商業登記関係 転換社債型新株予約権付社債を発行するときの手続きと登記
新株予約権付社債とは
新株予約権とは、株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利のことをいいます(会社法第2条21号)。
そして新株予約権付社債とは、新株予約権を付した社債のことをいいます(会社法第2条22号)。
また、社債とは、会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、会社法第676条の定めに従い償還されるものをいいます(会社法第2条23号)。
日本においては、株式会社と特例有限会社が新株予約権を発行することができ、株式会社、特例有限会社、合名会社、合資会社及び合同会社が社債を発行することができます。
転換社債型新株予約権付社債とは
登記実務上、新株予約権付社債の多くは転換社債型新株予約権付社債です。
転換社債型新株予約権付社債とは、当該社債を新株予約権に転換できる点にその特徴があり、その点から「転換社債型」という名称が付いています。
転換社債型新株予約権付社債を引き受けたものが、新株予約権を行使するときに、当該社債を出資する代わりに当該会社の新株予約権を引き受けることができるという仕組みとなっています。
転換社債型新株予約権付社債を発行する
転換社債型新株予約権付社債(以下、単に「新株予約権付社債」といいます)の発行手続きは、新株予約権の発行手続きに従います。
新株予約権の発行手続きの一例は次のとおりです。
- 取締役会の決議
- 招集通知の発送
- 株主総会の開催
- 募集事項の通知
- 引受けの申込み
- 取締役会の決議
- 新株予約権付社債の割当て通知
- 社債の振込み
- 登記申請
ここでは、取締役会を設置している非公開会社を想定しています。
取締役会の決議
取締役会を開催し、新株予約権付社債を発行することを決議し、当該事項につき株主総会の承認を得るために株主総会を開催することの決議をします。
新株予約権付社債を引き受ける人は既に決まっている場合は、株主総会を開催するよりも前の段階で、会社と引き受ける人の間で投資契約書等の契約を締結することが多いでしょうか。
招集通知の発送
株主総会を開催するため、招集通知を株主に送ります。
株主の全員の同意があるときは、招集の手続をすることなく株主総会を開催することができます(会社法第300条)。
また、株主総会の目的である事項につき、議決権を行使することができる株主全員が当該事項につき同意をすれば、株主総会の決議があったものとみなすことができます(会社法第319条1項)。
株主総会の決議
株主総会の特別決議(≫株主総会とその決議要件)により次の事項を定めます(会社法第238条1項)。
- 募集新株予約権の内容及び数
- 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
- 集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要することとする場合には、募集新株予約権の払込金額又はその算定方法
- 募集新株予約権を割り当てる日
- 募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
- 会社法第676条各号に掲げる事項(社債の内容に関する事項)
- 新株予約権付社債に付された募集新株予約権について、組織再編等の際の請求の方法につき別段の定めをするときは、その定め
また、上記1「新株予約権の内容」として、次のような事項を決定します(一例です)(会社法第236条1項)。
- 新株予約権の目的である株式の数又はその算定方法
- 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
- 新株予約権の行使期間
- 新株予約権の行使時における増加する資本金・資本準備金に関する事項(自己株式の交付を除く)
- 新株予約権を譲渡により取得することにつき、会社の承認を要する旨
- 新株予約権に取得条項を付けるときはその旨及び内容
- 組織再編をする際の新株予約権に関する規定
- 新株予約権証券を発行することとするときは、その旨
- 新株予約権の行使条件 など
募集事項の通知
新株予約権を発行するときは、その引受けの申込みをしようとする人に対して次の事項を通知します(会社法第242条1項)。
- 株式会社の商号
- 募集事項
- 新株予約権の行使に際して金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
- 発行可能株式総数
- 株式の譲渡承認機関についての定款の別段の定め
- 相続人等に対する売渡し請求に関する定款の定め(当該定めがあるとき) など
引受けの申込み
上記の募集に応じて新株予約権付社債の引受けの申込みをする者は、次に掲げる事項を記載した書面を株式会社に交付します(会社法第242条2項)。
- 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
- 引き受けようとする募集新株予約権の数
取締役会の決議
取締役会の決議によって、申込者の中から募集新株予約権の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集新株予約権の数を定めます(会社法第243条1項)。
株主総会の招集決定をする取締役会において、新株予約権の引受人予定者からの申込みがあることを条件に割り当てる等としておけば、新株予約権の割当て決定をする取締役会を省略することができます。
なお、総数引受契約の方式を用いる場合は、定款に別段の定めのある場合を除き、取締役会の決議によて当該契約を承認します(会社法第244条3項)。
新株予約権の割当て
申込者に対して、割当日の前日までに割り当てる新株予約権の数を通知します。
総数引受契約を締結する場合
新株予約権の引受予定者と、募集新株予約権の総数引受契約を締結する場合は、上記申込み+割当ての手続きは不要となります。
総数引受契約は、引受予定者が1名のときだけではなく、複数名いるときでも利用することが可能です。
総数引受契約の方式を用いる場合は、株主総会開催日=総数引受契約締結日=割当日とすることができ、株主総会の開催日と同日に新株予約権を割り当てることができます。
新株予約権者にはいつなるか
社債の払込期日=新株予約権の割当日とすることが多く、その日までに引受人は社債に関する払込みを行います。
なお、発行要項に定められた割当日に、割当てを受けた申込人は新株予約権者となります(会社法第245条1項)。
加えて、当該募集新株予約権を付した新株予約権付社債についての社債の社債権者となります(会社法第245条2項)。
新株予約権原簿及び社債原簿の作成
株式会社は、新株予約権付社債を発行した日以後遅滞なく、新株予約権原簿及び社債原簿を作成しなければならないとされています(会社法第249条、第681条)。
新株予約権原簿の記載事項については、こちらの記事をご参照ください。
新株予約権付社債の登記をする
新株予約権付社債を発行したときは、割当日から2週間以内にその変更登記をしなければなりません。
新株予約権付社債(に付された新株予約権)の登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録
- 引受けの申込書
この登記の登録免許税は9万円です。
登記すべき事項
新株予約権付社債の登記は、社債の登記ではなく新株予約権の登記ですので、その登記事項は新株予約権の登記事項と同じです。
一般的には、「募集新株予約権の払込金額」は無償、「新株予約権の行使に際して出資される財産」は社債、「新株予約権の名称」は第●回転換社債型新株予約権付社債に付された新株予約権」でしょうか。
また、「新株予約権の目的たる株式の種類及び数又はその算定方法」は、当初の転換価額を定めて調整式で調整できるようにしておくケースが多いでしょう。
新株予約権付社債の登記と資本金の額
新株予約権付社債の登記は、新株予約権の引受人が社債も引受けるため、引受人からお金が会社に入ってきますが、これは社債に関するものです。
新株予約権付社債に付された新株予約権は、その払込金額を「無償」とすることが多いため、払込金額が「無償」の場合は新株予約権社債の登記で資本金の額が増えることはありません。
当該新株予約権が行使されたときに、行使に際して社債が出資されるため、資本金の額が増えることになります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。