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前川 研吾 Kengo Maekawa

この記事の著者

前川 研吾 Kengo Maekawa

ファウンダー&CEO  / 公認会計士(日本・米国) , 税理士 , 行政書士 , 経営学修士(EMBA)

ファミリービジネスの概要・特徴・強み・課題

2023年12月4日

ファミリービジネスとは

ファミリービジネスは一般的に、特定の家族が経営を行い、株式を所有する会社のことをいい、日本語では「同族会社」、「同族経営」、「オーナー企業」と呼ばれることもあります。ここでの「家族」とは、血縁関係、結婚、または養子縁組によって繋がっている個人のグループを意味します。

ファミリービジネスは、小さな地域の企業から、国際的な大企業に至るまでさまざまな規模で存在しています。日本の大企業かつファミリー企業の例としては、トヨタ自動車(豊田家)、サントリー(鳥井・佐治家)、キッコーマン(茂木家)、キヤノン(御手洗家)、パナソニック(松下家)などがあり、日本を代表する企業も実はファミリービジネスとなっています。これらの企業は、家族の価値観やビジョンをビジネスに反映させながら、長期的な視点で経営されています。

さらに、ファミリービジネスは、特有の経営スタイルと文化を持っています。これらの企業はしばしば、家族の伝統や文化を大切にし、世代を超えてビジネスを継承することに重きを置いています。また、家族経営の企業は、長期的な関係構築や社会的責任を重視する傾向にあり、地域社会や業界における安定した存在となっています。このように、ファミリービジネスは、その特有の経営方法と文化を通じて、社会経済の多様性と豊かさに寄与しています。

ファミリービジネスの特徴

ファミリービジネスは一般の企業とどのような面で違いがあるのでしょうか。ファミリービジネスの特徴についていくつかご紹介します。

(1) 家族の所有と経営

ファミリービジネスは株式を所有する人(株主)と経営を行う人(経営者)が一致している場合が多いと言えます。一族のメンバーはしばしば経営陣に含まれ、戦略的な意思決定プロセスに参加します。したがって、一族から構成される経営陣の組織内における人的繋がりが強く、迅速な意思決定が行える環境が整っています。ファミリービジネスにおいては、企業の目指すべき方向性と政策に家族の影響が強く反映されます。

(2) 長期志向

ファミリービジネスは短期的利益の最大化ではなく、長期的にどれだけ成長・発展できるかという点に重点が置かれています。実際に日本で100年以上続く企業の9割である約25, 000社がファミリービジネスであると言われています。企業の継続性と将来世代への引き継ぎを重要視するため、安定性と長期的な計画に焦点を当てます。

(3) 家族の価値観と文化

ファミリービジネスには、世代を超えて企業の理念が受け継がれます。そして、家族の価値観、伝統、信念は、企業の文化と運営に深く影響を及ぼします。長年築いてきた価値観などは、企業の倫理規範、社会的責任、社内の対人関係に反映されることが多いとされます。

(4) 経営者の交代

リーダーシップの交代は、ファミリービジネスにとって重要な課題です。一般的な企業の経営者は3~5 年ほどで変わる一方、ファミリービジネスでは20年ほど同じ経営者がトップで経営が行われることが多いです。事業承継者は経営者の同族であることがほとんどなので、承継準備を十分に行うことができる体制が整っています。一方で経営のバトンを次世代に渡す過程は、慎重な計画と準備を必要とします。適切な後継者の選定と育成は、企業の長期的な成功に不可欠です。

(5) コミュニケーションと対立

親と子の意見の対立によって親子間対立が起こってしまった事例があります。大塚家具創業者の大塚勝久氏と娘の大塚久美子氏は経営方針への方向性の違いで対立してしまった例としてよく知られています。このような意見の対立が起こると、事業承継の障壁となってしまいますし、なによりビジネスの健全な運営に影響を与えます。家族間の対立はビジネスの決定や運営に悪影響を及ぼす可能性があり、これを上手にマネジメントしていくことが重要です。

