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芸能人に確定申告は必要か。個人事業主としての義務と判断基準

芸能人に確定申告は必要か。個人事業主としての義務と判断基準

会計・税務
2026年2月9日

本日は、芸能界で活動される皆様に向けた確定申告の実務と、その重要性について詳しく解説いたします。

芸能活動と一口に言っても、タレント、俳優、声優、アーティスト、モデル、インフルエンサーなど、その形態は非常に多岐にわたります。ここで重要なのは、活動の対価として受け取る報酬が「給与所得」として年末調整で完結するものなのか、それとも「事業所得」として自ら確定申告を行う必要があるのかという点です。
 

(1)所得区分の考え方:給与所得か事業所得か 

芸能活動に従事する方が一律にどちらの区分に該当するかを断定することはできません。しかし、実態としては多くの方が個人事業主(独立した事業者)として活動しており、事業所得として確定申告を行っています。事務所との契約書の内容に左右されますが、特別な雇用関係にない限りは、個人事業主としての申告が必要であると捉えて差し支えありません。
 

(2)芸能プロダクションとの契約実態 

理解を深めるために、大手お笑い系事務所などに所属する芸人の立場を例に考えてみましょう。若手芸人がメディアで「1回の出演料が数百円である」といったエピソードを披露することがありますが、もし彼らが事務所の「従業員」として雇用契約を結んでいるのであれば、労働基準法における最低賃金の規定に抵触する恐れがあります。 

しかし、実際には所属タレントと事務所の間で結ばれているのは「雇用契約」ではなく、マネジメントを委任する「委任契約(専属タレント契約など)」であるケースがほとんどです。事務所の職員(マネージャーや事務スタッフ)は従業員ですが、タレント自身は独立した事業者として、事務所から「報酬」を受け取っているという解釈になります。 

バラエティ番組などの密着企画で、芸人の方々が会食やタクシー移動の際に「領収書を必ず受け取る」という姿勢を見せるのは、彼らが自営の「一人親方」であり、経費管理が自身の生活と納税に直結しているからです。一方で、テレビ番組等で「完全月給制」であることを公表しているタレントの方などは、給与所得者に該当し、事務所側で年末調整が行われている場合もあります。
 

(3)確定申告の要否を判断する基準 

自身が確定申告を行うべきかどうかは、主に以下の項目を精査して判断します。

  • 個人事業主としての事業所得がある: 事務所から支払調書を受け取っている場合などが該当します。 
  • 給与年収が2,000万円を超える: 給与所得者であっても、高額所得の場合は自身での申告義務が生じます。 
  • 副業所得が20万円を超える: 給与を1箇所から受け取り、かつそれ以外の所得(事業所得、不動産所得など)の合計が20万円を超える場合。 
  • 複数箇所からの給与: 2箇所以上の事務所等から給与を受け取っており、年末調整をされていない給与とその他の所得の合計が20万円を超える場合。

確定申告において、納税額を適正に算出するために最も重要なのが「必要経費」の計上です。経費とは「売上を得るために直接要した費用」を指します。これを適切に申告することで、課税対象となる所得金額が抑えられ、結果として税負担を軽減することが可能です。 

芸能界は特殊な職業柄、プライベートとの境界が曖昧になりやすい項目が多く、税務上の判断には細心の注意が必要です。
 

主要な経費項目の一覧

  1. 人件費・外注費: 専属マネージャーやスタイリスト、付き人を個人的に雇用している場合の給与や、外部への業務委託料。 
  2. 地代家賃: 事務所、稽古場、衣装の保管倉庫などの家賃。自宅を事務所として併用している場合は、仕事で使用する面積や時間に基づき「家事按分」を行い、一部を経費計上できます。 
  3. 賃借料(リース料): 仕事で使用する機材、楽器、車両などのリース料金。 
  4. 旅費交通費: スタジオやロケ地への移動にかかる電車・バス・タクシー代、地方公演時の宿泊費。 
  5. 通信費: 業務連絡用のスマートフォン料金、SNS発信や情報収集のためのインターネット利用料、ファンレターの郵送料など。 
  6. 広告宣伝費: 宣材写真の撮影、自身のホームページ制作、パンフレットやノベルティの作成費用。 
  7. 調査研究費(業界特有): 役作りのための観劇・映画鑑賞、資料用の書籍購入、ボイストレーニング、稽古代、取材旅行の費用。これらは収入向上に直結する理由があれば認められますが、税務調査で指摘を受けやすいため、合理的な説明が必要です。 
  8. 接待交際費: プロデューサーや制作スタッフとの会食、番組関係者への差し入れ、祝儀・不祝儀、お中元・お歳暮。 
  9. 消耗品費・PC関連: 業務用パソコンの購入費、仕事用の文房具、タブレット端末、周辺機器など。 
  10. 美容・衣装代: 番組出演や撮影のために不可欠なエステ、化粧品、美容院代、衣装代、クリーニング費用。 
  11. 専門家報酬: 税理士や弁護士に支払う顧問料や申告書作成手数料。 

