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長谷川 祐哉 Yuya Hasegawa

この記事の著者

長谷川 祐哉 Yuya Hasegawa

パートナー  / 税理士

インボイス制度の導入-小規模事業者に対する納税額の軽減制度や補助金申請のポイント

2023年10月23日

はじめに

今回、具体的な説明を行なう内容は次の通りです。まずは、簡易課税とインボイス制度のどちらを選択すると良いかについてです。次に、適格請求発行事業者となる場合、どのような手続きがいつまでに必要になるのかについてです。インボイス制度の導入は事業者によって事務作業や経済的な負担が増大してしまいます。そのため、令和5年度税制改革によって、小規模事業者に対して、支援措置が講じられました。まずは、その支援措置から説明します。

納税額の軽減制度

令和5年度税制改正で大きく打ち出された支援策は“2割特例”です。消費税の納税額を簡便的に計算し事務負担を軽減させ、税負担も軽減させる制度です。対象者は2年前(基準期間)の課税売上が1000万円以下等の要件を満たしている事業者のみです。つまり、インボイス制度の導入がなければ消費税の納税義務が生じた事業者になります。元々消費税の納税義務者である場合はこの制度の対象とならない点に留意してください。

この“2割特例”の場合、納税額は売上額にかかる消費税の2割です。本則課税(一般課税)、簡易課税、2割特例の3つのケースで納税額がどのように異なるか以下で比較します。

例:建設業(第3業種の建設業 みなし仕入率70%)
売上高700万円(税額70万円)、経費150万円(税額15万円)のケース
本則課税:70万円-15万円=55万円
簡易課税:70万円-(70万円×70%)=21万円
2割特例:70万円-(70万円×80%)=14万円

2割特例の計算方法は、簡易課税制度のみなし仕入率が80%である場合と同様です。そのため、みなし仕入率が80%以上である第1業種・第2業種以外の場合は、2割特例を適用した方が納税額を少なくできます。建設業の場合、第3業種(みなし仕入率70%)、もしくは第4業種(みなし仕入率60%)の場合が多いため、納税額が高くなる簡易課税を選択するメリットは少ないと思います。ですので、業種によって本則課税か2割特例のいずれかの適用を検討することも重要でしょう。

補助金

小規模事業者を中心にインボイス関連で申請できる補助金は主に2つあります。

①小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金は賃上げ枠や創業枠等があります。これは小規模事業者が自社の経営を見直し、販路開拓や生産性向上を支援するための補助金です。今回は、特例として、この補助金に上乗せされる形でインボイス枠が設けられました。そのためインボイス事業者登録に要した費用のみを、できるだけ手間をかけずに申請したいという場合は、②で説明をするIT導入補助金の方が適切かもしれません。

詳細は全国商工会連合会のガイドブックをご参照ください。

②IT導入補助金

IT導入補助金には複数の枠があり、インボイス制度導入の際に利用しやすい例枠としてデジタル基盤導入類型があります。ITツールやPC・タブレットが補助対象で、補助金額は次の通りです。

  • ITツール:~50万円(補助率3/4以内)、50万円~350万円(補助率2/3位内)
  • PC・タブレット等:~10万円(補助率1/2以内)
  • レジ・券売機等:~20万円(補助率1/2以内)

今回、補助下限額が撤廃されたため、中小事業者が主に利用する安価なプランも対象になりました。この補助金を申請するには、いくつかの要件があります。

  • gBizID(経済産業省や中小企業庁の複数の行政サービスを1つのアカウントにより利用することのできる認証システム)
  • 「SECURITY ACTION」(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する中小企業・小規模事業者等自らが、情報セキュリティ対策に取組むことを自己宣言する制度)での宣言
  • 「みらデジ」(中小企業庁が実施する中小企業・小規模事業者等の経営課題をデジタル化により解決することをサポートするポータルサイト)の登録と経営チェックを行うこと

申請にあたって初めて実施する要件もあるでしょうが、専門家に依頼しなくても可能な難易度の作業です。申請にかかる手間と、申請できる補助金額を鑑みながら申請を検討すると良いかもしれません。

インボイス制度の申請手順や申請期限

実際に適格請求書発行事業者(=インボイスを発行できる業者として登録した事業者)となることを決定した場合、納税地を所轄する税務署長に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出する必要があります。窓口だけでなく、e-Taxや郵送でも申請可能です。

申請期限ですが、インボイス制度が開始される令和5年10月1日から登録したい場合は、令和5年9月30日までに登録申請書を提出する必要があります。申請書の提出を終え登録通知が届くまでには日数を要します。ですが、登録通知書が届いていなくても、提出が完了していれば同日から登録されたものとみなされます。

また、登録申請時点で2割特例を受けるかどうかを選択する必要はなく、申告時に選択すれば良いこととなっています。

申請手続の経過措置

インボイス制度開始後の申請についても、経過措置が設けられています。

令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日が属する課税期間中に登録申請を行うことで、提出した日から15日以降の希望の日から登録することができるという経過措置が設けられています。そして、この経過措置を受ける者が簡易課税制度を希望する場合、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができます。ただし、簡易課税制度は一度選択すると2年間は継続して適用されるため、翌事業年度のことも考慮して選択することをおすすめします。

また簡易課税を選択した場合も、2割特例を受けるかどうかは申告時に選択すれば良いです。

おわりに

インボイス制度について、増税というイメージを持たれる免税事業者もいるかもしれません。ですが厳密にいうと、今まで納めるべき消費税が免除されていたところ、きちんと納めなければならなくなったというのが実態です。もちろん制度の対応に時間や費用が掛かってしまうという面もありますが、適切な価格交渉に成功すれば、自社ビジネスの価値を高める機会にできます。

とはいえ、免税事業者が適格請求書発行事業者として登録すれば納税する金額が必ず増えます。その中で、経過措置や簡易課税制度を理解することで、できるだけ納税額を少なくすることも可能になるでしょう。

税金関係の制度はわかりにくいものが多いですが、少しの手続等で納税額が大きく変わることもありますので、検討してみてください。

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