商業登記関係 みなし取締役会(みなし決議・書面決議)-会社法第370条
取締役会決議があったものとみなすことができる
取締役(当該決議事項について議決に加わることができる取締役に限ります)の全員が、取締役会で決議する事項について賛成・同意しているケースにおいても、わざわざ時間を合わせて一同に会し、実際に取締役会を開催しなければならないとなると各取締役にとっては負担ばかりでメリットがありません。会社の迅速な意思決定にも支障をきたしてしまいます。
会社法第370条によると、全ての議決に加わることのできる取締役が、取締役会で決議する事項について賛成・同意する旨の意思表示を書面または電磁的記録による意思表示をした場合で、かつ監査役が異議を述べなかった場合は、取締役会の開催、決議及び報告(報告については会社法第372条)を省略できるとされています。この方法による取締役会決議を、みなし取締役会決議あるいは取締役会のみなし決議といったりします。
(取締役会の決議の省略)
会社法第370条取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
取締役全員の同意
書面または電磁的記録による意思表示が必要ですので、口頭での同意はNG、電子メールでの同意はOKということになります。メールの場合、メールの本文に提案内容を記載して送信し、メールの本文に同意する旨を記載して返信をしてもらう方法や、提案内用を記載した用紙のPDFを送信し、当該用紙のPDFに署名(や押印)したもののPDFを返信してもらう方法などがあります。
テレビ会議や電話会議は、実際に開催する(した)取締役会に該当しますので、会社法第370条のみなし取締役会決議とは別のものとなります。
同意が必要な取締役
みなし取締役会決議の成立には取締役全員の同意が必要とされており、これは決議の目的である事項について提案をした取締役についても同様です。ですので、提案者たる取締役の同意書も忘れずにもらっておかなくてはなりません。
当該決議の目的である事項について利害関係のある取締役は、当該事項について議決に加わることができませんのでその同意書は必要ありません。当該取締役は利害関係があり議決に加わることができなかった旨を取締役会議事録に記載しておくと、後でなぜ当該取締役の同意書が保存されていないのか分かりやすいと思います。
定款の定めが必要
会社法第319条第1項のみなし株主総会決議と異なり、会社法第370条のみなし取締役会決議を行う場合は、当該会社の定款にその旨の記載が必要です。
みなし株主総会については、こちらの記事をご参照ください。
登記申請時、みなし取締役会議事録を添付するときは定款の添付も必要
取締役会の本店移転(取締役会で本店を決定したとき)や自己株式の消却、代表取締役を選定にかかる登記申請をするときは、取締役会議事録を添付しなければなりませんが、この取締役会議事録はもちろんみなし取締役会議事録でも問題ありません。
但し、みなし取締役会決議を行うにはその旨の定款の記載が必要とされていることから、定款も併せて添付することになります。
みなし取締役会決議に関する定款記載例
※業務の範囲が会計に関するものに限定されている監査役しかいない会社では、但書以降の記載は不要です。
監査役の同意は不要だが異議を述べられたらみなし決議不成立
監査役の同意は必要とされていませんが、監査役が異議を述べた場合は会社法第370条によるみなし取締役会決議は不成立となってしまいます。
監査役の異議を述べるタイミングは、例えば「取締役全員が同意する前に」「提案があってから1週間以内に」などの期限が定められているわけではありません。取締役全員が同意をしてみなし取締役会決議が成立したと安心した後に、監査役から異議述べられてしまう可能性もあるかもしれません。
そのため、実務上は異議がないことを証する書面へ監査役に署名(や押印)をいただくことが多いです。
なお、業務の範囲が会計に関するものに限定されている監査役は、そもそも取締役会に参加義務がありませんので、異議を述べることができません。
取締役会への報告事項の省略
報告事項も省略できる
会社法第372条1項によると、取締役及び監査役の全員に対して、取締役会に報告すべき事項を通知したときは、実際に取締役会を開催して報告することは不要となります。
なお、業務の範囲が会計に関するものに限定されている監査役に対しては当該通知をする必要はありません。
3ヶ月に1回以上の業務執行状況の報告は省略できない
代表取締役または代表取締役以外の取締役で当該会社の業務執行をする取締役として、取締役会決議によって選定されたものは、3ヶ月に1回以上、自身の職務の執行状況を取締役会に報告をしなければなりません(会社法第363条)。
この代表取締役の職務の執行状況の報告については、取締役会の開催を省略して報告をしたものとみなすことはできません(会社法第372条2項)。
(取締役会への報告の省略)
会社法第372条1. 取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を取締役会へ報告することを要しない。
2. 前項の規定は、第363条第2項の規定による報告については、適用しない。
3項省略
みなし取締役会議事録
取締役会議事録は、書面または電磁的記録をもって作成しなければならず(会社法第369条3項)これは会社法第370条によるみなし取締役会決議についても当てはまります。
みなし取締役会議事録(決議)の記載事項
みなし取締役会議事録の記載事項は次のとおりです(会社法施行規則第101条4項)。
- 取締役会決議があったものとみなされた事項の内容
- 上記事項の提案をした取締役の氏名
- 取締役会の決議があったものとみなされた日
- 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
取締役会への報告を省略した場合の記載事項
- 取締役会への報告を要しないものとされた事項の内容
- 取締役会への報告を要しないものとされた日
- 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
みなし取締役会議事録への押印
実際に取締役を開催した場合の取締役会議事録には、それが書面で作成されている場合は出席取締役・出席監査役が署名または記名押印をしなければなりません(会社法第369条3項)。
業務の範囲が会計に関するものに限定されている監査役は取締役会への出席義務はありませんが、出席したときは当該監査役にも署名または記名押印義務が発生します。
さて、みなし取締役会議事録の場合は、取締役・監査役の署名または記名押印は、法律上は必要ないとされています。取締役会の実際の開催が省略されているため、取締役会への出席者がおらず、署名または記名押印の義務を負う者がいないためです。
もちろん、みなし取締役会議事録に取締役全員が署名または記名押印をしてもいいですし、代表取締役のみが会社実印を押印するケースもあります。
代表取締役選定のみなし取締役会議事録への押印
取締役会議事録を添付して代表取締役の変更登記をするときは、取締役会議事録に前代表取締役が会社実印での押印がない限り、みなし取締役会決議事項に同意した取締役全員が取締役会議事録に実印で押印し、かつ取締役全員の印鑑証明書を添付しなければなりません(商業登記規則第61条4項)。
みなし取締役会議事録への取締役全員の実印押印に代えて、取締役の同意書に実印押印をしたものでも登記手続き上は問題はありません。
なお、この場合監査役の実印押印及び印鑑証明書は不要とされています。
取締役会のみなし決議に関するよくあるご質問
取締役会のみなし決議に関するよくあるご質問とその回答をまとめました。
こちらの記事もご確認ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。