遺言が少し身近なものになりました

   

遺言を残すということ

亡くなった後の財産処分

私たちは、生前だけでなく死後にも、自己の財産を自由に処分することができます。これが遺言を残すということです。
そして遺言は、原則は、遺言者の死亡の時にその効力が生じます。例外は、遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときです。このときは、遺言の効力は、条件が成就した時に生じます。

(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

-「停止条件付遺贈」とは-

「孫のA子が結婚したら、A子に甲土地と乙建物を遺贈する」というように、条件を付けて遺贈することを停止条件付遺贈と言います。停止条件の「停止」とは、条件が成就するまでは、遺贈の効力が「停止」すると考えるとわかりやすいでしょう。
A子さんが結婚するよりも前に遺言者が亡くなった場合には、A子さんが結婚したときに遺言の効力が生じます。
A子さんが結婚した後に遺言者が亡くなった場合には、遺言者が亡くなったときに効力が生じます。
そして、A子さんが結婚しないことが確実となった場合には、その遺言は無効となります(遺言で特に指定のなかったものとして、法定相続人に相続されます)。

遺言書がないときの財産の帰属

民法が相続人の相続分を定めていますので、遺言がないときは、これに従って遺産を分けることになります。
これを「法定相続」といいます。

【改正】法務局での保管

令和2年7月10日からは、法務局に対して「自筆証書遺言」の保管を申請することができるようになります。
平成30年7月6日、法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)が成立し、令和2年7月10日にこれが施行されるためです。
この運用が始まると、申請がされた遺言書は保管され、相続人は、遺言書の画像情報等を用いた証明書の交付を請求したり、遺言書原本の閲覧を請求したりすることができます。なお、法務局に対する相続人のこれらの請求は遺言者が亡くなった後にのみ認められています。
後述するとおり、この運用が始まるまでは、「自筆証書遺言」の場合には、自宅等を探すしかありません。

【改正】自筆証書遺言の方式の緩和

民法第968条では、自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、遺言書の全文、日付及び氏名を自書(自ら書くことを言います)し、これに印を押さなければならないと定められています。
改正によって第2項が新しく設けられ、自筆証書によって遺言をする場合でも、自筆証書に相続財産の目録を添付するときは,その目録については自書しなくてもよいことになりました。これによって、パソコンで目録を作成することや、通帳のコピーを目録とすることが認められ、これを遺言書に添付すればよいことになったのです。
しかしながら、目録の各頁に署名押印をしなければならないと定められていますので、この点にはご注意ください。

遺言(遺言書)があれば・・という事例

次のようなケースでは遺言書を作成するのが望ましいと考えます。

相談事例1 被相続人が外国国籍を有している・有していたとき

夫が亡くなりました。
夫名義のマンションを売却したいのですが、どうしたらよいでしょうか?
夫は、私と結婚した後、30歳のときに帰化により日本国籍を取得しています。
私どもの間に子供はいません。
夫は中国で生まれ、両親は、ずっと中国で暮らしていましたが、既に他界しています。
夫には兄弟が何人かいたなと記憶していますが、連絡はとっていません。
なので、彼らが生きているか、どこで暮らしているかなど全くわかりません。
今の住まいで1人で暮らしていくのは難しく、これからの生活のために、なるべく早く不動産を売りたいのです。

専門家の視点で

相続の手続きを経ずに不動産を処分することはできません。
遺言書がないということで法定相続となり、不動産もほかの相続人とともに共有することになりますので、1人の意思で売却することはできないのです。
相続手続きは、誰が相続人となるかを調査し、確定させるところから始まります。
この点、生まれてから亡くなるまで日本国籍の方であれば、戸籍を集めることは難しいことではなく、相続人を特定するまでにそれほどの時間もかかりません。この反面、外国国籍を有している・有していた方となると、手続きは日本のそれとは全く異なり、要する時間も格段に増えてしまうことが予想されます。
例えば、
次の不動産を妻○に相続させる
(所在や家屋番号等で不動産を特定させる)
などの遺言があれば、相談者の希望どおりの手続き(相続手続きを経て、不動産の売却手続き)を進めることができました。

