近年、ストーカー被害や隣人トラブルなど、私生活における不安を背景とした事件が増えています。こうした問題は一見すると「プライベートな出来事」に見えますが、実際には従業員の集中力や判断力、精神状態に影響を及ぼし、仕事にも少なからず支障をきたします。警察に32年間勤務してきた立場から見ても、私生活の不安が仕事に与える影響は、企業が想像している以上に大きいと感じています。本コラムでは、企業が従業員の不安とどのように向き合うべきかを、「福利厚生としての防犯・安全対策」という視点から考えてみたいと思います。
1.「プライベートな不安」は、仕事の外に置いておけない
ストーカー被害や近隣トラブルを抱える方の多くは、日常生活そのものに強い緊張を強いられています。
- 帰宅時に後をつけられていないか
- 自宅周辺で不審な気配がないか
- 家族や同居人に影響が及ばないか
こうした不安が頭から離れない状態で、仕事に集中することは容易ではありません。
それでも多くの方は、
「私的な問題を職場に持ち込むべきではない」
「周囲に迷惑をかけたくない」
という思いから、誰にも相談できないまま働き続けています。
その結果、判断力の低下や業務効率の悪化、体調不良、メンタル不調といった形で、徐々に仕事へ影響が表れていきます。これは個人の問題であると同時に、企業にとっても無視できない経営リスクと言えるでしょう。
2.「警察に相談すれば解決する」とは限らない現実
トラブルに直面した際、「警察に相談すればよい」と考える方は少なくありません。もちろん、警察への相談は重要な選択肢の一つです。しかし実際には、警察が対応できる範囲には法的な限界があります。明確な犯罪行為が確認できない段階では、対応が後手に回るケースも少なくありません。
その結果、
- 相談したものの、思うような対応を受けられなかった
- 「まだ様子を見るしかない」と言われ、不安が解消されなかった
と感じる方もいます。
これは警察の怠慢ではなく、制度上の制約によるものですが、当事者にとっては「不安を抱えたまま日常に戻る」状況が続いてしまいます。
3.警察OBだからこそできる「寄り添い方」
私が警察に在職していた32年間、多くのトラブルや被害相談に向き合ってきました。その中で強く感じてきたのは、被害が深刻化する前の段階で、話を聞き、状況を整理することの重要性です。
警察OBという立場だからこそ、
(1) 現在の状況がどの程度のリスクなのか
(2) 警察が対応できる領域と、できない領域はどこか
(3) 今後、どのような行動を取ることが望ましいか
といった点を、過度に不安を煽ることなく、冷静にお伝えすることができます。必ずしも問題を「解決」できるとは限りません。
しかし、「自分の置かれている状況を客観的に理解できる」「一人で抱え込まなくてよいと感じられる」ことは、当事者の精神的負担を大きく軽減します。
4.企業が従業員の不安に向き合う意味
RSM汐留パートナーズが提供する防犯・安全対策は、事業所や施設を守るためのものにとどまりません。その根底にあるのは、企業に属する「人」を守るという考え方です。
業員が安心して働くためには、制度や設備だけでなく、
- 何かあったときに相談できる窓口がある
- 専門的な視点で話を聞いてもらえる
という心理的な安心感が欠かせません。
私はRSM汐留パートナーズにおいて、この取り組みを、福利厚生の一環としての防犯・安全支援として位置づけたいと考えています。企業が従業員の私生活すべてを守ることはできません。しかし、「見て見ぬふりをしない」「寄り添う姿勢を示す」ことはできます。
5.保秘の徹底
相談内容の中には、会社に知られたくないと感じるものも少なくありません。安心して相談いただくためにも、相談者のプライバシーと意向を最優先し、相談内容や個人が特定され得る情報は、相談者の同意なく第三者(会社を含みます)へ共有しないことを徹底します。
一方で、相談者ご本人が「会社にも状況を理解してほしい」「関係者と連携しながら解決したい」と希望されるケースもあります。その場合も、共有の範囲・共有先・共有方法を含めて事前に丁寧に確認し、相談者の意思を尊重したうえで必要最小限の情報共有にとどめます。いずれの場合も、相談者が不利益を被ることのないよう細心の注意を払い、安心して相談できる環境づくりに努めます。
6.防犯・安全対策は、働くための土台づくり
防犯や安全対策は、事故や事件を防ぐためだけのものではありません。それは、従業員が安心して日常を送り、仕事に向き合うための“土台”です。不安を抱えたままでは、本来の力を発揮することは難しくなります。一方で、「何かあれば相談できる」と感じられる環境があれば、人は前向きに仕事に向き合うことができます。
警察OBとして、そして防犯・安全対策に携わる立場として、企業と従業員の間にある「見えにくい不安」に光を当て、安心につながる支援を続けていきたいと考えています。
