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代表司法書士 石川宗徳の 所長ブログ&コラム

J-KISS型新株予約権の発行手続きと登記申請

スタートアップの資金調達

IPOを目指している株式会社が資金調達をする場合、デットによる調達であれば金融機関等からの借入や社債の発行、寄付としてのクラウドファンディングの他に、ポピュラーな方法としてエクイティによる調達があります。

エクイティによる調達とは、出資者(投資家)から投資を受ける対価として株式を発行する方法により行います。

エクイティによる調達をするときは、例えば1億円を出資する投資家に何株交付するか(=1株いくらにするか)、種類株式の内容をどうするか等、投資を受けるまでに決めることが多く調整に時間がかかることが少なくありません。

スタートアップ企業がシリーズAまでの間に用いることのあるJ-KISS型新株予約権は、投資に係る条件の詳細を繰り延べ、スピーディに資金調達を完了することができる手段の一つです(なお、シリーズA以降に用いることも可能です)。

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J-KISS型新株予約権の懸念点

J-KISS型新株予約権は、投資額がいくらであっても利用することは可能です。そのため、投資額が数億円であるケースで利用されていることもあれば、投資額が200-500万円のケースも見かけることがあります。

J-KISS型新株予約権は次のシリーズにおいて、その引受人が特定の種類株式(A+種、A2種等)の株主となる可能性が高く、そうなると会社法第322条1項の規定から拒否権に近い権限を有することになります。

つまり、200万円のJ-KISS型新株予約権者が唯一のA+種優先株主となった場合、当該株主の承認が得られなければシリーズB以降の種類株式の追加に係る定款変更を行うことができない状況となります(会社法第322条1項1号イ)。

取締役会非設置会社におけるJ-KISS型新株予約権の発行手続き

J-KISS型新株予約権はその特徴からシリーズAまでに発行されるケースが多く、この段階ではまだ取締役会を設置していない株式会社が多い印象です。

取締役会非設置会社のJ-KISS型新株予約権の発行手続きは次のとおりです。J-KISS型新株予約権は有償の新株予約権ですので、会社法第238条から会社法第247条までの募集新株予約権の発行手続きにて行います。

以下、定款に種類株式の定めのない株式会社を前提としています。

1.取締役の決定
 ↓
2.株主への提案→株主全員の同意→株主総会の決議成立
 ↓
3.投資契約の締結
 ↓
4.払込期日までに払込み、割当日の到来
 ↓
5.登記申請

1.取締役の決定

取締役は、株主総会を招集する場合には、株主総会の日時及び場所、株主総会の目的である事項があるときは当該事項等を定めなければなりません(会社法第298条1項)。

また、会社法第319条1項に基づく株主総会のみなし決議を行うときは、その株主への提案を行うことにつき会社法上、提案事項につき取締役の決定は求められていませんが、株主総会を招集する場合に準じて、取締役の決定により当該提案を行うこと及びその内容を決定するケースが多い印象です。

2.株主への提案、株主総会の決議成立

シリーズAの発行までの間にJ-KISS型新株予約権を発行する場合、まだ株主が少数であり、全株主とのコミュニケーションもスムーズに行うことができる状態であることが多いことから、株主総会を開催するのではなく、株主総会のみなし決議(会社法第319条1項)の方法が採用されることも多いでしょう。

ここでは株主総会のみなし決議を前提としていますが、開催型の株主総会決議でも当然問題がなく、連絡の取れない株主や、少数の反対株主がいる場合は株主総会を開催することになります。

株主総会で決議する事項は、新株予約権の募集事項の決定(会社法第238条1項)と、新株予約権の割当て(会社法第243条1項)に関する事項です。

この時点でJ-KISS型新株予約権を引き受ける個人人・法人は既に確定しているでしょうから、募集事項を取締役に委任したり(会社法第239条1項)、新株予約権の割当て権限を取締役に付与する定款変更の決議(会社法第243条2項ただし書き)を行うケースは少ないでしょうか。

J-KISS型新株予約権はシリーズAにおいて発行する種類株式と類似した種類株式(A+種、A2種等)に転換されるケースが多いところ、その仕組み上、普通株式に転換される可能性もゼロではないことから、この時点で発行可能株式総数と発行済株式数の差に余裕が無いようであれば、発行可能株式総数の変更も併せて決議することもあります。

なお、ここでは申込み+割当て方式を前提としていますが、総数引受契約方式を採用する場合、割当てに関する決議の代わりに総数引受契約を締結することの承認決議(会社法第244条)を行います。

