商業登記関係 株式会社が株主総会の決議によって剰余金を配当するときの手続き
剰余金の配当
株式会社及び特例有限会社は、その株主に対し、剰余金の配当をすることができます(会社法第453条)。
なお、株式会社が自己株式を保有している場合、当該株式会社自身に対して剰余金の配当をすることはできません。
剰余金の配当は、原則として株主総会の決議によって行うことができますが、財源規制等による制限があるため、全ての株式会社で行うことができるわけではありません。
※このページでは、内容の異なる2以上の種類の株式を発行していない非公開会社を対象としています。
剰余金の配当を行うことができる回数
会社法においては、剰余金の配当回数に制限はありません。
同じ年度内であっても、何回でも剰余金の配当を行うことは可能です。
ただし、純資産額による制限及び分配可能額による制限をクリアしている場合に限られます。
純資産額による制限
株式会社が剰余金の配当を行うことができないケースが2つあります。
その1つ目が、純資産額による制限です。
株式会社の純資産額が300万円を下回っている場合は、剰余金の配当を行うことができないことになっています(会社法第458条)。
例えば、資本金100万円、利益剰余金+資本剰余金の合計額が100万円の株式会社は、剰余金の配当を行うことができません。
分配可能額による制限
株式会社が剰余金の配当を行うことができない2つ目のケースは、分配可能額による制限です。
剰余金の配当により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、その効力発生日における分配可能額を超えてはならないとされています(会社法第461条1項)。
分配可能額(会社法第461条2項)は、次の計算方法で算出できる中小企業が少なくありません。
なお、期中の利益を分配可能額に組み入れるのであれば、臨時決算を行う必要があります(会社法第461条2項)。
剰余金の配当を検討している株式会社は、顧問税理士に確認の上、分配可能額を算出して剰余金の配当を行ってください。
剰余金の配当と準備金の積み立て
剰余金の配当をするときは、株式会社は、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に10分の1を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金として計上する義務があります(会社法第445条4項)。
剰余金の配当の際に行う資本準備金又は利益準備金への積み立ては、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の額の4分の1に達するまで行います(会社計算規則第22条)。
資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の額の4分の1以上である株式会社においては、この積み立ては行う必要がありません。
株主平等の原則
株主平等の原則から、株主に対して割り当てる配当金につき、株主の有する株式の数に応じて配当財産を割り当てることを内容とするものでなければならないとされています(会社法第454条3項)。
1株に対して1万円配当すると決定したときは、1株持っている株主には1万円配当し、10株持っている株主には10万円配当することを意味します。
株主ごとに、あるいは株式ごとに配当する金額を変えたいのであれば、種類株式(会社法第108条1項)や属人的株式(会社法第109条2項)を活用することになるでしょう。
剰余金の配当をする手続き
剰余金の配当は、株主総会の決議によって行います(会社法第454条1項)。
剰余金の配当を行うときの手続きの一例は次のとおりです。
- 取締役会の決議(取締役会非設置会社における取締役の決定)
- 招集通知の発送
- 株主総会の決議
- 配当の実施
株主が1-2名と少数の株式会社においては、招集通知を発送して招集期間を置いた上で実際に株主総会を開催するよりも、みなし株主総会の決議(会社法第319条1項)で済ませるケースも多いのではないでしょうか。
≫みなし株主総会(書面決議・みなし決議)-会社法第319条1項
株主総会の決議内容
株式会社が剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければなりません(会社法第454条1項)。
- 配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く。)及び帳簿価額の総額
- 株主に対する配当財産の割当てに関する事項
- 当該剰余金の配当がその効力を生ずる日
この株主総会の決議要件は、普通決議です。
配当財産が金銭以外の財産であり、かつ、株主に対して金銭分配請求権を与えないこととする場合は、特別決議の要件を満たす必要があります(会社法第309条2項10)。
株主総会議事録の記載例
議長は、●●を理由として、下記のとおり剰余金を配当したい旨を述べ、その賛否を議場に諮ったところ、出席株主が満場一致をもってこれに賛成したため、原案どおり承認可決された。
- 配当財産の種類
金銭 - 配当財産の割当てに関する事項
当社普通株式1株につき金100円
配当総額 5,000,000円 - 剰余金の配当がその効力を生ずる日
2020年3月15日
取締役会の決議による配当
一定の条件を満たしている株式会社は、株主総会の決議ではなく、取締役会の決議によって剰余金の配当を行うことができます(会社法第459条1項)。
≫取締役会の決議によって剰余金を配当することができる株式会社の条件
取締役会の決議による中間配当
取締役会設置会社は、1事業年度の途中において1回に限り取締役会の決議によって剰余金の配当をすることができる旨を定款で定めることができます(会社法第454条5項)。
この会社法第454条5項に基づく取締役会の決議による配当は「中間配当」と呼ばれています(会社法第459条1項の取締役会の決議による配当とは別)。
なお、中間配当においては、配当財産が金銭に限定されています。
中間配当に関する定款の記載例は次のとおりです。
第●●条 当会社は、取締役会の決議により、毎年●●月末日現在の最終の株主名簿に記載又は記録された株主又は登録株式質権者に対して中間配当を行うことができる。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。