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長谷川 祐哉 Yuya Hasegawa

この記事の著者

長谷川 祐哉 Yuya Hasegawa

パートナー  / 税理士

インボイス制度の導入-消費税の基礎と建設業で簡易課税制度を選択する際のポイントとは

2023年10月31日

はじめに

2023年10月からインボイス制度が導入されました。今までは、売上が1,000万円以下の事業者の場合、消費税の納税義務を免除され、決算でも特に考慮の必要がない税金でした。インボイス制度の導入後も、免税事業者には消費税の納税義務が課されるわけではありません。しかし、免税事業者からの仕入を行う場合、課税事業者は支払う消費税額を控除できなくなってしまいます。

このため、免税事業者や簡易課税制度を選択している事業者など、大多数の事業者に影響があり、手取りが減少する可能性の高い制度改革になっています。建設業での一人親方や小規模工務店など、今までは免税事業者であったり簡易課税を選択したりしている事業者は詳細をしっかり確認する必要があります。そこで消費税やインボイス制度の基本的な仕組み、インボイス制度の経過措置(時限的な優遇措置)等について解説をしていきます。まずは消費税納税の基本から説明をします。

消費税とは?

消費税は物品やサービスについてそれを購入・消費した消費者が負担する税金です。しかし、一般的な消費者が物品やサービスを購入するたび消費税の納税を行うのは現実的ではありません。その物品やサービスを販売した事業者が、消費者からお金を預かり、消費者に代わり間接税に該当する消費税を納税します。

消費税の納税の流れを下の図で詳しく確認します。

ンボイス制度の導入-消費税の基礎_chart

この図の中では、下記の手順で消費税が発生します。

  1. A製造業者がB販売業者に商品を50,000円で販売し5,000円の消費税を預かり、納税
  2. B販売業者はC消費者に商品を70,000円で販売し、7,000円の消費税を預かる
  3. B販売業者は自社が預かった消費税から、自社が支払った消費税を控除した後に、差額の2,000円を納税(7,000-5,000=2,000円)

このように消費者は納税せず、各事業者が代わって納税するしくみになっています。また、③で売上と同時に預かった消費税額から仕入の際に支払った消費税額を差し引き、収める消費税額を算定する処理のことを「仕入税額控除」と呼びます。

インボイス制度とは?

インボイス制度とは消費税の新しい仕入税額控除の方式です。インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者が発行したインボイス(適格請求書)に記載がなければ仕入税額控除は行うことができません。今回の例では、A製造業者が適格請求書発行事業者として登録を行わないと、B販売業者はインボイス=適格請求書の受領ができず、5,000円の仕入税額控除を行えません。結果として、B販売業者は7,000円の消費税を納税することになります。

A製造業者は基準期間の売上高が1,000万円以下の場合、基本的には免税業者でいることはできます。しかし、B販売業者としては、免税業者であるA製造業者からの仕入では仕入税額控除ができません。そのため、仕入業者の変更を検討する可能性があります。

なぜなら、仕入税額控除ができない場合、課税事業者にはかなり大きな影響が出てしまうからです。つまり、売上高が1,000万円以下で免税業者である場合、自身の納税はしなくて良いため納税額に影響はありません。しかし、取引先の課税事業者は、免税事業者から適格請求書が発行されないため、仕入れ税額控除ができなくなります。そのため、課税事業者は仕入業者の変更を検討する可能性が高くなるでしょう。免税業者は事前に取引先と意思疎通をはかることでトラブルを防止する必要があります。

簡易課税制度

消費税の納税額を計算する際、売上金額から預かっている消費税、仕入金額から仮払消費税をそれぞれ計算し、差引で納税額を計算する方法が原則です。一方で煩雑な事務作業を軽減するために簡易課税制度があります。

簡易課税制度は原則として行う仮払消費税の計算を簡便的に行なうイメージです。具体的な方法として、売上金額から預り消費税を計算し、その計算値に業種ごとに定められたみなし仕入率を乗じることで仕入れにかかる消費税のみなし計算を行います。

【原則法(本則)】売上にかかる消費税-仕入れにかかる消費税

【簡易課税制度】 売上にかかる消費税-売上にかかる消費税×みなし仕入率

注意が必要な点として、簡易課税制度利用していても、適格請求書発行業者としての登録は別途必要になります。

建設業で簡易課税制度を選択する場合のポイント

簡易課税制度におけるみなし仕入率は業種によって異なっています。そして、建設業は原則として第3種の製造業として分類されていますが、全ての建設事業者が当てはまるわけではありません。消費税基本通達では以下のようになっています。

製造業等に該当する事業であっても、加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業は、第4種事業に該当するのであるから留意する。(消費税基本通達)

そのため、人工代・加工賃といったものがサービスの主である場合は第4種に区分され、仕入率は60%となります。第3種の70%に比べ低くなっているのは、人工代が主となるような事業の場合、仕入は少ないことが一般的であるからです。結果として、売上にかかる消費税から控除される金額は少なく(=みなし仕入率が低く)なります。

具体的にいうと、塗装業において、自ら材料を仕入れて施行するような場合は第3種になります。一方で、材料について支給を受けて施行のみ行うような場合は第4種になります。

いずれの事業も行っている場合には、事業ごとに計算します。ただし、1つの事業が売上全体の75%以上となっている場合には、その主たる事業のみなし仕入率を使用することができます。“できる規定”なので、どちらを選択することも可能です。

簡易課税制度の事業区分の表

事業区分みなし仕入率該当する事業
第1種事業90%卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます
第2種事業80%小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第1種事業以外のもの)、農業、林業、漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)をいいます
第3種事業70%農業・林業・漁業(飲食料店の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます
第4種事業60%第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです
なお、第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第4種事業となります
第5種事業50%運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます)をいい、第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除きます
第6種事業40%不動産業

おわりに

今回、消費税の基本的な制度とインボイス制度の概略、簡易課税制度について説明しました。インボイス制度の本格導入に備え、まずは基本的な仕組みを知っておくことが重要です。特に、簡易課税制度を選択した方が有利となる免税事業者も増えると思います。現在の取引先の状況を確認し、課税事業者になるかどうかを検討すると良いでしょう。

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