が否認され、「財産評価基本通達6項」による鑑定評価額にて評価することが妥当とされました。今回は、当事案の概要及びポイントを見ると共に、今後の実務への影響について考えてみたいと思います。

事案の概要

不動産賃貸業を営む法人の代表者であった被相続人は、相続開始前3年5か月前に、賃貸用不動産(甲不動産)を約8億3千万円で取得し、相続開始前2年6か月前に、賃貸用不動産(乙不動産)も約5億5千万円で取得。甲・乙不動産の購入資金として、銀行から合計約10億円の借入。相続開始後、相続人は不動産の評価を財産評価基本通達に基づいて路線価で評価し、債務控除の上、小規模宅地特例を適用し、相続税ゼロとして申告。また相続開始後9か月後に乙不動産を5億1千万円で売却。これに対し、税務当局は財産評価基本通達6項に基づき、鑑定評価額(甲不動産:約7億5千万円、乙不動産:約5億2千万円)による評価が適正として更正処分。不動産購入価格や評価額等をまとめると下表の通りです。

  甲不動産 乙不動産 合計
購入価格(A) ¥837,000 ¥550,000 ¥1,387,000
借入額(B) ¥630,000 ¥425,000 ¥1,055,000
A-B ¥207,000 ¥125,000 ¥332,000
売却価格 未売却 ¥515,000
通達評価額 ¥200,040 ¥133,660 ¥333,700
鑑定評価額 ¥754,000 ¥519,000 ¥1,273,000

「財産評価基本通達6項」適用のポイント

財産評価基本通達6項は、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」というものです。即ち、財産評価基本通達による評価を原則としつつ、それが著しく不適当と認められる場合には、別の方法による評価を認めたもので、行き過ぎた節税対策に対抗する趣旨が汲み取られます。

本事案は、財産評価基本通達6項の適用の是非を巡ったものといえますが、最高裁判決にて適用が認められた背景としては、以下のポイントが挙げられます(実際の最高裁判決文は、裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan参照)。

判断ポイント 内容
①相続直前(超高齢者)の不動産購入 不動産の購入は、相続開始の3年5ヶ月前及び2年6ヶ月前(被相続人が90歳及び91歳の時)であり、相続直前。
②借入目的が節税対策のみ 融資時の稟議案に「相続税対策を目的」と記載があり、それ以外の経済的合理性が照明できなかった。
③時価と相続税評価額が大きく乖離 取得評価額や鑑定評価額と路線価評価に約4倍の乖離。
④短期間での不動産売却 乙不動産は相続開始直後(9ヶ月後)に売却。
⑤過度な借入額 不動産購入原資の大部分が借入金、かつ、借入完済予定は購入者の平均余命を超過していたことから、相続財産評価における債務控除を目的とした借入と見なされた。

おわりに

当判決の今後の実務への影響を考えると、まず、銀行や不動産会社による過度な節税対策としての不動産購入や借入金実行の提案は減少するでしょう。また相続税対策においては、不動産の購入・売却タイミングや、不動産所有や借入金実行の節税以外の経済合理性などを、より一層検討することが必要になると思われます。ご不明点等ございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせ下さい。

 

雇用保険法改正と年度更新実務

令和4年3月30日に改正雇用保険法が成立し、雇用保険料率が引き上げや、失業等給付に係る暫定措置の継続等についての措置が講じられています。

1.雇用保険法改正の概要

今回の雇用保険法の改正では、大きく4つの措置が講じられています。

失業等給付に係る暫定措置の継続等(一部を除き4月1日施行)

  • 雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例や、雇用機会が不足する地域における給付日数の延長、教育訓練支援給付金等の暫定措置を令和6年度末まで継続するとともに、コロナ禍に対応した給付日数の延長の特例について、緊急事態措置の終了日の1年後までを対象とする等の見直しを行う。
  • 基本手当の受給資格者が事業を開始した場合等に、当該事業の実施期間を失業等給付の受給期間に算入しない特例を設ける。
  • 雇用保険受給者が求職者支援制度に基づく訓練を受ける場合に、訓練延長給付等の対象とする。

求人メディア等のマッチング機能の質の向上(10月1日施行)

  • 新たな形態の求人メディア(ネット上の公表情報を収集する求人メディア等)について「募集情報等提供」の定義に含めるとともに、募集情報等提供事業者を、雇用情報の充実等に関し、ハローワーク等と相互に協力するよう努める主体として法的に位置づける。
  • 募集情報等提供事業者に対し、募集情報等の正確性や最新性を保つための措置、個人情報保護、苦情処理体制の整備等を義務づけるとともに、現行の助言・指導に加え、改善命令等の指導監督を可能とする。特に求職者情報を収集する募集情報等提供事業者は事前に届出を行うこととし、迅速な指導監督を可能とする。

地域のニーズに対応した職業訓練の推進等(10月1日施行)

  • 職業訓練に地域のニーズを適切に反映すること等により、効果的な人材育成につなげるため、関係者による都道府県単位の協議会の仕組みを設ける。
  • キャリアコンサルティングの推進に係る事業主・国等の責務規定を整備する。

雇用保険料率の暫定措置及び雇用情勢等に応じた機動的な国庫負担の導入等(4月1日から施行)