(6) 地域性と文化の影響

ファミリービジネスは、地域社会との緊密な関係を持ち、その地域の経済や文化に大きな影響を与えることが多いです。これらの企業は地域社会への貢献を重視し、様々な形で地域経済や社会に対してプラスの影響をもたらしています。特に地方のファミリー企業は、雇用創出・観光促進・伝統文化の保護や継承などに役立っていると言われています。

【ファミリービジネスの特徴】

項目内容
家族の所有と経営ファミリービジネスでは株主と経営者が一致し、家族が経営陣に含まれ、迅速な意思決定が可能。家族の影響が企業の方針に反映される。
長期志向短期的利益ではなく、長期的な成長・発展に重点を置く。
家族の価値観と文化企業の理念は世代を超えて受け継がれ、家族の価値観や伝統が企業文化に影響を及ぼす。価値観は企業の倫理規範や社会的責任にも反映される。
経営者の交代ファミリービジネスでは経営者の交代が重要な課題。通常は長期にわたる経営者の在位があり、承継準備が十分に行われるが、後継者選定と育成が重要。
コミュニケーションと対立家族間の意見対立がビジネスの運営に悪影響を及ぼす可能性があり、適切なマネジメントが必要。
地域性と文化の影響ファミリービジネスは地域社会と密接に関連し、地域経済や文化に影響を与える。地方の企業は雇用創出や伝統文化の保護に貢献。

ファミリービジネスの強み

一般的な企業と比較してファミリービジネスにはどのような強みがあるのでしょうか?ファミリービジネスはユニークな強みを持っていると言えます。これらの特徴は、ビジネスの成長、持続性、および組織の内部文化において重要な役割を果たしています。

(1) 長期的な視点と安定性

ファミリービジネスは、一般的に長期的な存続と繁栄を最優先の目的としています。短期的な成長や利益よりも、長期的な目標とビジョンに重きを置いた意思決定が行われることが多いです。これにより、安定した成長を達成しやすく、経済不況や市場の不確実性に対しても強い抵抗力を持つことがあります。また、長期的な視点は、持続可能なビジネスモデルの採用や、将来世代へのビジネスの引き継ぎ計画を慎重に策定することを可能にします。

(2) 家族の忠誠心とコミットメント

ファミリービジネスには、代々受け継がれてきた企業理念と価値観が深く根付いています。家族メンバーは企業に対して強い忠誠心を持ち、ビジネスの成功と繁栄に深くコミットメントを示します。これにより、組織内で高い団結力が生まれ、社員間の信頼関係が強化されます。また、家族が共有する目標と価値観は、従業員のモチベーションと生産性の向上に寄与し、より効果的なチームワークと業務の遂行を可能にします。

このような環境は、従業員が企業の一員としての自己実現を感じやすくし、長期的なキャリアの構築を促進します。さらに、家族の経営参加は、顧客やビジネスパートナーとの関係構築において個人的なつながりともなり、より深い関係の構築を促進することがあります。このように、ファミリービジネス独自の強みは、企業の持続可能な成長と成功に大きく寄与しています。

(3) 柔軟性と迅速な意思決定

ファミリービジネスの最大の強みの一つは、所有と経営が一致していることによる柔軟性と迅速な意思決定です。所有者と経営者が同一、または密接に連携しているため、組織的な障壁が少なく、迅速に意思決定を行うことができます。これは、市場や社会の変化に迅速に対応する能力があることにもつながり、特に緊急事態や急激な市場の変化があった際に、素早く適応することを可能とします。また、中央集権的な意思決定プロセスは、戦略的変更や新たなビジネスチャンスの迅速な利用を可能にします。

(4) 家族の専門知識と経験の活用

ファミリービジネスは、世代を超えて蓄積された専門知識、技術、そして人脈を活用することができるという大きなメリットがあります。これらの知識や経験は、ビジネスの継続的な成長と発展の基盤となります。特に、事業承継を控えた後継者は、幼少期からビジネスに親しんでおり、親から直接技術や経営スタイルを学ぶ機会が豊富にあります。このような知識の伝承は、企業の核となる競争力を維持し、独自の専門分野でのリーダーシップを保持するためにも役立ちます。

