企業における情報セキュリティの強化において、ISO27001(ISMS認証)は情報セキュリティ対策の代表的な指標として広く認知されています。しかし、ISO27001を取得したとしても、組織があらゆるサイバーリスクから完全に防御できるわけではありません。それにもかかわらず、多くの企業が時間とコストを投じてISMSに取り組むのはなぜでしょうか。本稿では、その理由と価値を紐解きます。
1. ISMSとは何か
ISMS(Information Security Management System)とは、情報資産を適切に管理し、漏えい・改ざん・破壊といったリスクから守るためのマネジメントシステムです。
ISMSは特定のセキュリティ製品やツールを導入する行為ではなく、以下の要素を重要視しています。
- 統制ルールの策定
- 運用プロセスの整備
- 従業員教育
- 定期的な改善活動(PDCA)
上記一連の仕組みを通じ、組織全体のセキュリティレベルを継続的に高めていくことを目的としています。
2. ISMSは「技術」ではなく「判断基準」である
ISMSの本質は、脅威への対応を場当たり的な対策ではなく、体系的な判断基準に基づくプロセスとして整理する点にあります。
ISO27001は、組織が「何を脅威と捉え」、「どの資産を守り」、「どのような対策を選択し」、「どのように改善を続けるのか」、というサイクルを明確化させる枠組みです。そのため認証取得後も、ISMSでは継続的審査などを通じてプロセスが適切に回っているかを定期的に評価します。
3. ISMSの核心は「棚卸し」と「リスク評価」
ISMS運用の中核となるのが、情報資産の棚卸し(資産特定)とリスク評価です。高価な製品や最新のセキュリティ技術を導入しても、守るべき資産を把握できていなければ、未管理の端末や委託先経由で侵害を受ける可能性が残り続けます。
情報資産とは、サーバや端末だけではありません。契約書、設計書、ノウハウ、認証情報、人の権限、そして外部委託先など「組織が価値を持つと判断するものすべて」が対象に入ります。
しばしば、「ISMSはプロセス中心だから技術は不要」と誤解されることがありますが、実際には
- アクセス制御
- ログ管理
- 暗号化
- 脆弱性診断
- バックアップ
といった複数の技術要素が適切に実施されているか、評価項目として判断する際に必須の要素となります。
従って、ISMSは技術と切り離された概念ではなく、技術を「選択する判断力」を組織に与える枠組みとも言えます。
4. 企業がISMSを取得する「本当の理由」
ISO27001を取得しても、セキュリティが完全に担保されているわけではありません。それでも企業がISMSの認定を取得する理由は、次の価値を発揮することが大きな要因として挙げられます。
- 情報セキュリティに関する責任と統制を体系化できる
- 属人的な運用から脱却し、継続的改善が文化として根付く
- 技術投資の優先順位を合理的に判断できる
- 客観的な第三者認証により、取引先・市場からの信頼を獲得できる
「守るためのルール」ではなく、経営判断の質を高めるための仕組みが確立できることから、多くの企業はISMSを取得する大きな要因として考えられます。
5. RSM汐留パートナーズの取り組み
RSM汐留パートナーズでは、ISO27001を取得し、情報資産保護のためのプロセスを組織的に運用しています。
さらに、各従業員が利用する端末や各リソースには以下の製品を導入しています。
- MDM(Mobile Device Management)
- EDR(Endpoint Detection and Response)
- NGAV(Next Generation Anti-Virus)
- DLP(Data Loss Prevention)
複数の製品を組み合わせ、技術面からもセキュリティを担保しています。これらのプロダクトは、外部ベンダーやコンサルタントに依存することなく、社内に在籍する専門家が技術適合性・コスト効率・運用設計の観点から総合的に評価し、構築・運用まで一貫して選定しています。
ISMSに基づく管理プロセスと適切な技術投資により、弊社は実効性のあるセキュリティ体制を維持しています。
6. まとめ
ISO27001の取得は、セキュリティを「完璧」にするものではありません。しかし、限りあるリソースの中で、どの資産を守り、どのリスクに向き合うべきかを判断し続けることこそが、現代のセキュリティ対策において最も重要な能力です。
ISMSは、不確実性の高い環境で最適な意思決定を導くための羅針盤のような存在であり、企業がその価値を認識して取り組む理由がここにあります。一方で、市場には無数のセキュリティプロダクトが存在し、その機能・導入方式・コスト構造も多種多様です。
「どの技術を選定すべきか」「何に投資すべきか」のジャッジは容易ではなく、多くの企業にとって頭を悩ませる課題となっています。
RSM汐留パートナーズでは、各社の事業特性や体制に応じた最適なセキュリティアーキテクチャの選定・導入支援に加え、ISMSの構築・運用・改善プロセスの定着支援もワンストップで提供しています。
単なる製品導入や規程整備に留まらず、「リスク評価の実施」、「情報資産管理の体系化」、「審査に耐えうる運用設計」、「継続改善を前提とした体制づくり」といった要素まで含めた総合的な支援により、企業が“形式的な認証取得”に陥らず、ビジネスと整合した実効性のあるセキュリティ体制を構築できるよう伴走していきます。
