建設業における倒産状況とその背景にある諸問題とは
2023年11月30日
はじめに
帝国データバンクは建設業動向調査を行い、2021年の倒産件数は過去最少水準であったことを発表しています。
新型コロナウィルスが大きな影響を与えている中で、倒産件数が少ないというのは意外にも感じられるかもしれません。しかし、倒産件数が減少傾向を示しているとしても、必ずしも建設業界の見通しが明るいわけではありません。
建設業の倒産をテーマに、建設業の現状と課題を解説します。
全産業の統計(2021年度)
建設業の数値を見る前に全産業の状況を紹介していきます。
東京商工リサーチが公表したデータでは、2021年度の全国企業倒産件数は6,030件となっています。2年連続で前年度を下回り、高度経済成長期以後では最低水準でした。また、倒産した企業が抱えている負債総額は7,053億5,600万円で、4年連続で前年を下回っています。最も規模の大きい倒産は(株)東京商事で、負債総額1,004億8,300万円として特別清算開始の決定を受けました。次いで電力小売の(株)F-Powerや蓄電池販売を行っているD-LIGHT(株)など、エネルギー関係の企業が倒産しています。
また、倒産している企業の中で新型コロナウィルスに関連している倒産は1,718件であったと公表されています。
建設業の統計(2021年度)
帝国データバンクは、2021 年に倒産した建設業者の集計・分析を行い、その結果を公表しています。そのデータでは2021年に倒産した建設業の件数は1,066件で、前年と比べ15.8%減少しました。2000年以降では2009年と2019年以外は前年度を下回り、減少傾向が続いています。その中で、建設業者の中で倒産している業種の割合は建築工事関係の業種が上位を占めています。コロナ禍によって、新設住宅着工件数の減少や、建築資材の高騰などが影響を受けているとみられています。2021年においてこの業種が厳しい状況であった点は2020年と同様です。
負債総額も3年連続で小規模化し、金額は1,066億8600万円となっています。負債規模の大きさでいうと、富山県にある相沢建設(株)の34億3,300万円や大分県にある(株)九設の30億6,400万円といった企業もあります。しかし、全体の約6割は負債額5,000万円未満となっています。
帝国データバンクと集計方法が若干異なりますが、東京商工リサーチのデータでは、2021年度の建設業における新型コロナウィルス関連倒産は198件となっています。2020年の68件と合わせて倒産件数は累計266件で推移しています。
建設業界における新型コロナウィルス関連倒産の傾向
産業界全体、建設業界どちらも倒産件数が減少しているのと同じく、倒産した企業の負債規模も縮小しています。
しかし、新型コロナウィルス関連倒産に関しては、他の業界と比較した場合、建設業界は厳しい状況といえます。建設業では、2021年度に新型コロナウィルス関連倒産をした件数は198件と、前年度の68件と比べ約3倍の数字となっています。一方で全産業では、1,718件と、前年度の843件に比べ約2倍のため、建設業の倒産の増加スピードの速さが浮き彫りになっています。結果として、2020年4月に初めて発生した建設業の新型コロナウィルス関連倒産ですが、2022年3月初旬には累計318件まで増えています。倒産した建設業での業種別件数の内訳は以下のようになっています。
(出典:東京商工リサーチHP)
新設住宅着工件数の減少以外に、「ウッドショック」や「アイアンショック」のように価格高騰が重なったことが背景にあります。また、在宅建築を中心に取り扱う建築、リフォーム、内装業者は小規模事業者が多いため、元々の財務基盤が弱いという特徴があります。価格高騰や財務基盤などの理由が重なったことが、建設業のコロナ倒産が増加した大きな要因といえます。日本政策金融公庫が公表している業種別の融資残高の推移をみると、融資残高の増加率はサービス業に続き建設業は2番目です。
(単位:億円、%)
平成28年度末 | 平成29年度末 | 平成30年度末 | 令和元年度末 | 令和2年度末 | |
---|---|---|---|---|---|
製造業 | 26,752 (47.1) | 25,881 (46.9) | 24,871 (46.7) | 23,874 (45.8) | 32,201 (39.2) |
建設業 | 2,602 (4.6) | 2,559 (4.6) | 2,521 (4.7) | 2,494 (4.8) | 5,164 (6.3) |
物品販売業 | 9,201 (16.2) | 8,955 (16.2) | 8,343 (15.7) | 7,871 (15.1) | 14,137 (17.2) |
運輸・情報通信楽 | 5,389 (9.5) | 5,356 (9.7) | 5,382 (10.1) | 5,499 (10.6) | 8,506 (10.4) |
サービス業 | 6,010 (10.6) | 5,818 (10.6) | 5,842 (11.0) | 6,125 (11.8) | 14,889 (18.1) |
その他 | 6,887 (12.1) | 6,562 (11.9) | 6,302 (11.8) | 6,211 (11.9) | 7,281 (8.9) |
合計 | 56,844 (100.0) | 55,133 (100.0) | 53,264 (100.0) | 52,079 (100.0) | 82,180 (100.0) |