(5) 独自の文化と価値観の継承

ファミリービジネスには、創業者の理念や価値観が深く根付いており、これが企業文化として何世代にもわたって受け継がれています。創業者や初期の経営陣によって確立された独自の文化は、企業のアイデンティティを形成し、従業員の行動や意思決定に影響を与えます。この強固な文化は、組織の一体感を強化し、社内のモチベーションを高めることができます。また、長期にわたってビジネスを存続させたいという共有された目標は、従業員にとって強い動機付けとなり、競争優位性をもたらします。

【ファミリービジネスの強み】

項目内容
長期的な視点と安定性長期的な目標に重点を置き、安定した成長を達成しやすい。経済不況や市場の不確実性に対して強い抵抗力を持ち、持続可能なビジネスモデルの策定が可能。
家族の忠誠心とコミットメント家族メンバーは企業に対して強い忠誠心を持ち、高い団結力と信頼関係を生み出す。従業員のモチベーションと生産性向上、顧客やパートナーとの深い関係構築に寄与。
柔軟性と迅速な意思決定所有と経営の一致により、組織的障壁が少なく、市場や社会の変化に迅速に対応可能。戦略的変更や新たなビジネスチャンスの迅速な利用が可能。
家族の専門知識と経験の活用世代を超えた専門知識、技術、人脈の活用が可能。これらはビジネスの成長と発展の基盤となり、独自の競争力の維持に役立つ。
独自の文化と価値観の継承創業者の理念や価値観が企業文化として受け継がれ、組織の一体感とモチベーションを高める。長期的なビジネス存続の目標が競争優位性をもたらす。

ファミリービジネスの課題

ファミリービジネスには強みがある一方、課題も存在します。課題は大きく分けると、「オーナーシップ」、「ファミリー」、「経営」の3点に分類されます。

(1) オーナーシップ面の課題

①相続問題

ファミリービジネスでは、創業者や現オーナーの後継者選定や資産の相続が重要な課題となります。適切な後継者がいない場合や、相続に関する家族間での意見の不一致は、ビジネスの安定性と将来の成長に影響を与える可能性があります。相続プロセスがスムーズでない場合、企業の経営権に関する争いや財産の分割により、ビジネス運営に支障を来たすこともあります。

②会社のガバナンスに問題がある

ファミリービジネスにおけるガバナンスの問題は、しばしば企業の効率性や透明性に影響を及ぼします。家族経営により、客観的な評価や意思決定プロセスが不足することがあり、これが企業の成長を妨げる要因となることがあります。また、家族メンバーが経営に関与することにより、利害関係の衝突や非効率な意思決定プロセスが生じてしまう可能性もあります。これらの問題は、企業の持続可能性や競争力に悪影響を与えることがあります。

このように、ファミリービジネスが直面するオーナーシップ面の課題は、その繁栄と持続的な成長において致命的な障害になってしまう可能性があります。最近の事例ではビッグモーターのコンプライアンス意識の欠如はまさにビジネスにおいて致命傷になってしまったとも言えます。これらの問題に対処するためには、適切な後継者育成計画、強力なガバナンス構造、および透明性があり効率的な経営が必要です。

(2) ファミリーの面での課題

①後継者不足・後継者の能力不足

ファミリービジネスにおいては、適切な後継者を見つけることがしばしば困難な時があります。特に、ビジネスに興味を持つ家族メンバーがいない、または後継者としてふさわしい能力や経験を持つ者が不足している場合、企業の将来は不安なものとなることでしょう。また、後継者が適切な準備やトレーニングを受けていない場合、経営の質が低下するリスクがあります。

②親族同士の争い

家族内の対立や意見の不一致は、ファミリービジネスにとって大きな問題となり得ます。特に経営方針、財産分割、役割分担などに関する意見の相違は、ビジネス運営において深刻な問題となることがあります。これらの争いは、企業の経営効率や社内の士気に悪影響を及ぼし、場合によっては企業の存続を脅かすこともあります。

