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従業員の安全は、企業のサステナビリティの一部である~防犯・安全対策をESGの視点から考える~ 

従業員の安全は、企業のサステナビリティの一部である~防犯・安全対策をESGの視点から考える~ 

人事・労務, リスクアドバイザリー, ESG・サステナビリティ
2026年2月10日

近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)や人的資本経営といった考え方が、企業経営において重要なテーマとして語られるようになりました。その中でも「人材の確保・定着」「働きやすい環境づくり」は、多くの企業が直面している共通課題ではないでしょうか。こうした議論の中で、見落とされがちなのが「従業員の安全」という視点です。防犯や安全対策は、事故や事件を防ぐための“守り”の施策として捉えられることが多いものの、実際には企業のサステナビリティを支える重要な要素の一つだと、私は考えています。

ESGの「S(社会)」や人的資本経営では、従業員の働きがいやエンゲージメント、健康管理などが注目されがちです。一方で、「従業員が安心して働ける環境が確保されているか」という問いは、十分に議論されているとは言えません。安心して働ける環境とは、単に長時間労働を是正することや、福利厚生を充実させることだけを意味しません。

 職場や通勤、さらには私生活を含めて、日常に過度な不安を抱えずに働ける状態こそが、その土台になります。安全が脅かされている状況では、いくら制度や理念を整えても、従業員が本来の力を発揮することは難しくなります。

防犯カメラの設置や警備体制の整備といった安全対策は、しばしば「コスト」として扱われます。しかし、警察に32年間勤務し、数多くの事案を見てきた立場から申し上げると、安全対策は企業活動を安定的に続けるための基盤投資です。

一度、重大なインシデントが発生すれば、

  • 従業員の心理的ダメージ 
  • 職場の混乱や生産性の低下
  • 企業イメージへの影響

といった形で、長期的な損失につながる可能性があります。

逆に、日頃から安全への配慮が行き届いている企業では、従業員が安心して働けるだけでなく、「この会社は自分たちを大切にしてくれている」という信頼感が育まれます。

多くの企業では、防犯や安全対策が特定の担当者や現場責任者の判断に委ねられているケースが少なくありません。担当者が熱心であれば機能しますが、異動や退職があれば、そのノウハウや意識が失われてしまいます。これは、サステナビリティの観点から見ると大きな課題です。属人化した安全対策は、持続可能とは言えません。

ESGやガバナンスの文脈で重要なのは、

(1) 誰が責任を持つのか
(2) どのような体制で判断するのか
(3) 定期的に見直す仕組みがあるのか

といった点を、組織として明確にすることです。

防犯・安全対策は、施設や設備を守るためだけのものではありません。従業員一人ひとりの安心感を支えるという意味では、福利厚生の一環として位置づけることも可能です。

例えば、

  • 不安やトラブルを抱えた際に相談できる窓口がある
  • 専門的な視点で状況を整理してもらえる

こうした仕組みがあるだけでも、従業員の心理的負担は大きく軽減されます。企業が「すべてを解決する」必要はありません。しかし、「不安を一人で抱え込ませない」姿勢を示すことは、人的資本経営の観点からも重要な意味を持ちます。

サステナビリティとは、単に環境負荷を下げることや、形式的な開示を行うことではありません。企業が長期的に価値を創出し続けるためには、人が安心して働ける基盤を整えることが欠かせません。防犯・安全対策は、その基盤の一部です。

目に見えにくく、成果もすぐには表れませんが、確実に企業の安定性と信頼性を支えています。警察OBとして、そして防犯・安全対策に携わる立場として、従業員の安全を「サステナビリティの一要素」として捉える視点が、より多くの企業に広がっていくことを願っています。

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