遺産分割前の預貯金払戻し制度とは? -遺言書がない場合・遺言書がある場合-

   

遺産分割前の預貯金払戻し制度とは

遺産分割前の預貯金払戻し制度は、平成30年7月6日に成立した「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)」の一部で、令和元年7月1日に施行されました。

この制度は、請求できる額に制限はありますが、相続人の一人が単独で、遺産分割を待たずに、預貯金の払戻しを請求できる制度です。

遺言書がない場合

遺言書がない場合には、遺産分割協議によって財産を受け継ぐ人を決める、または、相続人の全員で法定相続分によって相続することになります。

遺産分割は、相続人の全員を調査することから始めます。

まずは、亡くなった方の、生まれたときからの戸籍を集め、相続人全員を確認します。

続いて、その相続人全員が現在も生存しているかを確認するために、相続人全員の戸籍も確認します。

そして、その全員で話し合い(遺産分割協議)をし、話し合いの内容を文書に纏め、遺産分割協議書を作成します。

この文書には、全員が実印で押印をします。

この文書をもとに銀行に預貯金払戻しを請求するときには、全員の印鑑証明書を一緒に提出しますので、全員が印鑑証明書を役所で取得する必要もあります。

話し合い(遺産分割協議)がすぐに纏まるか、全員の印鑑証明書がすぐに揃うかなどの事情によって、預貯金払戻しの手続きが始められないこともあるでしょう。
このようなときに利用されることが想定されています。
 

この制度を利用できる人

この制度を利用できるのは、相続人です。

まず、相続が発生したこと、つまり、被相続人が亡くなったことを証明します。

それから、この制度を利用し払戻しを請求する人が、自分が相続人であることと、自分の法定相続分を証明します。金融機関は、これをもとに限度額を算出し、払戻し請求に応じることになります。
 

払戻し請求の限度額

①預貯金債権の3分の1に相続分を掛け合わせた額

個々の預貯金債権(○○銀行 普通預金 口座番号○○○○○〇〇)ごとに、預貯金の残金の3分の1に相続分を掛け合わせ、算出された額が上限です。

②150万円

金融機関ごとに、150万円という限度額も定められています。

普通預金・定期預金の両方の口座があり、①の計算によって、100万円ずつ(合計200万円)と算出されたとしても、1つの金融機関ごとに150万円を超えて請求することはできません。

この場合は、①に基づいて、普通預金からも、定期預金からも100万円の範囲内で、②に基づいて、合計150万円の範囲内で、請求することができます。

参考:「民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令」(平成30年法務省令第29号)

遺言書がある場合

この場合は、この制度が利用されることはないのでしょうか。

遺言書で、例えば、金融機関がしっかりと特定され、「Aに相続させる」などと記されたとき、相続人Aさんは、単独で払戻し請求をすることができます。

この相続人Aさんにとって、この制度を利用する必要性はないでしょう。

それでは、その他の相続人にとってはどうでしょうか。
 

預貯金債権を相続しない人から払戻し請求がされた場合

上の事例をもとに、例えば、他の相続人であるBさんが、金融機関に払戻し請求をした場合は、どうなるのでしょうか。

この「遺産分割の預貯金払戻し制度」は、「遺産に属する預貯金債権」を対象としています。

この点、この事例(金融機関がしっかりと特定され、「Aに相続させる」などと記された場合)において、特定された預貯金債権は、相続開始と同時にAさんの権利となり、遺産に属さないものとなりますので、「遺産分割の預貯金払戻し制度」の対象にはならないのが原則です。

しかしながら、金融機関は、そのような遺言があることは知らないでしょう。

知らないのであれば、金融機関は、知るまでは、預貯金債権が遺産に属していることを前提に処理すればよいことになります。

この「知るまでは」という言い方は、ふわっとしすぎていて、かえってよくわからないかもしれません。この「知るまでは」を法律用語で言うと、「対抗要件が具備されるまでは」となります。

続いて、この言葉について説明しつつ、その方法についてお話します。
 

対抗要件を具備するために

まず、法律用語での「対抗」とは、当事者間で効力の生じた法的関係を第三者に主張することをいいます。

ここでいう「当事者間で効力の生じた法的関係」は、「遺言書で特定された預貯金債権の全てをAさんが相続する」という法的関係です。

そして、ここでいう第三者とは、金融機関です。これを主張するのは、Aさんです。

「遺言書の存在を知らないのだから、預貯金債権が遺産に属していることを前提に一部を他の相続人に払い戻せばよい」という立場の金融機関に対して、Aさんが、「私が預貯金債権の全てを相続するのだから、全額を私に払い戻して」と主張する(全額の払戻しを請求する)ために、「対抗要件が具備される」ことが必要なのです。

対抗要件が具備されることで、金融機関は、Bさん(他の相続人)からの払戻し請求に応じてはならないことになります。

それでは、Aさんは、具体的にどうしたらよいのでしょうか。

Aさんは、金融機関に対して、遺言の内容を明らかにして、つまり、遺言書の原本等を提示するなどして、確定日付のある証書によって、通知すればよいと考えます(令和元年7月1日に施行されたばかりで、金融機関の内部の運用等がどれほど整っているかは定かでありませんが、法律の趣旨から考えて、このように考えます)。

佐藤知江
 

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佐藤知江

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