商業登記関係 株式会社が株券を廃止するときの手続きと登記(スケジュール例あり)
株券とは
株券とは、株券発行会社における株主としての地位を表した有価証券のことをいいます。
上場会社の株式に係る株券については、平成21年1月5日より電子化されています。
株券の記載事項
株券には一定の事項を記載しなければならないとされています(会社法第216条)。株券の記載事項は次のとおりです。
- 株券発行会社の商号
- 当該株券に係る株式の数
- 譲渡による当該株式に係る株式の取得について株式会社の承認を要することを定めた時はその旨
- 種類株式発行会社にあって、当該株券に係る株式の種類及びその内容
株券には株券発行会社の代表取締役がこれに署名し、または記名押印をする必要があります。
会社法においては株券不発行が原則
会社法が施行された平成18年5月1日より前の旧商法においては、株式会社は株券を発行することが原則とされており、定款や登記簿に株券について何も記載されていなければ、その会社は株券を発行する会社(株券発行会社)でした。
会社法施行日以降は、株式会社は株券を発行しないことが原則とされました。
定款や登記簿に株券について何も記載されていなければ、その会社は株券を発行しない会社(株券不発行会社)ということになります。
会社法以降に設立されている会社は、ほぼ株券不発行会社
株券の発行には会社側にもコストが発生し、株主側も株券を紛失しないように管理をすることは面倒なことでもあります。
株式の譲渡に会社の承認が必要な会社(非公開会社)においては、株券を発行するメリットがあまり無いかもしれません。
そのため、会社法施行日以降に設立された株式会社のほとんどは株券不発行会社ではないでしょうか。
少なくとも、私が携わった株式会社の設立登記ではその99%が株券不発行会社です。
株券発行・不発行会社の株式譲渡と対抗要件
株券発行会社と株券不発行会社では、株式譲渡の方法とその対抗要件につき違いがあります。
その違いについては、こちらの記事をご確認ください。
なお、株式譲渡の局面であえて不発行会社→発行会社に移行して株券を発行・譲渡する方法により、譲受人のリスクをヘッジするということもあります。
株券発行会社から不発行会社への移行手続き
会社法施行(平成18年5月1日)以前に設立された会社の多くは株券発行会社ですが、会社法施行と同時に自動的に株券不発行会社となるわけではありません。
もし株券発行会社から株券不発行会社に移行するのであれば、会社側が一定の手続きを行う必要があります。
株券発行会社が株券不発行会社に移行するときは、実際に株券を発行している会社か、株券不所持の申出等により株主に株券を交付していない会社かによって手続きが若干異なります。
なお、株主が株券を紛失したままである場合は、前者に該当します。
現実に株券を発行している会社の場合
株券を実際に発行している会社の場合、株券を廃止するための手続きは次のとおりです。
- 株主総会において、株券を発行する旨の定めを廃止する定款変更を決議します。
- 効力発生日の2週間前までに公告し、かつ株主等に各別に通知します。
- 株券を発行する旨の定め廃止の登記申請を、効力発生日から2週間以内に法務局へ登記申請する。
※この決議は特別決議の要件を満たす必要があります。
※株主等とは、株主及び登録株式質権者のことをいいます。
※公告【または】通知ではありません。両方必要です。
※定款で定められている公告方法で行います。
※登録免許税は3万円です。
上記株券廃止の手続き中、12は前後しても問題はありません。
スケジュール例
実際に株券を発行している株券発行会社が、株券を廃止するときのスケジュールの一例は次のとおりです。
8月12日 | 取締役会の決議(定款変更の承認、株主総会の招集決定) 官報へ「定款変更につき通知公告」を申し込む |
8月12日 | 株主総会の招集通知の発送 ※株主への通知(会社法第218条1項の通知)も併せる |
官報に「定款変更につき通知公告」が掲載 | |
定款変更に関する株主総会の決議 | |
株券廃止に関する定款変更の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
実際に株券を発行している株券発行会社が、株券不所持の申出をしてもらいつつ株券を廃止するときのスケジュールの一例は次のとおりです。
8月12日 | 取締役会の決議(定款変更の承認、株主総会の招集決定) 株主全員から株券不所持の申出をしてもらう。 |
8月12日 | 株主総会の招集通知の発送 ※株主への通知(会社法第218条1項の通知)も併せる |
定款変更に関する株主総会の決議 | |
株券廃止に関する定款変更の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
添付書類
実際に株券を発行している会社につき、株券を発行する旨の定め廃止の登記申請の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 変更後の定款
- 公告をしたことを証する書面(官報等)
※株主全員が株券不所持の申出をしたことにより公告をしなかったときは、株式の全部について株券を発行していないことを証する書面
(株主名簿に、代表者の証明文を付したもの等)
実際に株券を発行していない会社の場合
株券を実際に発行していない会社の場合、株券を廃止するための手続きは次のとおりです。
- 株主総会において、株券を発行する旨の定めを廃止する定款変更を決議します。
- 効力発生日の2週間前までに公告または株主等に各別に通知します。
- 株券を発行する旨の定め廃止の登記申請を、効力発生日から2週間以内に法務局へ登記申請します。
※この決議は特別決議の要件を満たす必要があります。
※株主等とは、株主及び登録株式質権者のことをいいます。
※こちらのケースでは、公告【または】通知のどちらかです。
※定款で定められている公告方法で行います。
※登録免許税は3万円です。
株券廃止の手続き中、12は前後しても問題ありません。
スケジュール例
株券発行会社ではあるけれども、株券を実際に発行していない会社が株券を廃止するときのスケジュールの一例は次のとおりです。
取締役会の決議(定款変更の承認、株主総会の招集決定) | |
8月12日 | 株主総会の招集通知の発送 ※株主への通知(会社法第218条1項の通知)も併せる |
定款変更に関する株主総会の決議 | |
株券廃止に関する定款変更の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
添付書類
実際に株券を発行していない会社につき、株券を発行する旨の定め廃止の登記申請の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 変更後の定款
- 株式の全部について株券を発行していないことを証する書面
(株主名簿に、代表者の証明文を付したもの等)
株券廃止にかかる公告例
株券廃止をする際の公告記載例は次のとおりです。
当社は、平成28年8月12日付で株券を発行する旨の定款の定めを廃止することにいたしましたので公告します。
なお、同日に当社の株券は無効となります。※株券を実際に発行していない会社では不要
平成28年7月15日
東京都港区新橋一丁目7番10号
株式会社汐留ABC
代表取締役 田中一郎
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。