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中小企業の成長戦略を支える税制優遇制度:投資促進税制と経営強化税制の制度比較

中小企業の成長戦略を支える税制優遇制度:投資促進税制と経営強化税制の制度比較

会計・税務
2025年11月1日 5 min. read

企業経営において、設備投資は生産性向上や競争力強化のために欠かせない取り組みです。しかしながら、中小企業にとっては資金面やリスク面の負担が大きく、思うように投資を進められないケースも少なくありません。こうした課題を支援するために、政府は税制上の優遇措置としてさまざまな制度を設けています。その代表的なものが「中小企業投資促進税制」と「中小企業経営強化税制」です。

本稿では、「中小企業投資促進税制」と「中小企業経営強化税制」について、その内容と活用のポイントをわかりやすく解説します。

詳細な制度内容に入る前に、まずはそれぞれの制度が設けられた経緯を確認しておきましょう。中小企業投資促進税制は、租税特別措置法に基づき、中小企業による設備投資を後押しする目的で創設された制度です。日本においては、中小企業が全体の約99.7%を占め、雇用の約7割と付加価値の過半を支えています。しかしその一方で、大企業と比べて生産性が低く、設備投資も老朽化対応の「維持・更新」に偏りがちで、生産性や効率性を高めるための前向きな投資が不足しているという課題がありました。

これに対し、中小企業経営強化税制は、平成29年度(2017年度)の税制改正によって新たに導入された比較的新しい制度です。この制度は「中小企業等経営強化法」を根拠としており、単なる設備投資の推進にとどまらず、経営基盤の強化や改革を伴う取り組みを支援する点に特徴があります。政策的にも、中小企業の持続的かつ中長期的な成長を後押しすることを明確な目的として位置づけられています。

両制度の適用対象となる法人や資産の種類、具体的な優遇内容を整理すると、次のような概要になります。両者には共通点もありますが、細部において異なる点がいくつか存在します。詳細はこの後の項で解説しますが、概要としては次のように捉えると分かりやすいでしょう。中小企業投資促進税制は、準備期間を十分に確保できない場合や、手続きの手間を抑えたい場合に、購入予定の資産が対象に該当するのであれば有効な選択肢となります。一方、事前に計画的な準備が可能な場合には、中小企業経営強化税制を活用することで、対象資産の幅が広がり、より大きな節税効果を得られる可能性があります。




中小企業投資促進税制 中小企業経営強化税制



  • 中小企業者等(資本金1億円以下の法人、農業協同組合、商店街振興組合等)
  • 従業員数1,000人以下の個人事業主が対象
  • 中小企業者等(資本金1億円以下の法人等)で、中小企業等経営強化法による「経営力向上計画」の認定を受けた事業者



  • 新品の機械装置(単価160万円以上)
  • 測定工具・検査工具(単価120万円以上、または単価30万円以上かつ合計120万円以上)
  • 一定のソフトウェア(単価70万円以上または合計70万円以上)
  • 貨物自動車(車両総重量3.5トン以上)
  • 内航船舶(取得価格の75%が対象)
  • 新品の生産等設備を構成する機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウェア。
    すべて所定の最低取得価額あり:
    • 機械装置:160万円以上
    • 工具・器具備品:30万円以上
    • 建物およびその附属設備:1000万円以上
    • 建物附属設備:60万円以上
    • ソフトウェア:70万円以上
      ※貸付用資産、中古資産、特定のソフトウェア(開発研究用、サーバー用OSなど)は除外



以下から選択※ただし資本金3,000万円超の法人は税額控除不可(特別償却のみ)
  1. 特別償却:取得資産の30%を費用として即時計上可能
  2. 税額控除:取得価格の7%(資本金3,000万円以下の中小企業が対象)を法人税から控除可能
以下から選択
  1. 即時償却:取得費用をその年度に全額経費として計上可能
  2. 税額控除:取得価格の10%(資本金3,000万円以下)または7%(資本金3,000万円超1億円以下)を法人税から控除可能

それでは、各要素についてさらに詳しく見ていきましょう。まず対象法人の点では、どちらの制度も基本的に「中小企業者等」を対象としている点は共通しています。大きな違いは、「経営力向上計画」の認定を受けているかどうかという点にあります。経営力向上計画と聞くと、手続きが難しそうに感じる方もいるかもしれませんが、中小企業庁では主要な業種ごとに具体的な記載例を公開しています。そのため、それらの例を参考にしながら自社の実情を当てはめていけば、専門家に依頼せずとも作成することは十分可能です。さらに、作成を支援する「ローカルベンチマークツール」も提供されており、こうしたツールを活用することでよりスムーズに進めることができます。

中小企業投資促進税制の対象となる資産については、前掲の表に示した内容を基準として理解しておくと良いでしょう。中小企業経営強化税制についても同様に表の通りですが、申請区分としてA・B・D・Eの4類型が設けられています。なかでもE類型については、売上高100億円以上を目指す中小企業を対象として、令和7年度の税制改正により「合計額1,000万円以上の建物及び附属設備」という新たな区分が追加されました。一方で、令和6年度まで適用対象であったC型(デジタル化設備)は、令和7年度改正により制度対象から除外されていますので注意が必要です。

中小企業経営強化税制には、A・B・Dの3つの類型に加え、売上高100億円以上を目指す中小企業を対象とした「E類型」が設けられています。これらの区分ごとに適用要件が異なるため、それぞれの特徴について順に確認していきましょう。


A類型
(生産性向上設備)
B類型
(収益力強化設備)
E類型
(B類型拡充型)
(収益力強化設備)
D類型
(経営資源集約化設備)



  • 生産性が旧モデル比で年平均1%以上向上する設備
    ※生産効率等の指標は単位時間当たり生産量、歩留まり率又は投入コスト削減率のいずれか
  • 対象資産の販売開始期間が以下のもの
    機械装置:10年以内
    工具:5年以内
    器具備品:6年以内
    建物附属設備:14年以内
    ソフトウェア:5年以内
  • 年平均7%以上の投資利益率が見込まれる設備
  • 投資利益率が年平均7%以上
  • 売上目標100億円超及び年平均10%以上の売上高成長率を目指すロードマップの作成
  • 基準事業年度の売上高が10億円超90億円未満
  • 設備投資額が、1億円と基準事業年度の売上高5%相当額とのいずれか高い金額以上
  • 建物及びその附属設備の新設又は増設
  • 投資計画中において、給与を増加させるものであること
  • 修正ROA又は有形固定資産回転率が一定割合以上の投資計画に係る設備

E類型は、売上高100億円を目指す中小企業の成長を後押しすることを目的としており、経営力の向上に資する高度な設備投資が求められるため、適用要件はやや厳格に設定されています。その分、要件を満たして適用された場合には、他の類型と比べて高い節税効果が得られるのが特徴です。

本稿では、中小企業が活用できる固定資産関連の税制優遇制度について解説しました。このような設備投資減税は、景気や経済状況に左右されやすく、税制改正のたびに内容が見直される傾向があります。特に年末にかけては税制改正の議論が活発化する時期でもあるため、設備投資を検討されている企業の皆様には、最新の制度動向を注視し、早めの対応を心がけていただくことをおすすめします。

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