商業登記関係 欠損填補をするための減資の手続きと、損失処理のできる資本剰余金の範囲
欠損と欠損填補
原則として、「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」から「自己株式の帳簿価額」を引いた合計額がマイナスであるときに、そのマイナスの額を欠損の額といいます。
※上記はざっくりとしたものです。細かい計算は顧問税理士にご確認ください。以下、自己株式がゼロという前提です。
欠損を解消するために、資本金や資本準備金をその他資本剰余金に振り替えたり、利益準備金をその他利益剰余金に振り替えることによって欠損を解消することを欠損填補といいます。
欠損填補とは、例えば、その他利益剰余金-500万円、その他資本剰余金0円の株式会社において、資本金のうち500万円をその他資本剰余金に振り替えるような行為をいいます。
その結果、その他利益剰余金-500万円、その他資本剰余金500万円となることにより、欠損は解消されています。
損失と損失の処理
一般的に、繰越利益剰余金のマイナスのことを損失といい、その他資本剰余金をその他利益剰余金に振り替えることによって、その他利益剰余金のマイナスの一部又は全部を解消することを損失の処理といいます。
損失の処理とは、例えば、その他利益剰余金-500万円、その他資本剰余金500万円の株式会社において、その他資本剰余金をその他利益剰余金に振り替えるような行為をいいます。
その結果、その他利益剰余金が0円(その他資本剰余金も0円)となり、損失が解消されています。
損失の処理をするためのその他資本剰余金が不足しているときは、資本金又は/及び資本準備金を減少して、それをその他資本剰余金に振り替える方法によってその他資本剰余金を増やすことができます。
例えば、その他利益剰余金-500万円、その他資本剰余金0円の株式会社において、資本金のうち500万円をその他資本剰余金に振り替え(欠損填補)、その他資本剰余金の500万円をその他利益剰余金に振り替えることによって、その他利益剰余金のマイナスを解消します。
欠損填補や損失の処理をするために、資本金や資本準備金を減少するときは、それぞれ会社法で定められた手続きを経る必要があります。
資本金の額を減少する
資本金の額を減少させて、減少した資本金の額をその他資本剰余金の額に振り替えることができます。
資本金の額を減少するには、株主総会の特別決議+債権者保護手続きによって行います(会社法第447条1項、同法449条第1項)。
資本金の額の減少手続きについては、こちらの記事をご確認ください。
決議要件の緩和
資本金の額の減少を決議するには、原則として株主総会の特別決議が必要です。
しかし、次の条件を満たす場合はその決議要件が緩和されます。
(会社法) |
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株主総会の特別決議 | 原則 | 309-2-9 447-1 |
株主総会の普通決議 | ①定時株主総会の決議であること ②減少する資本金の額が欠損の範囲内であること | 309-2-9 447-1 |
取締役会の決議 (取締役の決定) | ①株式の発行と同時に資本金の額を減少すること ②当該資本金の額の減少の効力発生日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないこと | 447-3 |
債権者保護手続きは必須
資本金の額の減少手続において、上記のとおり一定の条件を満たした場合は決議要件を緩和することができますが、債権者保護手続きを不要とすることはできません。
これは、資本金の額の減少が欠損填補のためであっても、あるいは増資を同時に行うケースで、資本金の額の減少手続きの前後で資本金の額が減少しない場合であっても同様です。
資本準備金の額を減少する
資本準備金の額を減少させて、減少した資本準備金の額をその他資本剰余金の額に振り替えることができます。
資本準備金の額を減少する手続きは、資本金の額を減少する手続きと決議要件が異なり、株主総会の普通決議+債権者保護手続きによって行います(会社法第448条1項、同法第449条1項)。
また、準備金の額の減少手続き前後で準備金の額が減少しない場合は、取締役会の決議(取締役の決定)で行うことになります(会社法第448条3項)。
準備金の額の減少手続きについては、こちらの記事をご確認ください。
債権者保護手続きを不要とできるケース
準備金の額を減少するときは、原則として債権者保護手続きが必要となります。
しかし、次のような場合は債権者保護手続きは不要です。
- 準備金を全て資本金とする場合 又は
- 定時株主総会で準備金の額の減少を決議する場合において、減少する準備金が欠損の範囲内であるとき
その他資本剰余金の額を減少する
資本金の額及び/又は資本準備金の額を減少させて、その他資本剰余金の額を増加させる方法は上記のとおりです。
その他資本剰余金は、株主総会の普通決議によってその処分をすることができますので、株主総会の普通決議によってその他資本剰余金をその他利益剰余金へ振り替えることで損失の処理を行うことができます。
資本金の額及び/又は資本準備金の額の減少を決議する株主総会で、資本金の額等の減少を効力発生の条件として、その他資本剰余金をその他利益剰余金に振り替える決議も一緒にしてしまうことが多いです。
期中の欠損を解消できるか
損失の処理(その他資本剰余金をその他利益剰余金への振り替える)は、最終の貸借対照表に係る「利益剰余金(利益準備金+その他利益剰余金)」のマイナスの額を限度として行うことができるとされています。
最終の貸借対照表とは、直近の事業年度末に係る定時株主総会で承認された貸借対照表のことをいいます。
ところで、期中に生じたその他利益剰余金のマイナスの額については、その他資本剰余金を振り替えることはできるのでしょうか。
結論から申し上げると、期中に生じたその他利益剰余金のマイナスについては、その他資本剰余金を振り替えることはできないとされています。
これは、臨時決算を行った場合でも変わりません。
損失の処理の範囲
損失の処理ができる範囲は、上記のとおり「利益準備金+その他利益剰余金」のマイナスの額が限度です。
利益準備金100万円、その他利益剰余金-500万円である株式会社の場合、その他資本剰余金からその他利益剰余金へ振り替えられる額は400万円です。
その他利益剰余金だけを見ていると、その他資本剰余金から500万円を振り替えられるように勘違いをしてしまいますので注意が必要です。
なお、このケースの場合、その他利益剰余金のマイナスを解消するために、利益準備金をその他利益剰余金に振り替えることも併せて行うことがほとんどでしょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。