建設業における収益認識に係る内部統制リスクを収益認識の各ステップ毎に紹介
2023年11月9日
はじめに
今回は監査・保証実務委員会研究報告第34号「建設業及び受注制作のソフトウェア業における収益の認識に関する監査上の留意事項」を参考に、収益認識の各ステップに存在するリスクをご紹介します。
収益認識における5つのステップ
収益認識のステップは以下のようになっています。
- (1)契約の識別
- (2)履行義務の識別
- (3)取引価格の算定
- (4)取引価格を履行義務へ配分
- (5)履行義務の充足に対応した収益の認識
次節からそれぞれのステップの詳細と考えられるリスクについて説明していきます。
各ステップの内部統制リスク
(1)契約の識別
このステップにおけるリスクは、取引条件について取引開始後に合意するとき発生します。
ここで、建設業の通常の契約は収益認識基準での「契約」にあたると思われます。しかし、中には取引開始のあと徐々に合意が形成される場合も考えられます。この場合、事後的に要件を満たした時点で収益認識基準を適用することになるため、その処理が漏れるリスクがあります。なお、収益認識基準における契約とは、下記の5要件を満たしている場合に認められます。
- 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
- 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
- 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
- 契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること)
- 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと
(2)履行義務の識別
このステップにおけるリスクは、履行義務の識別が恣意的になる可能性があることです。
解体工事と新築工事を1つの契約で請け負うような場合、履行義務の性質が一目ではわかりにくいことがあります。例えば、解体工事と新築工事を別個の履行義務として認識すべきところを1つの収益認識単位とした場合、解体工事の義務を履行した時点で新築工事の履行義務も充足したことになり、収益を認識してしまいます。これは極端な例示ですが、履行義務の識別を誤ることで、その後の収益認識も間違ったものになってしまいます。
また、建設業において収益認識基準の適用するとき変更が生じることが多いため注意すべきなのが、本人と代理人の区分です。収益認識基準では特定の財又はサービスの顧客への提供において関与しているのが本人なのか代理人なのか、個々の取引の態様によって判断する必要があります。
例えば、建材や機器等を販売しているケースでは、本人であれば通常の売上高と同様に売上と仕入を総額で計上しますが、代理人であれば売上と仕入を総額ではなく純額で収益を認識します。このように本人と代理人の区分によって、収益認識の金額を誤るリスクがあります。
(3)取引価格の算定
工事契約等では、当初の契約金額は、契約書等により確定しているものですが、契約の追加が合意されたものの、対価についての変更が契約書等によって適時に確定できていないことがあります。また、スライド条項等による事後的な値引き又は値増し、契約条件に基づくペナルティー又はインセンティブ等により、契約金額が増額・減額されることもあり得るでしょう。こうした変動対価を見誤った場合には収益を不適切に増額・減額させるリスクがあります。
(4)取引価格を履行義務へ配分
複数の履行義務に関し包括契約を結んだ場合、個別性が高く独立販売価格を直接確認できないことがあります。適切に見積もられていない独立販売価格の比率に基づき取引価格が配分される場合、または、値引き及び変動対価の履行義務への配分を誤った場合、実態とは異なる配分になる可能性があります。
(5)履行義務の充足に対応した収益の認識
履行義務の充足に係る進捗度を見積る方法には以下に挙げたアウトプット法とインプット法の2つがあります。財・サービスに対する支配を顧客に移転する際に選択される方法は、企業の履行を適切に描写する方法でなければなりません。
・アウトプット法
その時点までに完了した履行の調査・マイルストーンによって、進捗度を測定する方法をいいます。進捗を出来高で把握するので実態と乖離しにくい一方、出来高を定量的に測定できるルール構築が必要です。プロセスを細分化させ工程ごとに作業負荷等を加味させるなど、測定が恣意的にならないような客観的で詳細なルールの整備・運用などが必要です。
・インプット法
その時点で発生したコストや労働時間を基に進捗度を測定する方法をいいます。発生したコストや労働時間に基づくため恣意性は低いといえますが、高額な費用が特定のタイミングで発生するようなプロジェクトでは、費用の発生と履行義務の進捗がずれる可能性があります。また、発生する見込みの原価総額が適切に見積もれない状況では進捗度の誤った計算がなされるため、インプット法の選択は好ましくありません。一般的に工事契約は、工事の途中で契約の変更が行われることがあります。事情の変化に関する情報が適時・適切に反映されていないことにより、工事原価総額の見積りも変更されず、結果収益認識を誤ることにつながります。また、発生したコストの不適切な振替・付替が行われるリスクも考えられます。
工事進行基準、収益認識基準のどちらも、適用に際しては見積りや主観的な判断を要する部分が多くなるでしょう。そういった部分にはリスクがつきものです。まずは、そのリスクの性質や重要性によって、コントロールの整備が必要かどうかの判断を要します。コントロールが必要になるときにも、見積りや主観的な判断を伴う場面では、客観的な根拠証憑と突き合わせるなどのコントロールの実施が困難になるでしょう。そういったリスクに対する主なコントロールのためには、担当者とは別の責任者または部署が担当者の行った見積りの検討・承認をする、という業務フローを設けます。そこには専門的知識を要することが多いため、チェックをする側とされる側の双方が、チェックに求められる知識を備える必要があります。
おわりに
今回は建設業での内部統制のうち収益認識に関するリスクについてご紹介しました。
実際にこれらを実行するにあたっては実施できる人材が限られており、社内のリソースだけでは難しいかもしれません。内部統制は、場合によっては事務負担が増大し、業務効率を低下させてしまうこともありますのでバランスが重要になってくるでしょう。
結果的に社内リソースを投入できないとしても、建設業界は会計処理に際して見積りや主観的な判断が必要になることが多いため、どういったリスクが存在するのか一度把握することは有益でしょう。場合によっては専門家に相談するなど、アウトソーシングを利用することも1つの手です。