  • 雇用保険の失業等給付に係る保険料率(原則0.8%)について、令和4年4月~9月は0.2%、10月~令和5年3月は0.6%とする。
  • 求職者給付の国庫負担割合について、雇用保険財政や雇用情勢に応じて異なる国庫負担割合を適用するとともに、別途国庫から機動的に繰入れ可能な仕組みを導入する。また、育児休業給付等の国庫負担割合の引下げの暫定措置を令和6年度まで継続し、求職者支援制度の国庫負担割合の引下げの暫定措置は、当分の間、本則(1/2)の55/100とする。
  • コロナ禍への対応のための失業等給付等への国庫からの繰入れ及び雇用安定事業に係る国庫負担の特例の暫定措置を令和4年度まで継続する。
  • 育児休業給付費及び雇用安定事業費の財源について、積立金からの借入れを可能とする暫定措置を令和6年度まで継続するとともに、当該借入額について、返済の猶予等を可能とする。

(厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律案について」より引用)

2.引き上げ後の雇用保険料率

雇用保険料率は、令和4年4月及び10月の2回に分けて、次の通り段階的に引き上げが実施されます。

〇令和4年4月1日~令和4年9月30日

負担者 ①労働者負担 ②事業主負担 ③雇用保険料率
一般の事業 3/1,000 6.5/1,000 9.5/1,000
(令和3年度) 3/1,000 6/1,000 9/1,000
農林水産・
清酒製造の事業
4/1,000 7.5/1,000 11.5/1,000
(令和3年度) 4/1,000 7/1,000 11/1,000
建設の事業 4/1,000 8.5/1,000 12.5/1,000
(令和3年度) 4/1,000 8/1,000 12/1,000

〇令和4年10月1日~

負担者 ①労働者負担 ②事業主負担 ③雇用保険料率
一般の事業 5/1,000 8.5/1,000 9.5/1,000
農林水産・
清酒製造の事業
6/1,000 9.5/1,000 11.5/1,000
建設の事業 6/1,000 10.5/1,000 12.5/1,000

3.年度更新時の留意点

上記の通り、雇用保険料の引き上げが段階的に実施されるため、雇用保険料の概算保険料については、令和4年4月1日から令和4年9月30日までの概算保険料と、令和4年10月1日から令和5年3月31日までの概算保険料額とをそれぞれ計算し、その合計額を令和4年度の概算保険料額として算出することになります。

もちろん、雇用したあとも配慮は必要です。日本語が理解できないことで機械の操作を誤り労働災害が起きてしまい、使用者責任を問われることがあります。実際、外国人労働者は日本人労働者よりも労災件数が多くなっており、特に製造業や建設業では注意が必要です。

 

はじめに

株式会社の株主は、その有する株式につき、株主総会における議決権を有しています。定款に別段の定めがある場合を除き、1株につき1議決権を有しますが、一定の場合、この議決権を行使することができないことがあります。自己株式はその議決権を行使することができないほか、自己株式の取得に関する株主総会の議案においては、その対象者たる株主は議決権は行使することができません。また、種類株式を用いて特定の種類の株式の議決権を制限することも可能とされています。

種類株式とは

株式会社は、特定の事項について異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます。この異なる種類の株式を発行している会社における各種類の株式のことを種類株式といいます。剰余金の配当や残余財産の分配について株式の種類ごとに差を設けられるほか、株式の種類ごとに議決権の有無を設けることもできます。

議決権の有無

株式の種類ごとに株主総会において議決権を行使することができる事項を定めることができますので、例えばA種類株式は議決権あり、B種類株式は議決権なし、C種類株式は取締役の選任議案についてのみ議決権あり、という設計も可能です。なお、種類株式の名称は自由に設定することができます。実務的には、上記C種類株式のように特定の事項についてのみ議決権を行使することができるという定め方は少なく、上記A種類株式又はB種類株式のように議決権があるかないか、という定め方が多いのではないでしょうか。

完全無議決権株式は可能か

上記B種類株式のように議決権がない種類株式(無議決権株式と呼ばれます)の株主は、議決権を一切行使することができないのでし ょうか。無議決権株式という名称から、議決権を行使する状況は全く無いように見えますが、無議決権とは原則として株主総会における議決権を対象としていますので、例えば種類株式を追加発行するときや、種類株式を目的とする新株予約権を新たに発行するときに必要となる種類株主総会における議決権も排除するのであれば、その旨も定款に記載する必要があるでしょう。

ただし、株式の種類の追加や株式の内容の変更といった会社法322条1項1号に列挙された事項に関する種類株主総会の決議は、どうやっても排除することはできません。つまり、新たに種類株式を設計する予定のある株式会社は、無議決権株式にかかる種類株主総会の決議も必要であることを理解して無議決権株式を導入する必要があります(無議決権株式の株主がノーと言えば新たな種類株式を設計することができません)。

無議決権株式と残余財産の分配

100株発行している株式会社において、普通株式1株を有している株主Xと無議決権株式99株を有している株主Yがいたときに、株主総会では議決権100%を有している株主Xがその全ての議案を通すことが可能です(ただし、会社法322条に注意)。ところで、この会社が解散した、あるいはこの会社を第三者に売却したときはどうなるでしょうか。

解散したときの残余財産が1000万円あれば株主Yに990万円分配されますし(株主Xには10万円)、会社が1000万円で売れたのであれば株主Yに990万円の対価が支払われるでしょう(株主Xには10万円)。無議決権株式であったとしても、その株式には会社の所有権的な側面があるため、特に設立当初の「出資はするが議決権はなくてOK」という知人からの出資の打診には、上記を理解した上で応じるべきでしょう。なお、残余財産の分配についても株式の種類ごとに異なる定めを設けることもできますし、М&Aによるイグジットの際の分配に関しては、みなし清算条項により分配額を持株比率とは変えるという方法もあります。

種類株式は一度発行すると後で修正することはとても大変ですので、内容を十分に理解した上で導入することをお勧めします。

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