中堅企業におけるDX加速化のガソリン~ローコード開発プラットフォーム「Power Apps」~
2025年10月27日
はじめに:Power Appsとは何か?
Microsoft Power Appsは、プログラミングの専門知識がなくても、自社の業務に合わせたアプリケーションを迅速に開発できる「ローコード開発プラットフォーム」です。2015年の発表以来、多くの企業で利用されているMicrosoft 365(旧Office 365)とシームレスに連携する「Microsoft Power Platform」の中核を担っています。
Power Appsの最大の特徴は、視覚的なデザインツールと豊富なテンプレートを活用したドラッグ&ドロップのインターフェースにより、IT部門以外の業務部門の担当者でも短期間でアプリケーション開発が可能な点です。まるでPowerPointでプレゼン資料を作成するような感覚で、画面上に必要な要素(ボタン、入力フォーム、データ表示エリアなど)を配置し、機能を組み立てていくことができます。
また、キャンバスアプリとモデル駆動型アプリの2種類の開発方式に対応し、用途に応じた最適なアプローチを選択できます。キャンバスアプリは自由度の高いUI設計が可能で、モバイル向けの点検アプリや報告書作成アプリなどに適しています。一方、モデル駆動型アプリはデータモデルを基に自動的にUIが生成されるため、顧客管理や案件管理など、データベース中心の業務システムの構築に向いています。下記に、二種類アプリの違いを比較表に簡単に整理したものです(3)。
| カテゴリ | モデル駆動型アプリ | キャンバスアプリ |
|---|---|---|
| プラットフォーム | Dataverseのみ | Dataverse+コネクタ使用 |
| UI設計 | 制限付き | 制限なし |
| UX設計 | コードなしの設計中心 | Power Fx(ローコード関数言語)使用でプロパティの自主操作可能 |
| 環境移行 | 操作簡単 | データソース更新の可能性により、複雑 |
| 作成工数 | 工数短い | 設計により工数変動 |
| 整合性 | 高い(場合による) | 低い(場合による) |
| 応答 | 自動応答 | 設計により応答性が高い |
| テーブル間のナビゲーション | 自動指定 | Power Fx使用で自主設計 |
| ユーザー補助機能 | 組み込み | 自主設計 |
さらに、1000以上のコネクタ(標準版とプレミアム版の制限・条件あり)により、SharePoint、Excel、SQL Server、Salesforce、Google Sheetsなど、社内外の多様なデータソースと接続可能です(2)。開発したアプリは、PC、タブレット、スマートフォンなど様々なデバイスでも利用でき、場所を選ばない柔軟な業務環境を実現できます。
2024年にForrester Research社が発表した調査レポート「The Total Economic Impact Of Microsoft Power Apps」によると、Power Appsを活用した企業では、アプリ開発期間が平均50%短縮され、ROI(投資対効果)は206%、NPV(正味現在価値)は3,100万ドルに達するという結果が報告されています(1)。このように、Power Appsは単なる開発ツールではなく、企業の生産性向上とコスト削減に直結する戦略的投資として、その価値が実証されています。中堅企業のDX推進において、確実なリターンが期待できる選択肢といえるでしょう。
IT部門外に実在するアプリ開発ニーズと課題
多くの企業では、IT部門以外でのAI活用が進まない状況に直面しています。その最大の要因は、新しいアプリケーションやAIソリューションの導入に伴う複雑な承認プロセスと長期化する実装期間です。小規模なチームの生産性向上や個人の業務効率化のためのソリューションをすべてIT専門家が開発しなければならないとなると、彼らはキャパシティの限界に達し、大きな案件に集中せざるを得なくなるという指摘もよく聞きます(1)。
この状況はさらに深刻な連鎖反応を引き起こします。
開発リソースの不足による悪循環
手作業に依存したデータ収集・処理が継続し、AIに必要な質の高いデータの確保が困難になります。
シャドーITの増加
公式なIT承認プロセスの遅延に直面したビジネス部門は、独自にAIツールを導入する「シャドーIT」に走りがちです。特に最近では、ChatGPTなど一般公開されているAIツールを業務で使用するケースが増加していますが、これらを適切に管理できないとセキュリティリスクが高まります。