相談事例2 認知された子がいるとき

父親が亡くなり、父親の持ち家の相続手続きのために戸籍を集めました。
母親も知らなかったようで2人で衝撃をうけたのですが、なんと、父親にもう1人子供(A子)がいたのです。
私の生まれるよりもずっと前に認知していたようです。
母は主婦で、家のことを全てやり、父を支えていました。そして亡くなる少し前には、父は、全て母の困らないようにしてくれと言っていました。
そのため、ひとまず、預金は全て母親が生活費として使ってよいのですよね?
私も、母が困ることなく生活して欲しいと願う気持ちだけで、物やお金を相続したい気持ちはありません。

専門家の視点で

遺言がなく法定相続となる以上、お父さんが認知をした子(婚外子)にも、当然に、お父さんの遺産を相続する権利が発生しています。
実子と婚外子の相続分は、親を相続する場合には、同じです。よって、遺産の総額の2分の1がお母さん、4分の1が相談者さん、同じく4分の1がA子さんの相続分です。
「相続分の贈与」をおこない、相談者さんの4分の1の相続分をお母さんに無償で譲り渡すことはできます。
しかしながら、4分の1はA子さんの権利ですので、全てをお母さんが使えるようになるわけではありません。
またお父さん名義の不動産も、法定相続の場合には、3人で共有することになります。
遺言があれば、A子さんの「遺留分」にも気を配りながら、一つ一つの遺産について、受け取る人をお父さん自身で指定することができました。
例えば、
次の不動産を妻○に相続させる
(所在や家屋番号等で不動産を特定させる)
次の遺産を妻○に相続させる
(銀行・口座番号等で預金口座等を特定させる)
次の遺産をA子に相続させる
(遺産総額の8分の1程度になりそうな遺産で、お母さんの生活に影響がでないものを記載する)
などの遺言があれば、不動産や預金口座の名義をお母さんに変えることができ、もちろん、お母さんが全てを自分のものとして使うことができました。

-「遺留分」とは-

一定の範囲の法定相続人が取得することのできる最低限の相続分のことを「遺留分」といいます。
民法は、遺言者に対して、死後に財産を処分する自由を認めています。
しかしながら、完全に自由な処分を認めてしまったら、相続人の期待をあまりにも大きく害することになっていまいます。そのため、一定の範囲の近しい相続人に限定され、遺留分が認められたのです。
遺言が残されても、遺留分を侵害することはできません。
この点、私たちは「遺留分を侵害する遺言」そのものができないのでしょうか。
いえ、そうではありません。遺留分を侵害する内容の遺言もできますし、そのような遺言の内容で遺産分割や相続が行われることもあります。
遺留分を主張するには、遺留分を侵害された人が、遺留分の権利主張(遺留分減殺請求)をしなければならないからです。
遺言の内容が遺留分を侵害するものであっても、侵害された相続人が何も言わなければ、その遺言に書かれたとおりの内容で相続手続きがなされます。
なお、遺留分の割合は次のとおりです。

(遺留分の帰属及びその割合)
第千二十八条
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1

これをもとにこの事例においての、婚外子の遺留分を計算してみましょう。
まず、この条文の規定により、遺留分の総額は、被相続人の財産の2分の1です。
そして先程のとおり、子(婚外子も同額)の相続分は4分の1ですので、子(婚外子も同額)の遺留分は、8分の1と算出されます。

相談事例3 不動産を兄弟で相続し、その後一方が死亡したとき

1年前に母親が亡くなり、遺言はありませんでした。
父はそれ以前に他界しています。
母親は投資用マンションを1つ所有しており、よく兄と私に対し、好きにしてよいよと言ってくれていました。
私は兄との2人兄弟で、ともに結婚し、マイホームをもっています。そのため、母と3人で、早々に売却したらよいね、と話しあっていました。
兄と私は仲がよく、何の問題もありませんでしたので、マンションをふたりで相続することにしました。登記も済ませています。
当時、兄とは落ち着いたら売却しようと話をしていましたし、数か月前からは、不動産会社を探すなど具体的な準備も進めていました。
そのような中で突然のことでしたが、兄が亡くなりました。
兄には、奥さんと子供が1人いますが、私はあまり親しくありません。
このまま売却を進めて、なにか言われたらお金で解決したらよいのでしょうか?

