納税管理人が必要となるケースとは?
では、どのような場合に納税管理人が必要となるのでしょうか?納税管理人が必要となる代表的なケースをいくつかご紹介いたします。
1.海外に居住するため日本に住所を有さなくなる場合
日本の税金は、原則として日本に居住している「居住者」を対象としています。生活の本拠を海外に移し所得税法上の非居住者となる場合、日本国内において発生した所得について確定申告や納税等の義務を果たす必要があります。日本人が海外移住した場合に限らず、外国人(日本非居住者)が日本国内で所得を得る場合もこれに該当します。
(1)日本における不動産の賃貸・売却による収入がある場合
海外赴任にあたりある程度の年数が見込まれたり、海外へ移住するという場合、自身が所有している不動産を賃貸に出しその家賃収入を得る・不動産を売却するといったケースは少なくありません。このように、貸主・売主である非居住者が不動産収入を得る場合の所得は日本の国内源泉所得となり課税対象であるため、日本で確定申告を行う必要があります。
また、非居住者の申告漏れを防ぐため、一定条件を満たす場合は不動産の借主や買主によって源泉徴収が行われています。賃貸料から所得税が源泉徴収されている場合、不動産所得の計算結果いかんで、確定申告により所得税の還付を受けることができます。
(2)日本において株式等を売却した収入があるケース

株式等の有価証券の売却益は、原則として居住国で課税されます。したがって、日本非居住者の方であれば日本の株式を売却した売却益は基本的には課税対象とはなりません。しかし、非居住者の方でも次のようなケースでは株式の譲渡所得が課税対象となるため納税管理人を選任する必要があります。
- 日本の証券会社の口座で上場株式を所有している場合、非居住者の株式の売買は法律で禁止されているため、海外滞在中の証券口座は凍結されます。仮に株式の売却を目的として日本に滞在した場合は、規定により日本での譲渡所得として取り扱われます。
- 25%以上の持ち株を保有するオーナー経営者が非居住者となり自社株を売却する場合には、規定により日本国内での譲渡所得として課税対象となります。
このような規定以外にも、日本と居住国との間で締結されている租税条約の適用により日本で免税となる場合もあるため、海外転出予定の方が株式等の売却を検討している場合は、課税対象となるかを確認する必要があります。
(3)日本から配当・利子・ロイヤルティがあるケース
日本の企業から配当・利子・ロイヤリティを受け取る場合には、基本的には所得税が源泉徴収された後の手取り金額が支払われます。もし日本非居住者の方が、日本との間で租税条約を締結している国に居住している場合には、租税条約の適用を受けることで源泉徴収される税金の軽減・免税が可能となるケースもあります。そのようなときに納税管理人を選任することがあります。
2.海外に居住しているが相続税や贈与税の納税義務がある場合
日本非居住者の方が、親が亡くなって財産の相続を受けるときや、親から財産の贈与を受けるときに、相続税・贈与税が発生しないためには下記のいずれかの条件に該当していなければなりません。
- 相続人・受贈者が外国籍(日本と外国の二重国籍の場合を除く)であり非居住者である
- 相続人・受贈者と被相続人・贈与者の両者が、過去5年以内に日本に住所がない
所得税法上の「住所」の概念は、単に住民票を移すことではなく、生活と仕事の本拠を置いている場所とされています。つまりこの場合、親と子の両方が5年以上海外に居住している場合を除き相続税・贈与税が発生することになります。
例えば、住宅の購入資金として、非居住者の子が居住者である親より課税対象となる贈与を受けた場合、日本国内で納税管理人を選任し贈与税の申告・納税を行う義務があります。
3.海外に居住しているが住民税や固定資産税の納税義務がある場合

住民税は、1月1日現在の居住者に納税義務があります。また、固定資産税・都市計画税は、個人法人を問わず1月1日現在の不動産所有者に課税されるものです。これらの地方税は非居住者であっても課税されるため、国内居住者と同様、海外へ移住した日本人や日本国内に不動産を持つ外国人にも納税義務があります。よって、納税通知書や還付通知書の受領、税金の納付や還付金の受領に支障が生じる場合は、納税管理人を立てる必要があります。
4.外国企業で日本に本店や事務所等を有していない場合又は有しないこととなる場合
日本国内にPE(恒久的施設)を有しない非居住者である外国法人も、国内において課税資産の譲渡等を行い、かつ、その課税期間の前々事業年度の課税売上高が一定額を超える場合、消費税の納税義務が生じます。よって、納税管理人を選定し申告及び納税を行わなければなりません。
非居住者である外国法人に係る申告手続等の方法については、具体的には以下のようになっております。
(1)納税地の選択
国内に事務所等を有しない外国法人が申告又は届出等を行う場合には、あらかじめ適宜の場所を納税地として選択しておく必要があります。当該納税地はそれ以降最初に提出する消費税課税事業者届出書又は消費税課税事業者選択届出書に記載して届け出ることとなります。なお、選択する場所は基本的には納税者の最も便宜な場所となりますが、国内に事務所等までには至らないが、それに近い場所、例えば、関連会社、子会社、代理店等の国内における業務活動の中心となる場所がある場合には、当該場所を納税地として選択するものとします。
(2)申告書・届出書の記載要領
申告書等に記載する氏名及び名称等については、ローマ字表記のほか、カナ表記を行う必要があります。
(3)納税管理人の選任
当該外国法人については、別途、納税管理人を選任しなければなりませんが、当該選任及び解任の届出は、消費税納税管理人届出書及び消費税納税管理人解任届出書により行います。
5.出国税(国外転出時課税)の納税猶予を受ける場合
平成27年税制改正により、国外転出時課税制度、いわゆる出国税がスタートしました。これは、平成27年7月以降に日本から海外へ移住する非居住者が1億円以上の対象資産を所有する場合、その資産の含み益に所得税等が課税されるいう制度です。
また、居住者から海外の非居住者へ贈与等による資産の移転があった場合にも、同様に課税対象となります。つまり、これまでは課税対象とはならなかった未実現の利益が課税されることとなったのです。出国税について詳しくは「出国税とは?」をご覧ください。
このケースに該当すると、出国までに納税管理人の届出を行うかどうかにより、税制上の手続きが異なります。
納税管理人を置いた場合、様々な点でメリットがあります。まず、出国時には確定申告を行う必要はありません。また、出国税と利子税の合計相当額の担保の提供を行うことで、最大5年(届出により10年まで延長可)の納税猶予が受けられます。
さらに、この納税猶予制度を適用し5年以内に帰国した場合は、対象財産に係る所得税の減額措置を受けることも可能となります。
それに対し、納税管理人の届出を行わなかった場合は未実現の利益部分について転出時までに確定申告が必要となります。
このように、租税回避目的の国外転出や資産の移転に対し、それを阻止する動きが強まっています。ところが、純粋にビジネス上の理由に基づく経営者の海外移住に対しても適用されるため、どのような場合に納税の義務が発生するのか、自身のケースだと具体的にどうなるのかを専門家に確認することが重要です。弊事務所では出国税対応サービスをご提供しています。詳しくは「出国税対応サービス」をご覧ください。