大学を卒業していない方が大学院に進学するためには?
- 2025.02.03
- 公認会計士・税理士
はじめに
一般的に、大学院に入学するには、大学卒業資格である「学士号」の取得が条件とされています。ただし、学士号が必須条件ではなく、大学院が個別に審査し、文科大臣が指定した専修学校を卒業した方や大学卒業と同程度と認められる場合、また専門職での実務経験が一定基準を満たしていると判断された場合等に大学院の受験が認められることがあります。最近このテーマに遭遇することが多かったので、調べてまとめてみました。
大学院が個別に審査する上での基準
大学院教育の基準を定め、各大学が適切に運営されるよう指導を行う役割を担うのは文部科学省です。
その文部科学省のWEBサイトに掲載されている「大学入学資格ガイド」によると、
「入学志願者の入学資格の有無の判断は、各大学が法令に基づき適切に判断すべきものですので、各大学におかれては、本冊子を募集要項の作成や入学資格の有無を判断する等の場合に活用していただき、不明点等が生じた際にはまず本冊子を熟読いただけますと幸いです。」
とあり、各大学は当該ガイドを活用して判断すべきことが書かれています。
また、
「入学資格の有無の判断に当たっては、法令に具体的に列挙されている要件に該当する場合のみならず、各入学志願者の個々の学習歴等を確認することにより認められる場合もあります。入学資格の有無の判断は入学志願者の学修に関わる大変重要な判断であることを踏まえ、各入学志願者の立場に立って、丁寧な検討をされることを期待します。」
として、各大学に慎重な判断を求めています。
さらに、このガイドには法的根拠等も書かれています。以下その内容です。
大学院(医学・歯学・薬学・獣医学の博士課程及び同学を履修する専攻科を除く)及び大学の専攻科の入学資格について下記①~➉のいずれかの要件に該当する方に入学資格が認められます。
① | 大学(短期大学を除く)を卒業した者 |
A 文科大臣の定めるところにより、①と同等以上の学力があると認められた者
このAは②~⑧からなります。
② | 大学改革支援・学位授与機構により学士の学位を授与された者 |
③ | 外国において、学校教育(日本において、外国の大学が行う通信教育を履修する場合も 含む)における 16 年の課程を修了した者 |
④ | 日本において、文科大臣が指定した外国大学日本校の 16 年の課程を修了した者 |
⑤ | 外国の大学等において、修業年限が 3 年以上である課程を修了することにより、学士の学位に相当する学位を授与された者 |
⑥ | 文科大臣が指定した専修学校の専門課程を修了した者 |
⑦ | 大学院へ「飛び入学」した者をその後に入学させる大学院において、大学院教育を受ける学力があると認められた者 |
⑧ | 個別入学資格審査で大学卒業と同等以上の学力があると認められた者 + 22 歳以上 |
B 文科大臣の指定した者
Bは⑨と⑩を指します。
⑨ | 旧制学校等を修了した者 |
➉ | 防衛大学校等の各省大学校を卒業等した者 |
以上より、専門学校卒業の方が大学院受験資格を得るためには、⑥の要件を見たす必要があることがわかります。つまり、文科大臣が指定した専門学校を卒業した者である必要があります。ここにおいて、一般的に言われている「専門学校」とは、文部科学省が定める教育制度上の正式名称である「専修学校の専門課程」を指します。
そして、高校卒業や⑥の専門学校に該当しない学校を卒業した人が大学院受験資格を得るためには、⑧の要件を見たす必要があります。
さらに当該ガイドには、⑧についての関連QAが掲載されています。
Q:個別入学資格審査の方法等は各大学の判断に委ねられているのでしょうか?
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このように、ガイドには具体的な4つの判断のポイントが示されています。ただし、上述の通り個別入学資格審査を実施するか否か、具体的な審査の方法等は各大学の判断に委ねられています。
(参考文献:
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/index.htm , https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/__icsFiles/afieldfile/2019/06/06/1222303_001_1.pdf)
具体的な事例
大学に行っていない人が大学院卒業資格を得た具体的な事例をいくつか紹介します。
大原簿記専門学校卒業後、社会人経験を経て大学院へ進学
このケースでは「文部科学大臣が指定した専修学校の専門課程を修了した者」(条件⑥)を満たしていたと考えられます。弊社でも大学院での税法2科目免除のため、大学院へ進学し修了した者がおります。
高等学校卒業で税理士試験の科目合格(3科目)を保有し大学院へ進学
この事例では、条件⑧の「個別入学資格審査で大学卒業と同等以上の学力があると認められた者」に該当する可能性があります。税理士試験の科目合格が、社会的実務経験や取得資格の一環として評価されたと考えられます。
これらの事例は、大学に行かなくても特定の条件を満たせば大学院入学が可能であることを示しています。
その他の事例
文部科学省のガイドには存在しませんが、著書、学術論文、研究発表、特許、TOEICなども個別入学資格審査で考慮されるという例もあったようです。
おわりに
本稿では、高等学校卒業や専門学校卒業の方が大学院に進学する方法について説明しました。大学院入学資格には、文部科学省が定める法的要件が存在し、それを満たすための個別審査や専修学校修了資格の取得が鍵となることを示しました。また、税理士資格取得を目指している方は大学院へ進学し、必要科目の単位を取得のうえ、学位論文を作成することで国税審議会に科目免除の申請を提出することができます。会計科目であれば残り1科目、税法科目であれば残り2科目の試験が免除されます。
大学に進学していなくても、社会人としての実務経験や専門学校での学びを評価される制度は、学び直しを志す方々にとって大きなチャンスです。大学院側にも人を集めたいといった背景からその条件は昔より比較的緩和されており、そのような方々もリカレント教育を経て大学院修了を目指せる時代になってきたと言えるかもしれません。
一方で、大学ごとに入学資格の審査基準や具体的な手続きが異なるため、志望する大学院の情報をよく調べ、入念に準備することが必要でしょう。自らの学びや経験を活かし、新たなキャリアへの道を切り開くきっかけとなれば幸いです。