IPO準備企業でも実践可能!内部監査に効くデータ分析のはじめ方
2025年8月1日
はじめに:内部監査DXの可能性
IPOを目指す企業や、上場直後の企業にとって避けて通れないのが「内部統制の整備」と「内部監査の仕組み作り」です。
とはいえ、「監査部門に割くリソースがない」「内部統制評価の仕方が分からない」といった声も多く聞かれます。特に人員やシステムが限られる小規模な企業では、「監査の高度化を目指したいが何から手を付ければ良いのか分からない」という漠然とした悩みを抱えられているパターンも多く見受けられます。
しかし実は、ExcelやPower BI(*1)など身近なツールを使った“見える化”によって、少ないリソースで内部監査の質を大きく向上させることが可能です。本稿では、データ分析の経験がない企業でも取り組める、内部監査への活用法を具体例とともに紹介します。
なぜ今、データ分析が内部監査に必要なのか?
従来の内部監査は、紙やPDFベースの資料確認や、インタビュー中心の属人的なアプローチが主流でした。しかしこうした手法には以下のような限界があります。
- 処理件数が多い業務では、全件を確認できない
- 記録として残っていても、異常の検知が主観的
- 調査対象の選定に、属人的な偏りが生じやすい
一方、日常業務で発生する取引データ(仕訳、精算、取引データ等)を定量的に扱うことで、網羅的かつ客観的な監査が可能になります。特に外部審査や経営層へ報告においては、「内部統制の運用実績」として、数値や事実に基づく根拠が求められるため、データの活用は大きな強みになります。
データで“違和感”を可視化する:よくあるパターンと対応
ここでは、実務でよくある不正リスクやミスに対して、簡単な分析で違和感を浮かび上がらせる方法を紹介します。
■3.1. 経費精算の異常検知(ヒストグラム分析)
特定社員の精算金額が、10万円、99万円などの“キリの良い金額”に集中していないかをヒストグラム(階級別集計)で分析することで、「上限ギリギリを狙った申請」が見えてきます。
- 使用ツール:Excelの“データ分析”機能またはPower BIのビン分割グラフ
- 目的:意図的な金額調整の傾向を把握
■3.2. 入出金データの異常点(曜日・時間帯別)
土日・深夜など通常業務時間外に処理された伝票や入出金がないか、処理時間・曜日と金額でピボット図を作成すると、明らかな異常値を視覚的に検出できます。
- 使用ツール:ExcelやPower BIのピボットビジュアル
- 目的:手続き逸脱・作業タイミングの異常検出
■3.3. 不正兆候の“点数化”:スコアリングによるリスクランキング
もう一歩踏み込むと、定義したリスクシナリオごとにスコアを設定し、取引単位で「不正の可能性スコア」を集計する方法もあります。
例:スコア設定ルール
シナリオ | 条件 | スコア |
---|---|---|
01 | 金額が100万円以上 | +3 |
02 | 処理が休日または深夜 | +2 |
03 | 同一担当者が起票・承認を兼任 | +5 |
04 | 頻繁に使われる汎用的な摘要(例:顧客訪問) | +1 |
これらのスコアを加算し、「スコアの高い順に上位3名をレビュー対象にする」といった効率的な抽出が可能になります。
Power BIでは、条件スコアを定義して列を追加し、ランキングで表示できます。
属人的な「怪しい」から脱却し、共有された目線でのリスクベースのレビュー体制を作ることが可能となります。
まとめ:内部監査DXは“仕組み化”が鍵。小さく始めて継続を
- データの“見える化”によって、違和感の早期発見が可能に
- 小規模な企業でも、ExcelやPower BIで十分に実現可能
- IPO準備中・上場後の統制評価にも有効なエビデンスを提供
まずは、1つのデータから、1つの気づきを。そこから始まる改善のサイクルこそ、リスクを“見える化”し、未然に防ぐ仕組みを育てていくための出発点です。
小さな実践の積み重ねが、強い内部監査・内部監査構築へとつながっていきます。
用語解説
*1:Power BI
Microsoftが提供するBIツールのサービス名です。
BIツールのBIとは「ビジネス インテリジェンス (Business Intelligence)」の略で、例えば売上実績など、企業の膨大なデータを分析、ひと目で分かるように可視化して、ビジネスの迅速な判断・意思決定に役立つソフトウェアのことです。