③仕事とプライベートのバランスが保ちにくい

ファミリービジネスにおいては、仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちです。特に家族が密接に関わるビジネスでは、仕事上の圧力やストレスが家庭生活に持ち込まれることがあります。これは、家族関係の緊張を引き起こし、個人の健康や幸福にも影響を及ぼす可能性があります。また、家族メンバーが仕事の責任から離れることが難しいため、バランスの取れた生活を維持することが困難になることがあります。

これらの課題は、ファミリービジネスの運営において重要な障壁となり得ます。これらに効果的に対処することは、ビジネスの健全な成長と家族関係の健全性の両方を保つために不可欠です。

(3) 経営面での課題

①売上低迷

ファミリービジネスは、当然のことではありますが市場の変化や競争の激化によって売上が低迷することがあります。このような状況は、特に革新的なアイデアや戦略の欠如が原因で起こることがあり、企業の収益性や成長の機会に悪影響を及ぼします。

②従業員のスキルアップができていない

ファミリービジネスでは、従業員の教育とスキル開発に十分な注意が払われていないことがあります。特に、家族以外の従業員への投資が不足している場合、企業全体の競争力が低下する可能性があります。

③社員間での差別

ファミリーメンバーとノンファミリーメンバー間での待遇の差別が存在することがあります。このような差別は、職場の士気と生産性を低下させ、才能あるノンファミリーのメンバーの離職を招くことがあります。

④経営変革が起こりにくい

ファミリービジネスでは、伝統的な経営方法や文化に固執することがあり、これが経営の革新や変革を妨げることがあります。変化に対する抵抗は、新しい市場機会の活用や業務効率の向上を阻害する可能性があります。

⑤長期的な戦略の欠如

一部のファミリービジネスでは、長期的な戦略的計画が不足していることがあります。これは、将来の市場の変化や競争環境に対する準備不足を意味し、企業の長期的な成功に影響を与える可能性があります。

これらの経営面での課題に対処することは、ファミリービジネスの持続可能な成長と繁栄にとって重要です。これには、現代のビジネス環境に適応するための戦略の再評価、従業員の能力開発への投資、組織文化の改革、および長期的なビジョンの確立が必要です。

課題解決のために「オーナーシップ」、「ファミリー」、「経営」のどれかに特化することではなく、3つの面の足並みを揃えることが重要です。

日本におけるファミリービジネスが占める割合

日本におけるファミリービジネスの割合は、国内経済において非常に大きな影響力を持っています。日本におけるファミリービジネスの比率は他国と比べて非常に高く、9割以上にのぼると言われています。そして、2020年度における上場企業約3700社(東京証券取引所の第1部、第2部、新興市場、および地方市場を含む)のうち、約50%がファミリー企業であるとされています。

このような状況を踏まえると、ファミリービジネスは日本経済の重要な支柱であると言えます。多くのファミリービジネスは、地域社会の経済発展に貢献し、雇用の創出、地域の伝統や文化の継承など、社会的な側面でも重要な役割を果たしています。また、日本独自のビジネス文化や経営スタイルが、これらのファミリービジネスに深く根付いていると言えます。

しかし、日本におけるファミリービジネスの重要性にもかかわらず、その研究はまだ十分に進んでいないとされています。世界的な観点から見ても、日本のファミリービジネスはもっと注目されるべき存在であり、その運営方法や成功の秘訣、直面する課題などについての深い理解が求められています。ファミリービジネスの研究は、経済学、経営学、文化人類学など多岐にわたる学問分野での洞察をもたらし、日本のビジネス環境における独自の側面を明らかにすることができると考えています。

以上のことから、日本におけるファミリービジネスはその数の多さと経済への大きな貢献により、国内外でのさらなる研究と理解が必要な分野であると言えます。そのユニークな特徴は、日本経済のみならず、世界的なビジネス環境においても重要な意味を持つと言えるでしょう。

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