管理会計×データ分析で実現する、見える経営と意思決定のDX
2025年8月4日
はじめに:管理会計の可視化・分析の重要性
IPO準備中の企業や、上場後まもない企業が直面する課題のひとつが「管理会計体制の未整備」です。
- 「数字はあるけど、意思決定に活かせていない」
- 「経営指標が属人的に作られている」
- 「投資家に納得感ある説明ができない」
――このような悩みは、実は多くの成長企業が抱えているものです。
近年、経営管理においても“データドリブン経営”の重要性が高まっており、その中心にあるのが管理会計の可視化と分析のDX化です。本稿では、専門的なITスキルがなくても実践できる、管理会計におけるデータ利活用の第一歩をご紹介します。
経営管理が属人的だと何が問題なのか?
IPOを控える企業では、決算体制の整備に目が向きがちですが、同時に問われるのが月次の業績管理やKPIの把握体制です。
- 部門別の損益がExcelで都度手作業で集計
- 担当者によってKPIの定義がバラバラ
- 月次で報告される数字の粒度やタイミングが不統一
- 予算作成の根拠数値の集計に膨大な時間がかかっている
これでは、経営層が「今、何が起きているのか」を正確に把握できず、判断が遅れたり、不要な投資やリソース配分ミスが発生してしまう可能性が高まります。
管理会計の“見える化”が生み出す効果
管理会計の目的は、過去を分析することではなく未来の意思決定をサポートすることにあります。この役割を果たすためには、リアルタイムかつ部門別・プロジェクト別の損益やKPIを定量的に把握できる体制が不可欠です。たとえば、次のような可視化があるだけでも、現場と経営層の間での議論がまったく変わってきます。
例:KPIダッシュボードでの可視化(Power BI)
- ・売上/粗利の月次推移(前年同月比や予算比の色分け)
- 部門/商品カテゴリ別の利益率ヒートマップ
- 広告費/人件費などの販管費と売上の相関グラフ
これらをPower BI(*1)やTableau(*2)などのBIツールで構築すれば、Excel集計と比べて圧倒的にスピーディーかつ視覚的に状況が把握可能になります。
管理会計のデータ分析でよく使われる手法例
特別な分析スキルがなくても、以下のようなシンプルな視点で十分に効果があります。
① 予算比や前年比の“ブレ”を捉える(差分分析)
売上や利益が予算と比べてどれほど乖離しているか、時系列で確認します。
→ 特定部門や月だけ著しく乖離していれば、追加分析の対象に。
使用ツール:Excelの差分関数 or Power BIのDAX式
② 指標間の関係性を探る(相関・分布分析)
例え例えば、「広告費と粗利率の相関」や「人員数と売上高の関係」など、どのKPIが業績に効いているかを散布図や相関係数で分析します。
使用ツール:Excelの散布図、BIツールの散布図チャート
分析よりも大切な“定義”と“継続性”
データ分析を始めるうえで、実は最も重要なのは「何をKPIとするか」「どう切り口を設定するか」「誰がどの数字を見るのか」を定義することです。
つまり、分析の前に必要なのは“共通言語としての管理会計設計”です。
以下のような観点を整理するだけでも、データ分析の意味合いがぐっと明確になります。
- KPIは何か?(例:受注件数、平均単価、解約率、稼働率)
- どの単位で管理するか?(部門別・顧客別・プロジェクト別など)
- 誰がいつ見るか?(週次?月次?経営会議用?)
この整理があることで、単なる“ダッシュボードのお披露目”に終わらず、現場で数字が生きる管理会計に進化していきます。
まとめ:データ分析は“管理会計の民主化”を進める
管理会計は、もはや経理部門だけのものではありません。
営業部門も、開発部門も、経営陣も、同じ数字を見ながら意思決定ができる環境こそが、これからの強い組織に不可欠です。
- 身近なツールで十分、まずは可視化から始める
- KPIと分析軸の“定義”こそが成否のカギ
- スモールスタート+継続的改善がDXの第一歩
経営管理におけるデータ分析は、「難しい統計処理」ではなく、「見たい数字を、見たいタイミングで見られる状態を作ること」から始まります。
データを制するものは、意思決定を制する。その第一歩を、今日から踏み出してみませんか?
用語解説
*1:Power BI
Microsoftが提供するBIツールのサービス名です。
BIツールのBIとは「ビジネス インテリジェンス (Business Intelligence)」の略で、例えば売上実績など、企業の膨大なデータを分析、ひと目で分かるように可視化して、ビジネスの迅速な判断・意思決定に役立つソフトウェアのことです。
*2:Tableau
Tableau Software社によって生み出されたBIツールです。
現在はSaleforce社の傘下で運営されています。複雑なデータの可視化が得意なBIツールの1つです。より高度な分析を行う際に有用です。