商業登記関係 株式会社の資本準備金、利益準備金の額を減少する手続き
準備金を減少する
株式会社の資本準備金と利益準備金(以下併せて「準備金」といいます)は、一定の手続きを経て減少させることができます。
準備金を減少させるニーズとしては、剰余金の額がマイナスになってしまったので、欠損のてん補に充てるために準備金を剰余金に振り替えるケースが多いのではないでしょうか。
また、資本金を増やしたいときに、準備金を資本金に振り替えることもできます。
準備金を減少する手続き
準備金を減少する手続きとして、大きく2つのポイントがあります。
1つ目は準備金の減少に係る株主総会の決議、2つ目は債権者保護手続きです。
しかし、どちらも株主総会の決議ではなく取締役会の決議が必要となるケースや、債権者保護手続きが不要なケースがあります。
そのため、まず次の2点を検討します。
- 準備金の減少を決定する機関は株主総会か取締役会か
- 債権者保護手続きが必要かどうか
準備金を減少するために要する期間
債権者保護手続きが不要なケース(下記参照)で、株主総会も即日行える会社であれば、1日で準備金の額を減少することも可能です。
債権者保護手続きが必要なケースであれば、着手から準備金の減少の効力発生まで、2ヶ月前後が一つの目安ではないでしょうか。
準備金の減少に係る決議
準備金を減少するときは、次の事項を株主総会の普通決議によって決定します(会社法第448条1項)。
- 減少する準備金の額
- 減少する準備金の額の全部又は一部を資本金とするときは、その旨及び資本金とする額
- 準備金の額の減少の効力発生日
取締役会の決議で準備金の額を減少する
次の条件を満たす場合は、株主総会の決議は必要ありません。
☑ 準備金の減少と募集株式の発行を同時にする場合において、
☑ 準備金の減少の効力発生日後の準備金の額が、
☑ 当該効力発生日前の準備金の額を下回らない場合
は、上記事項を取締役の決定(取締役会設置会社は取締役会の決議)によって定めます(会社法第448条3項)。
債権者保護手続き
準備金を減少するときは、原則として債権者保護手続きが必要です(不要なケースは下記参照)。
債権者保護手続きは、次の事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別に催告する方法によって行います(会社法第449条2項)。
- 準備金の額の減少の内容
- 最新の貸借対照表又はその要旨が掲載されている場所
- 債権者が一定の期間内(1ヶ月以上)に異議を述べることができる旨
なお、知れている債権者への各別催告は、≫ダブル公告によって省略することができます。
知れている債権者がいない場合
知れている債権者がいないのであれば、各別の催告は不要です(催告できません)。
しかしその場合でも、債権者保護手続きが必要なケースにおいては、官報公告は必ずしなければなりません。
準備金の減少に係る公告記載例
資本準備金の額を1,000万円減少させる場合の公告記載例は次のとおりです。
当社は、資本準備金の額を1千万円減少することにいたしました。
この決定に対し異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。
なお、最終貸借対照表の開示状況は次のとおりです。
掲載紙 官報
掲載の日付 平成30年4月2日
掲載頁 000頁(号外第000号)
平成30年5月7日
東京都中央区銀座七丁目13番8号
汐留太郎株式会社
代表取締役 汐留太郎
債権者保護手続きが不要である場合
準備金を減少させるときに、次のどちらかに該当する場合は債権者保護手続きが不要です(会社法第449条1項)。
- 減少する準備金の全てを資本金とする場合
- 準備金の額の減少を定時株主総会で決議する場合で、かつ、当該決議日において欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えない場合
準備金の額の減少のスケジュール例
準備金の額の減少につき、株主総会で決議、債権者保護手続きが必要なケースにおけるスケジュール例は次のとおりです。
このスケジュール例では、(否決されないことを前提に)株主総会の決議より債権者保護手続きを先行して行っています。
債権者保護手続きの期間の計算についてはご注意ください(期間の満了日が日曜日等)。
取締役会の決議(減少する準備金の内容決定、株主総会の招集決定) 官報公告の申込み |
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官報に準備金の額の減少公告が掲載 知れている債権者への個別催告の発送 |
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株主総会の招集通知の発送 | |
株主総会の決議 | |
債権者保護手続きの期間満了 | |
準備金の額の減少の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) ※登記が必要な場合のみ |
準備金の減少と登記手続き
準備金の額は登記事項ではありません。
そのため準備金を減少して、同じく登記事項ではない剰余金に振り替えるのであれば、登記申請は不要です。
準備金を資本金に組み入れる
準備金を資本金に組み入れる場合は、登記事項である資本金の額に変動が生じますので、その効力が発生した時から2週間以内に変更登記を申請しなければなりません。
準備金の資本組み入れに係る登記については、こちらの記事をご参照ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。