商業登記関係 株式会社の資本金の額の減少(減資)手続きと登記
資本金の額の減少
株式会社の登記簿及び貸借対照表には資本金の額が記載されています。この資本金の額は、一定の手続きを踏むことにより減少させることができます。
資本金の額を減少させることを、ここでは以下「減資」といいます。
欠損填補をするときや大会社(資本金5億円以上)となることを避けたいとき、税務的な観点から資本金を1億円以下にしたいとき等に減資は利用されます。
減少できる資本金の額
資本金の額は0円まで減少することができますが、資本金の額をマイナスにすることはできません。
そのため、減少する資本金の額は減資の効力発生日時点の資本金の額を上回ることはできないとされています。
効力発生日の資本金の額が3,000万円の株式会社であれば、減少することのできる資本金の額は3,000万円までということです。
増資と減資を同時にしたときの減少できる資本金の額
減少できる資本金の額は、株主総会で減資の決議をした時の資本金の額ではなく、効力発生日における資本金の額です。
例えば、増資と減資を同時に行うときに、減資の決議をする株主総会時点の資本金の額を上回る額を減少すると定めることも可能です。
- 2017年4月1日 臨時株主総会決議 この時の資本金の額 3,000万円
- 2017年5月1日 増資の効力発生日 この時の資本金の額 8,000万円
- 2017年5月9日 減資の効力発生日 この時の資本金の額 0円
上記のような場合、2017年4月1日の株主総会の決議において、2017年5月9日に減少する資本金の額を8,000万円と定めることが可能となります。
増資と減資を同時にしたときの登録免許税
増資と減資の効力発生日を同日にすることもできます。上記の例で、増資の効力発生日が2017年5月9日となるようなケースです。
- 2017年4月1日 臨時株主総会決議 この時の資本金の額 3,000万円
- 2017年5月9日 増資の効力発生日 この時の資本金の額 8,000万円
- 2017年5月9日 減資の効力発生日 この時の資本金の額 0円
この場合、株主総会で減資の決議をするときに、増資の効力発生を減資の効力発生の条件としておくことが多いのではないでしょうか。
このとき、登記簿上の資本金の額は3,000万円→8,000万円→0円となるため、登録免許税は増資分の35万円(5,000万円×1,000分の7)+減資分の3万円となります。
3,000万円→0円の減資に係る登録免許税の3万円だけではありません。
減資の手続き・スケジュール例
減資の手続きの一例は次のとおりです。
このスケジュール例では、株主総会で減資の決議をする前に、債権者保護手続きをスタートさせています。
株主総会で減資が承認されてから債権者保護手続きをスタートさせても、もちろん問題ありません。
公告方法に限らず、債権者へ個別催告をする場合
取締役会の決議(減少する資本金の内容決定、株主総会の招集決定) 官報へ公告の申込み |
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株主総会の招集通知の発送 | |
知れたる債権者へ催告書発送 | |
資本金の額の減少公告が掲載(官報) | |
株主総会の決議 | |
債権者保護手続きの期間満了 | |
資本金の額の減少の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
公告方法が日刊新聞紙で、ダブル公告をする場合
取締役会の決議(減少する資本金の内容決定、株主総会の招集決定) 官報、日刊新聞紙へ公告の申込み ※ |
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株主総会の招集通知の発送 | |
資本金の額の減少公告が掲載(官報、日刊新聞紙) | |
株主総会の決議 | |
債権者保護手続きの期間満了 | |
資本金の額の減少の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
※公告申込みから掲載までに要する期間は、事前に日刊新聞紙発行会社へご確認ください。
公告方法が電子公告で、ダブル公告をする場合
取締役会の決議(減少する資本金の内容決定、株主総会の招集決定) 官報公告の申込み、電子調査会社へ調査の申込み |
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株主総会の招集通知の発送 | |
WEBサイトに資本金の額の減少公告を掲載する | |
官報に資本金の額の減少公告が掲載 | |
株主総会の決議 | |
債権者保護手続きの期間満了 | |
資本金の額の減少の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
公告方法を官報から電子公告に変更して、ダブル公告をする場合
取締役会の決議(減資の内容、公告方法の決定、株主総会の招集決定) 官報公告の申込み |