(注)
- 融資残高には、社債を含みます。総貸付残高から設備貸与機関貸付及び投資育成会社貸付を除いたものの内訳です。
- ( )内は構成比です。
(出典:日本政策金融公庫HP)
新型コロナウィルス禍の支援策として多額の融資が実行されてきました。そのため、返済が開始されると、減収傾向が続いている状況下では過剰債務に陥り、企業は徐々に倒産の危機に晒されることが考えられます。
建材価格の高騰の影響から、今後も減収が続くといわれています。本来は、上昇した仕入価格は販売価格に反映されることが自然です。しかし現状は、建材会社と施主との間で建設会社にしわ寄せが集中しています。このように、販売価格に反映されにくい背景について、詳しく説明をします。
価格の反映について
帝国データバンクでは、仕入単価が上昇した企業の割合を調査しています。2021年12月時点の統計では産業全体で64.2%と、リーマンショックがあった2008年(65.5%)以来の高水準となっています。建設業に限定すると仕入単価が上昇したと回答した企業の割合は72.7%で、51業種中14番目の結果となっています。
建設業は他業種と比較しても高い割合で仕入単価が上昇しているという結果となっています。しかし、建設業で仕入単価の上昇分を販売単価に反映した企業の割合は31.1%と、適切に価格転嫁が行われているとはいえません。また木材の主要輸入相手国の一つにロシアが含まれていることも懸念の材料となっています。ウクライナ情勢不安が続く中、さらなる「ウッドショック」による価格の高騰は、当面の間継続するでしょう。
仕入単価が上昇した割合 ~51業種別、上位25業種~
順位 | 51業種 | 仕入単価が上昇した 割合(%) | 仕入単価が上昇した企業で、販売単価が上昇した割合(%) |
---|---|---|---|
1 | 鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売 | 92.7 | 87.2 |
2 | 鉄鋼・非鉄・鉱業 | 88.7 | 56.3 |
3 | 化学品製造 | 83.3 | 51.1 |
4 | 飲食店 | 83.1 | 28.6 |
5 | 機械製造 | 82.0 | 34.8 |
6 | 電気機械製造 | 81.4 | 31.0 |
7 | 飲食料品・飼料製造 | 80.5 | 31.8 |
8 | 建材・家具、窯業・土石製品製造 | 80.3 | 52.7 |
9 | 再生資源卸売 | 80.0 | 83.3 |
10 | 精密機械、医療機械・器具製造 | 79.5 | 32.3 |
11 | 繊維・繊維製品・服飾品製造 | 77.3 | 35.3 |
12 | 建材・家具、窯業・土石製品卸売 | 77.0 | 66.9 |
13 | 輸送用機械・器具製造 | 74.3 | 32.1 |
14 | 建設 | 72.7 | 31.1 |
15 | 化学品卸売業 | 71.6 | 67.2 |
16 | 繊維・繊維製品・服飾品卸売 | 69.4 | 32.5 |
17 | 飲食料品卸売 | 65.2 | 62.6 |
18 | 専門商品小売 | 64.8 | 85.4 |
19 | 機械・器具卸売 | 64.4 | 55.5 |
20 | 農・林・水産 | 63.1 | 29.3 |
21 | 運輸・倉庫 | 60.0 | 19.2 |
22 | 飲食料品小売 | 59.7 | 40.5 |
23 | パルプ・紙・紙加工品製造 | 58.5 | 10.9 |
24 | 出版・印刷 | 57.5 | 17.7 |
25 | 各種商品小売 | 56.8 | 52.0 |
注:販売単価が上昇した企業は、仕入単価が上昇した企業のうち、前年同月と比べて販売単価が「やや上昇」「非常に上昇」した企業の合計
出所:TOB景気動向調査(2021年12月)
建設業の人手不足
建設業では人手の確保ができず倒産に追い込まれるケースも増加し続けています。
労働基準法の改正や36協定の締結など、どの業種でも労働環境の改善が進んできています。建設業でも、法整備だけでなく建設キャリアアップシステムなどのような新たな制度を取り入れて、労働環境や処遇の改善に取り組んでいます。しかし、その効果が出ているとは言い難く、就業者の数は減少しています。
(出典:日建連ハンドブック2021)
また、人手不足を補うため外国人労働者の雇用が年々増加していましたが、コロナ禍により外国人の雇用が困難な状況となりました。新型コロナウィルス感染症が収束していけば外国人雇用も再び増加すると考えられますが、変異株の流行が続く中、それがいつになるのか不透明な状況です。
(参考:厚生労働省 外国人雇用状況の届出状況について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/gaikokujin-koyou/06.html)
おわりに
建設業の倒産状況とその背景にある諸問題について説明をしました。倒産件数は最低水準であることから、政府の支援策は一定の効果があったといえるでしょう。しかし、以前から懸念されていたが目立った改善がみられない人手不足等の問題に加え、コロナ禍という突発的な事情が重なり、政府の支援策を受けぎりぎりで耐えていた企業の倒産が徐々に増加するとみられています。融資のように一時的な状況の緩和ではなく、並行して原因の改善を実行されることが急務といえる状況です。