商業登記関係 少人数私募債
少人数私募債とは
企業の資金調達の一つの手段として、少人数私募債というものがあります。
少人数私募債とは、社債の一種であり、社債とは、会社が発行する債券のことをいいます。社債のうち、一定の条件を満たすものが少人数私募債と分類され、少人数私募債ならではのメリットを受けることができます。
社債は企業がする借入のこと(借金)をいいますが、銀行・信用金庫などからの借入とは異なり、毎月元金に当たる部分を返済する義務がありません。一定期間(3-5年程度)は年に1-2回、借入に対する利息のみを社債権者に支払うだけで良く、期日が到来したら借入した金額の全額を返済するので、期日までの資金繰りは楽になります。しかし、結局は期日が到来すれば全額を一気に返済する必要があるため、無計画に利用すると後で大変なことになってしまいます。
少人数私募債を発行できる会社
・株式会社
・特例有限会社
・合同会社
・合資会社
・合名会社
少人数私募債のメリット・デメリット
毎月の返済がない | 償還時に元金一括返済をするため、その時の負担は大きい |
担保、審査、保証協会等への保証料、社債管理者、有価証券届出書・報告書が不要 | 担保や保証人が不要のため、信用的リスクにより引受人が得にくい可能性がある |
社債利息は損金となる | 49人までしか勧誘できない |
株式の発行(増資)との違い
株式会社・特例有限会社において、増資も社債も資金調達手段の一つですが、両者は多くの点で異なります。
大きな相違点としては、まず、増資では出資者に会社の株式を発行します。株式には、基本的には議決権が付与されていますので、その議決権比率によってはその出資者の会社に対する影響力が大きいものになる可能性があります。その点、社債は借入であり株式は発行しないため、議決権を心配する必要がありません。
次に、増資により資本金の額が増えると法務局への登記手続きが必要となります。登録免許税として増加する資本金の額の1000分の7を納める必要があり(資本金が1億円増えれば70万円!)が、その点、社債は登記事項ではありませんので登録免許税は発生しません。
そして、株主には配当金を、社債権者には利息を支払った場合、配当金と異なり社債の利息は損金扱いとなります。なお、株主への配当金は配当原資が無ければすることができません。
少人数私募債の条件
少人数私募債は社債の一種であり、社債のうち一定の条件を満たしたものですが、その一定の条件は次のとおりです。
①法人
前述のとおり、株式会社等の法人でないと社債を発行することができません。
②適格機関投資家を除き、勧誘対象者が50名未満
社債の勧誘対象者は50名未満(49名以下)に限られます。結果として社債を引き受ける人が50名未満ということではなく、勧誘する人が50名未満という点に注意が必要です。
③社債総額÷1口の金額が50未満
社債の総額を社債1口あたりの金額で除した数が50未満である必要があります。
例えば社債総額が3000万円であり社債1口の金額が100万円である場合は、
3000万円÷100万円=30
となり、30>50ですので本件要件は満たしていることになります。
④少人数私募債への譲渡制限の設定
社債権者が社債を譲渡するときは会社の承認を得る必要があります。
また、複数口を保有している社債権者は、そのうちの一部のみを譲渡することもできません。
ということを、社債の募集要項に記載しておかなければなりません。
※発行総額1億円以上となる場合
発行価額が1億円以上となる場合は、次の事項を募集要項に入れておく必要があります(別の書面で告知してもOK)。
・有価証券通知書、有価証券届出書を提出していないこと
・記名式で、一括譲渡以外の譲渡が制限されていること
・表示単位未満の分割制限が課せられていること
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。