専門家の視点で

まずお兄さんの持分は、法定相続によって、お兄さんの奥さんとお子さんに2分の1ずつ(もともとお兄さんの持分は2分の1でしたので、4分の1ずつ)取得されています。
よって、このおふたりの同意を得ずに売却を進めることはできません。
2つの相続によって穏やかでない共有関係が生じてしまったといえます。
こういうケースを懸念して、仲の良い兄弟の間柄であっても、かつ一時的なものであっても、相続によって不動産を共有状態におくことはあまり望ましくないという考え方があります。もちろん事情によりますので、専門家に相談なさることをお勧めします。
このケースでは、例えば、お母さんの、
第○条 遺言者は、遺言者の有する財産をすべて換価し、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済した残金を、次のとおり分配するよう遺産分割の方法を指定する。
長男 ○(昭和○年○月○日生) 2分の1
長女 ○(平成○年○月○日生) 2分の1
第○条 遺言者は、遺言執行者として次の者を指定する。
(氏名や住所等で遺言執行者を特定させる)

などの遺言があれば、遺言執行者によって、不動産は売却され、売買代金の2分の1ずつがおふたりに分配されることになりました。不動産の名義は一時的に(遺言執行者によって)お兄さんと相談者さんのおふたりに変更されますが、相続される対象はあくまでも換価金(売買代金)であり、それはお兄さんが亡くなっても変わりません。

その他典型的な事例

再婚をし、先妻の子と後妻が相続人になるとき

感情の話ですが、先妻の子と後妻との間では争いが起こる可能性が非常に高いと言われています。
争いの発生を防ぐために、遺言でしっかりと定めておくことが望ましいといえるでしょう。

相続人ではない誰かに財産を残したいとき

息子の妻が義父の世話をしていたという話はよくききます。
こちらも感情の話ですが、「息子の奥さんにも財産を残してあげたい」などの気持ちを抱くことはよくあることだと思います。
しかしながら、息子の妻は相続人ではないので、遺言で定めておかないと何も残せません。
仮に息子が義父よりも先に亡くなり、その後も息子の妻が世話を続けていたような場合でも、息子の代わりにその妻に財産を・・・というのは、遺言でしっかりと定めておかないとできないことなのです。

事実上の配偶者(内縁の妻・夫)がいるとき

長年夫婦として連れ添ってきたとしても、婚姻届けを出していない場合には、いわゆる内縁の夫婦となり、お互いに相続権がありません。
したがって、財産を残してあげたい場合には、必ず遺言をしておかなければなりません。

遺言書があるかもしれない、と思ったら

公正証書遺言の場合

お亡くなりになった方から、「遺言書をつくってきたとよ」いうお話を聞いた覚えはありませんか。
「公証役場(こうしょうやくば)に行ってきたよ」という、あまり馴染みのない場所がそのお話に出てきたかもしれません。
遺言の1つに「公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)」があります。
公証役場で、公証人という中立・公正の立場の専門家が関与して作成する遺言です。
このことをお話なさっていたのかもしれません。
公証役場で作成された遺言書は、原本が公証役場で保管されています。
法律で定められている保管期間は20年ですが、遺言者がおおよそ120歳に達するころまでは保管されているようです。
お亡くなりなった方の訪れやすい公証役場に連絡してみるのがよいでしょう。
また平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、作成した公証役場名・公証人名・遺言者名・作成年月日等がデータで管理されていますので、簡単に調べることができます。

自筆証書遺言の場合

誰の関与もなく、自分で、遺言書を作成することもできます。
これを「自筆証書遺言」といいます。
専門家が関わらずに作成されますので、「本人が作成したものに違いない」ことを疑いなく判断するために、例えば「自分で書いて印を押す」など、法律で定められていることがいくつかあります。
それらの方式が守られて作られていれば、という条件はありますが、「自筆証書遺言」も、れっきとした遺言です。効力は公正証書遺言と変わりありません。
保管について決まりはありませんので、ご自宅はもちろん、例えば銀行の貸金庫などに保管されている場合もあります。

佐藤知江
 

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