商業登記関係 欠損填補をするための減資の手続きと、損失処理のできる資本剰余金の範囲
欠損とその填補方法
利益剰余金のマイナスのことを損失といい、資本剰余金を利益剰余金に組み替えることによって損失を解消することを損失の処理といいます。
損失の処理をするための資本剰余金が足りないときは、一度資本金または資本準備金あるいはその両方を減少して資本剰余金に組み替える方法によって資本剰余金を増やします(欠損填補)。
欠損填補のために資本金、資本準備金を減少するときは、それぞれ手続きに係る要件を緩和する規程が会社法には設けられています。
資本金の額を減少する
資本金の額を減少させて、減少した資本金の額を資本剰余金の額に組み替えることができます。
資本金の額を減少するには、株主総会の特別決議+債権者保護手続きによって行います(会社法第447条1項、同法449条第1項)。
資本金の額の減少手続きについては、こちらの記事をご参照ください。
決議要件の緩和
資本金の額の減少を決議するには、原則として株主総会の特別決議が必要です。
しかし、次の条件を満たす場合はその決議要件が緩和されます。
(会社法) | ||
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株主総会の特別決議 | 原則 | 309-2-9 447-1 |
株主総会の普通決議 | ①定時株主総会の決議であること ②減少する資本金の額が欠損の範囲内であること | 309-2-9 447-1 |
取締役会の決議 (取締役の決定) | ①株式の発行と同時に資本金の額を減少すること ②当該資本金の額の減少の効力発生日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないこと | 447-3 |
債権者保護手続きは必須
資本金の額の減少手続において、上記のとおり一定の条件を満たした場合は決議要件を緩和することができますが、債権者保護手続きを不要とすることはできません。
これは、資本金の額の減少が欠損填補のためであっても、あるいは資本金の額の減少手続き前後で資本金の額が減少しない場合であっても同様です。
資本準備金の額を減少する
資本準備金の額を減少させて、減少した資本準備金の額を資本剰余金の額に組み替えることができます。
資本準備金の額を減少する手続きは、資本金の額を減少する手続きと決議要件が異なり、株主総会の普通決議+債権者保護手続きによって行います(会社法第448条1項、同法第449条1項)。
また、準備金の額の減少手続き前後で準備金の額が減少しない場合は、取締役会の決議(取締役の決定)で行うことになります(会社法第448条3項)。
準備金の額の減少手続きについては、こちらの記事をご参照ください。
債権者保護手続きを不要とできるケース
準備金の額を減少するときは、原則として債権者保護手続きが必要となります。
しかし、次のような場合は債権者保護手続きは不要です。
- 準備金を全て資本金とする場合 または
- 定時株主総会で準備金の額の減少を決議する場合において、減少する準備金が欠損の範囲内であるとき
資本剰余金の額を減少する
資本金の額、資本準備金の額あるいはその両方を減少させて、資本剰余金の額を増加させることができるのは上記のとおりです。
資本剰余金は、株主総会の普通決議によってその処分をすることができますので、株主総会の普通決議によって資本剰余金を利益剰余金へ組み替えて欠損填補を行うことができます。
資本金の額、資本準備金の額あるいはその両方の減少を決議する株主総会で、資本金の額等の減少を効力発生の条件として、一緒に決議してしまうことも可能です。
期中の欠損を解消できるか
損失処理(資本剰余金の利益剰余金への組み替え)は、最終の貸借対照表に係る利益剰余金のマイナス部分についてのみ行うことができるとされています。
最終の貸借対照表とは、直近の事業年度末に係る定時株主総会で承認された貸借対照表のことをいいます。
それでは、期中に発生した利益剰余金のマイナス部分については資本剰余金を振り替えることはできるのでしょうか。
結論から申し上げると、期中に発生した利益剰余金のマイナスについては損失処理をすることはできないとされています。
これは、臨時決算を行った場合でも結果は変わりません。
顧問税理士に確認する
資本金等の額を減少することによって損失の処理をした場合、法人住民税均等割が減額となる可能性があります。
資本金の額や準備金の額を減少して損失の処理をするときは、そのメリット・デメリットにつき顧問税理士にご確認ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
![代表司法書士・相続診断士 石川宗徳 [Munenori Ishikawa]](/js/wp-content/themes/shiodome/dist/img/mr.ishikawa_02.jpg)
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。