芸能人が事業所得者として申告を行う際、一般的には以下のステップで進めていきます。
 

(1)申告用紙の選定と入手 

申告は税務署または国税庁の「確定申告書作成コーナー」で行います。 

  • 申告書第一表・第二表 確定申告で使用する一般的な様式です。 
  • 申告書第四表(損失申告用): 活動初期で経費が収入を上回り、赤字となった場合に使用します。アルバイト等の給与所得がある場合、損益通算によって源泉徴収された税金の還付を受けられる可能性があります。 


(2)必要書類の整理 

  • 支払調書: 事務所から発行される、年間報酬と源泉徴収税額が記載された書類。 
  • 領収書・レシート: 経費の証憑として、Excel等で集計し、整理保管します。 
  • 通帳: 報酬の振込や経費の引き落とし履歴を確認します。 
  • 控除証明書: 社会保険料や生命保険料の控除を受けるための書類。 


(3)書類の作成と提出 

白色申告と青色申告の選択により、作成する決算書(収支内訳書または青色申告決算書)が異なります。なお、確定申告書の職業欄には「芸能人」「俳優」「タレント」など、自身の活動実態を反映した名称を記載します。
 

(4)青色申告制度 

事業所得のある方は、一定水準以上の帳簿を備え、適正な申告を行うことで、税務上の特典が受けられる青色申告制度の適用を受けることができます。 

青色申告では、原則として複式簿記による記帳が求められる一方、損失の繰越や最大65万円の青色申告特別控除など、税務上の各種の恩恵を受けることが可能です。青色申告の適用を受けるためには、原則として、その承認を受けようとする年の3月15日までに、納税地の税務署に青色申告承認申請書を提出する必要があります。
 

(5)提出と納税・還付 

確定申告書の提出期間は原則として毎年2月16日から3月15日です。還付が発生する場合は、1月1日から提出が可能です。提出は税務署窓口、郵送(消印有効)、またはe-Taxによる電子申告が選択できます。 

納税が必要な場合は3月15日までに納付します。一方、住民税については申告した所得に基づき、5月以降に決定通知が届き、6月から納付が始まります。高額な報酬を得た翌年は住民税の負担が大きくなるため、納税資金の確保に留意が必要です。
 

(6)消費税申告 

前々年の売上高が1,000万円を超えている方や、インボイス制度の登録をされた方は、所得税に加えて消費税の申告義務が生じます。個人の消費税の申告期限は3月31日であり、所得税の期限(3月15日)とは異なりますが、資料整理や計算工程が重なるため、確定申告と同時進行で準備を進めるのが最も効率的です。近年の制度改正により、消費税は計算方法の選択肢が増え、判断には一層の専門性が求められます。適正な申告のためにも、お早めに専門家へ相談されることをお勧めいたします。 

確定申告は、自身の活動を客観的に見つめ直し、適正な納税を行う重要な手続きです。一方で、多忙を理由とした申告漏れやミスが招くレピュテーションリスクは甚大であり、長年にわたり積み上げた社会的信頼を瞬時に失う危うさをはらんでいます。プロフェッショナルとしてのイメージを盤石なものにするためにも、正確な税務処理は不可欠な戦略といえるでしょう。

しかし、日々の多忙な活動の中で、制度改正も頻繁な税務判断を正確に行うのは容易ではありません。RSM汐留パートナーズでは、エンターテインメント業界特有の事情に精通した税理士が、複雑な税務判断を正確に行い、将来にわたるクリーンな活動を支えるパートナーとして、皆様の確定申告を強力にバックアップいたします。

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