株主総会決議日=割当日(=払込期日)とするのであれば総数引受契約方式一択となります。

3.投資契約の締結

株主総会の決議後、割当日の前日までに投資契約を締結します(会社法第243条3項)。

登記手続きにおいては、新株予約権の引受けを証する書面としてこの投資契約書を用いることもできますが、その場合は必ず原本還付をしておきましょう。

新株予約権の引受けを証する書面は新株予約権の申込証でも良いため、投資家からは新株予約権の申込証ももらい登記申請の添付書類とすることが無難ではあります。

申込み+割当て方式の場合、この新株予約権の引受けを証する書面は株主総会決議日以降、割当日の前日までの日としておくのが良いでしょう。

4.払込期日までに払込み・割当日の到来

引受人は、債権等の現物出資をする場合を除き、発行会社の金融機関の口座にそれぞれの募集新株予約権の払込金額の全額を払込期日までに払い込まなければなりません(会社法第246条1項)。

新株予約権の申込みをした者は、割当日に、割り当てられた新株予約権の新株予約権者となります(会社法第245条)。

新株予約権者は、募集新株予約権についての払込期日までに、それぞれの募集新株予約権の払込金額の全額の払込みをしないときは、当該募集新株予約権を行使することができなくなります(会社法第246条3項)。

特に、払込期日に発行会社の口座に着金していない、振込手数料を差し引いてしまう等して払込金額の全額が発行会社の口座に着金していない等は稀に見かけますのでご注意ください。

5.登記申請

発行会社は割当日から2週間以内に新株予約権の発行に係る登記申請を行います(会社法第915条1項)。

この登記申請の添付書類の一例は次のとおりです(払込期日が割当日以降(同日含む)の日である場合、払込みがあったことを証する書面は添付書類とはなりません)。

  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 新株予約権の申込証

募集新株予約権の発行に係る登録免許税は(払込金額に関わらず)9万円です。

J-KISS型新株予約権に限らず、投資契約において払込期日から30日(or 1ヶ月)以内にその登記をした後の登記事項証明書(写し)の提出が求められることがありますが、最近の東京法務局港出張所、同渋谷出張所は、登記の審査期間が約1ヶ月程度であることが多いのでこれを遵守することは難しいことがあります。

取締役会設置会社におけるJ-KISS型新株予約権の発行手続き

取締役会設置会社におけるJ-KISS型新株予約権の発行手続きは、取締役会非設置会社におけるそれと次の点のみ変わりますので、取締役会非設置会社において記載した事項は省略しています。

1.取締役の決定(→取締役会決議)
 ↓
2.株主への提案→株主全員の同意→株主総会の決議成立
 ↓
3.投資契約の締結
 ↓
4.払込期日までに払込み、割当日の到来
 ↓
5.登記申請

取締役の決定が取締役会の決議へ

株主総会の招集決定又は株主への提案事項の決定を取締役会の決議で行うことになります(会社法の要請はありませんが、株主への提案事項の決定も取締役会の決議で行っておく前提です)。

臨時の取締役会決議を行う場合は、取締役会のみなし決議(会社法第370条)もよく利用される方法です。ただし、株主総会のみなし決議と異なり、取締役会のみなし決議は定款にその旨の定めがあることが実施する条件となります。

≫みなし取締役会(みなし決議・書面決議)-会社法第370条

割当ての決定が取締役会の決議事項となる

募集新株予約権の割当ての決定(会社法第243条2項)又は総数引受契約を締結することの承認(会社法第244条3項)が、株主総会の決議事項ではなく取締役会の決議事項となります。

募集事項の決定をする株主総会の決議後に割当ての決議をする取締役会を行うこともできますが、割当先が決まっていることがほとんどでしょうから、前号の(株主への提案事項を決議する)取締役会において、株主総会の決議を条件とする等して割当ての決議も併せて行ってしまうことがスムーズです。

登記申請の添付書類

取締役会設置会社におけるJ-KISS型新株予約権の発行の登記申請の添付書類の一例は次のとおりです。

  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 新株予約権の申込証
  • 取締役会議事録
  • 定款(取締役会決議がみなし決議の場合)

自社でJ-KISSの登記申請を行う場合

登記手続きについてご自身で行われる方は、下記法務局のサイトの「1-20-2株式会社変更登記申請書(募集新株予約権の発行(又は新株予約権付社債の発行))」をご参照ください。
≫商業・法人登記の申請書様式 5その他(法務局)

ご自身で行われる場合、会社法が求める登記申請期間が割当日から2週間以内であること(会社法第915条1項)、投資家へJ-KISS型新株予約権の登記後の登記事項証明書(写し)を30日以内に提出することが求められる場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

外部のステークホルダーが増えるタイミング、大きく資金調達をされるタイミング、登記手続きに割くリソースが不足するタイミングで、司法書士に登記を依頼される会社が多い印象です。


この記事の著者

司法書士
石川宗徳

代表司法書士・相続診断士 石川宗徳 [Munenori Ishikawa]

1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)

2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。

2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。

また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。

RSM汐留パートナーズ司法書士法人では、
商業登記不動産登記相続手続き遺言成年後見など、
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