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株主総会の招集通知の発送 | |
2月10日 | 株主総会の決議(公告方法変更、減資) 公告方法変更の効力発生 |
2月10日 | 登記申請(公告方法変更) 電子調査会社へ調査の申込み |
WEBサイトに資本金の額の減少公告を掲載する | |
官報に資本金の額の減少公告が掲載 | |
債権者保護手続きの期間満了 | |
資本金の額の減少の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
株主総会の決議
原則として、減資をするには株主総会の特別決議が必要です。
なお、増資と減資を同時に行う場合において、減資の効力発生日後の資本金の額が効力発生日前の資本金の額を下回らないときは、取締役の決定(取締役会の決議)でもよいとされています(会社法第447条3項)。
上記の例で、2017年5月9日の減資後の資本金の額が3,000万円以上であるようなケースをいいます。
また、定時株主総会において減少する資本金の額を欠損の範囲内とする決議をするときは、株主総会の普通決議でOKです(会社法第309条1項9号)。
- 株主総会の特別決議 ▶ 原則
- 株主総会の普通決議 ▶ 定時株主総会で欠損の範囲内で減資する場合
- 取締役会の決議 ▶ 減資後の資本金の額が、減資前の資本金の額を下回らない場合
決議する内容
減資をするときは、株主総会等の決議によって次の事項を決定します(会社法第447条1項)。
- 減少する資本金の額
- 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
- 資本金の額の減少がその効力を生ずる日
債権者保護手続き
減資をするときは、債権者保護手続きをしなければなりません(会社法第449条)。
これは、定時株主総会で欠損の範囲内で減資する場合も、減資後の資本金の額が、減資前の資本金の額を下回らない場合も例外ではありません。
債権者保護手続きは、次の事項を官報に公告して、知れている債権者へは個別に催告をします(会社法第449条2項)。
- 資本金の額の減少の内容
- 最新の貸借対照表又はその要旨が掲載されている場所
- 債権者が一定の期間内(1ヶ月以上)に異議を述べることができる旨
会社の公告方法を官報以外の方法としている会社は、≫ダブル公告をすることにより各債権者への個別催告が省略することができます(会社法第449条3項)。
資本金の額の減少公告
資本金の額の減少に係る公告の記載例は次のとおりです(減少する資本金を全て資本剰余金に計上するケース)。
当社は、資本金の額を8,000万円減少することにいたしました。
この決定に対し異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。
なお、最終貸借対照表の開示状況は次のとおりです。
掲載紙 官報
掲載の日付 平成29年1月18日
掲載頁 ●●頁(号外第●●●号)
平成29年3月11日
東京都中央区銀座七丁目一三番八号
汐留太郎株式会社
代表取締役 汐留 太郎
減資の効力発生
減資の効力は、株主総会等で定めた効力発生日にその効力が生じます。
効力発生日までに債権者保護手続きが終わっていないと、減資の効力は生じません。
なお、株主総会の決議の前に債権者保護手続きを行っておくことは可能であり、既に債権者保護手続きが終わっているのであれば、株主総会決議日=効力発生日とすることもできます。
減資の登記申請
効力発生日から2週間以内に、管轄法務局へ資本金の額の減少に係る変更登記を申請します(会社法第915条1項)。
知れたる債権者がいない場合の変更登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 官報
- 知れたる債権者がいない旨の上申書
公告方法が電子公告である会社がダブル公告をした場合の変更登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 官報
- 電子調査機関の調査報告書
登録免許税
資本金の額の減少の登記に係る登録免許税は3万円です。
減資の手続きを依頼する
当法人では、自社で書類作成も債権者保護手続きも行ったから登記申請だけをお願いしたいというクライアント様や、手続きについて何も分からないので最初から手続きをお願いしますというクライアント様まで、減資についてのご相談を承っております。
電子公告に関する電子公告調査機関への調査申込み等もご依頼いただけます。
≫減資の手続きを依頼した場合、どこまでお手伝いしてくれますか?
一定の期間内(例えば今期中)に減資を完了しなければならないようなご事情がある会社は、会社登記を専門としている当法人にご相談ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。