既存システムとの統合困難
従来のエコシステムでは、カスタムソリューションなしに様々なアプリやサービスを統合することは本質的に容易ではありませんでした。AI機能を既存の業務システムと連携させることも困難を極めます。
Power Apps活用がもたらす5つ革新的メリット
業務効率の飛躍的向上
Power AppsとPower Automateを組み合わせることで、複数のシステムやデータソースにまたがる複雑なビジネスプロセスを自動化できます。高インパクトなユースケースでは、ユーザーの年間労働時間の最大12%、数十時間程度の時間削減が考えられます(1)。
アプリ開発の迅速化と開発コストの削減
Power Appsの直感的な開発環境により、複雑なカスタムコーディングの必要性が大幅に削減されます。これに基づき、専門開発者のリソースをより戦略的なプロジェクトに振り向けることが可能になり、開発コストの削減と開発期間の短縮を同時に実現できます。
コンプライアンスとガバナンスの強化
Power Appsの導入により、企業全体で標準化されたプロセスとワークフローを実施できるようになります。データ検証機能、きめ細かいアクセス制御、包括的な監査証跡により、データの整合性と安全性が確保され、規制要件の遵守が容易になります。特に金融、医療、製造業など、厳格なコンプライアンス要件がある業界において大きな価値を発揮します。
シャドーITリスクの大幅削減
社員が独自に非公認のITソリューションを使用するシャドーITは、セキュリティリスクやデータ整合性の問題を引き起こします。Power Appsは、IT部門が管理する安全な環境内でビジネスユーザー自身がアプリケーションを開発できるローコードプラットフォームを提供することで、この問題を解決します。ユーザーのニーズに応えながら、ITガバナンスを維持できる理想的なバランスを実現できます。
従業員エンゲージメントと満足度の向上
Power Appsを活用することで、業務部門の従業員は自分の課題を自ら解決できるようになります。従来のIT開発プロセスでは何か月もかかっていた業務改善が、数週間あるいは数日で実現できるようになるため、従業員の満足度と生産性が向上します。ユーザーフレンドリーなインターフェースと他のMicrosoft 365アプリケーションとの統合を通じて、デジタルワークプレイスの質を高め、人材確保・定着への寄与も考えられます。
RSM汐留パートナーズが選ばれる理由
Power Appsが持つ数々のメリットを最大限に引き出すためには、自社の業務に合わせた適切なアプリ設計と、導入後の社内への定着が鍵となります。しかし、「どの業務から手をつけるべきか」「自社の複雑な要件をどうアプリに落とし込めばよいか」といった課題に直面することも少なくありません。私たちは、クライアントの皆さまのこうした課題に対し、単なるシステム導入に留まらない、業務変革のパートナーとしてご支援します。
RSM汐留パートナーズの最大の強みは、会計税務・人事労務・法務といった専門性が求められるバックオフィス業務への深い知見です。業務を熟知しているからこそ、どのデータを、どのように活用すれば業務が本当に効率化されるのかを的確に判断できます。単にアプリを作るだけでなく、クライアントの皆さまの基幹システムや会計ソフトとのデータ連携までを見据え、本当に価値のあるデジタル化を設計します。
ご支援は、現状の課題を洗い出す「業務分析」から始め、最適なデータ構造やワークフローを定義する「ソリューション設計」、Power Automateなども活用した「アプリ開発」、さらには導入後の「トレーニング」や「継続的な改善」まで、計画から運用定着までを一貫して伴走します。
これにより、Power Appsの導入効果を最大化し、場当たり的ではない、持続可能なデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を長期的にサポートします。
参考資料:
(1)The Total Economic Impact™ Of Microsoft Power Apps
(2)すべての Power Apps コネクタの一覧 | Microsoft Learn
(3)Power Apps を使用したモデル駆動型アプリの構築の概要 – Power Apps | Microsoft Learn




