商業登記関係 J-KISS型新株予約権の募集事項の決定を取締役へ委任する
J-KISS型新株予約権の募集事項の決定
スタートアップの資金調達の手段としてJ-KISS型新株予約権があり、エクイティ型の調達方法としてバリュエーションの先送りをすることができるという特徴から一定のニーズがあります。
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J-KISS型新株予約権による調達は新株予約権を発行する会社法上の手続きを踏みますので、株主総会の決議や発行後に登記手続きが必須となります。株主が1-2名程度しかいない株式会社であればその都度株主総会の決議をすることが容易ですが、株主が多い場合は株主総会をする度にその手続きコストが生じます。
ところで、新株予約権の募集事項を取締役へ委任し、同時に、新株予約権の割当ての決定(総数引受契約の承認)行為を取締役が行えるようにする方法もあり検討の余地があります。
この記事では、種類株式発行会社ではなく、かつ、取締役会を設置していない非公開会社を前提としています。
≫J-KISS型新株予約権の発行手続きと登記申請
募集事項の委任の内容
株式会社が新株予約権を発行するときは、株主総会の決議によって次の事項を定めることにより、募集事項の決定を取締役に委任することができます(会社法第243条1項)。
- その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集新株予約権の内容及び数の上限
- 前1.の募集新株予約権につき金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
- 前2.に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額の下限
J-KISS型新株予約権においては金銭の払込みを要しますので、上記2.ではなく上記3.を定めることになり、その金額は一般的には100万円です。
「新株予約権の内容」は会社法第236条1項に列挙されていますので(同項に記載はありませんが新株予約権の行使条件も含まれる)、J-KISS型新株予約権においては「バリュエーションキャップ(2.0ではポストベース)」「ディスカウント率」「適格資金調達として定める調達金額」「転換期限」もこの株主総会で決議することになります。
J-KISS型新株予約権を2回目以降に発行するときに、上記4点を1回目と異なる数字で発行するのであれば改めて株主総会の決議を行います。
J-KISS型新株予約権の会社法における注意点
J-KISS型新株予約権は、投資額がいくらであっても利用することは可能です。そのため、投資額が5000万円から2億円程度である場合に利用されていることもあれば、投資額が200-500万円のケースも見かけることがあります。
J-KISS型新株予約権は次のシリーズにおいて、その引受人が特定の種類株式(A+種、A2種等)の株主となる可能性が高く、そうなると会社法第322条1項の規定から拒否権に近い権限を有することになります。
つまり、200万円のJ-KISS型新株予約権者が唯一のA+種優先株主となった場合、当該株主の承認が得られなければシリーズB以降の種類株式の追加に係る定款変更を行うことができない状況となり得ます(会社法第322条1項1号イ)。
その他に、J-KISS型新株予約権はバリュエーションの先送りはできますが、ポストキャップは新株予約権の内容として定める必要があり、この数字を適当に決めてしまうとJ-KISS型新株予約権の保有者に対して、投資額及びリスクに見合わない株式数を付与することになりかねないという点にも注意が必要です。
募集事項の決定と割当ての決定を取締役ができるようにする
取締役会非設置会社が募集新株予約権の発行を行うときは、株主総会の決議によって募集事項の決定及び割当ての決定(総数引受契約の承認)をすることになりますが、ここでは募集事項を取締役へ委任し、割当ての決定(総数引受契約の承認)も取締役が行う方法を見ていきます。
取締役の決定
まずは取締役において株主総会の招集決定を行います(会社法第298条1項)。
会社法第319条1項に基づく株主総会のみなし決議を行うときは、会社法上、提案事項につき取締役の決定を行うことは求められていませんが、株主総会を招集する場合に準じて取締役の決定により当該提案を行うこと及びその内容を決定するケースが多い印象です。
株主総会の募集事項の委任が決議されることを条件に、当該委任に基づき募集事項の決定及び新株予約権の割当ての決定をここで行うことも可能です。
株主総会の決議
取締役の決定により新株予約権の割当て又は総数引受契約承認を行うことができるよう定款変更の決議を行い(会社法第243条2項ただし書き)、新株予約権の募集事項の委任に関する決議(特別決議)も行います(会社法第239条1項)。
第2号議案 新株予約権に係る募集事項の決定の委任の件
第●●条 当会社の株式(自己株式の処分による株式を含む。)を引き受ける者の募集において、会社法第204条第1項の割当てに関する事項の決定は、取締役の過半数の決定によって行う。
2 当会社の株式(自己株式の処分による株式を含む。)を引き受ける者の募集において、募集株式を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、当該契約の承認は取締役の過半数の決定によって行う。
3 当会社の募集新株予約権(自己新株予約権の処分による新株予約権を含む。)を引き受ける者の募集において、会社法第243条第1項の割当てに関する事項の決定は、取締役の過半数の決定によって行う。
4 当会社の募集新株予約権(自己新株予約権の処分による新株予約権を含む。)を引き受ける者の募集において、募集新株予約権を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、当該契約の承認は取締役の過半数の決定によって行う。
上記の定款の条文は、取締役会設置後は削除することになるため、「第●●条の2」等として定款の途中に入れるか、定款の条数の最後に入れると定款の条数の繰下げ(削除後の繰上げ)不要となります。
投資契約の締結
申込みを条件に割り当てを行っている場合、割当ての通知は割当日の1日前までに行う必要があるため(会社法第243条3項)、割当日の前日までに投資契約を締結します(会社法第243条3項)。
登記手続きにおいては、新株予約権の引受けを証する書面としてこの投資契約書を用いることもできますが、その場合は必ず原本還付をしておきましょう。
なお、J-KISS型新株予約権の場合は申込証も用意されているため、申込証を登記手続きに使用する方法が無難です。
法務局へ登記申請
J-KISS型新株予約権の割当日から2週間以内に法務局へ登記申請をします(会社法第915条1項)。
投資契約書で定められたとおり払込期日(=割当日)から30営業日以内に、当該新株予約権の発行が反映された発行会社の現在事項全部証明書を投資家に交付するためには、払込期日(=割当日)以降速やかに登記申請をする必要があります。
上記のとおり株主総会の委任及び定款の定めに基づき、募集事項及び割当ての決定を取締役が行った場合の登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 取締役の決定書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 投資契約書又は申込証
- 定款
- 委任状(代理人に登記申請行為を委任する場合)
この登記の登録免許税は調達額に関わらず9万円です。
≫J-KISS型新株予約権の発行手続きと登記申請
2回目以降のJ-KISS型新株予約権の発行手続き
上記のとおり募集事項の委任及び定款の定めに基づき、その範囲内において取締役の決定により2回目以降のJ-KISS型新株予約権を発行することが可能となります。
この委任に基づき取締役が募集事項を決定することができる期間は、割当日が当該株主総会の決議日から1年以内の日である募集事項についてのみその効力を有します(会社法第239条3項)。
割当日が異なる新株予約権は別の新株予約権であるため、株主総会決議による1回の募集事項の委任に基づき取締役が複数回の募集事項の決定を行った場合はそれぞれ第1回J-KISS型新株予約権、第2回J-KISS型新株予約権、第3回・・・としてその発行の度に登記手続きが必要となります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。





