SPACによるNASDAQ(ナスダック)上場事例:A.L.I. Technologies
2023年12月1日
日本企業がSPACによってNASDAQ上場した事例として、A.L.I. Technologiesを取り上げて深堀りしていきたいと思います。会社概要・上場概要から申請書類の提出スケジュール、上場時の財務数値をまとめています。
会社概要
SPACを通じてNASDAQに上場したA.L.I. Technologiesの会社概要は次の通りです。
商号 | 株式会社A.L.I.Technologies |
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所在地 | 東京都港区芝公園3丁目1番8号 芝公園アネックス6階 |
設立 | 2016年9月 |
資本金 | 1億円(2021年12月末) |
代表 | 代表取締役社長 片野大輔 |
事業内容 |
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A.L.I. Technologiesは「空から社会を変革する」というミッションを掲げ、車、バイク、およびドローンが自由に飛行できる「エアモビリティ社会」を実現することを目指しています。
新しい技術の挑戦とそれを社会に実装することを通じて、誰もが安全かつ便利に空域を利用できるようにするインフラを提供し、エアモビリティ社会をリードするグローバルカンパニーとして社会に貢献することを目指して、エアモビリティ事業を展開しています。
具体的には、有人エアモビリティ、無人エアモビリティ、コンピューターパワーシェアリングの3つの領域で事業を展開しています。
- 有人エアモビリティ:災害時などに通行困難な地域を低空で浮遊するホバーバイクの販売および開発。
- 無人エアモビリティ:産業用ドローンを活用したソリューションの提供(R&D、航空機、オペレーター、運用管理、および他のソフトウェアの統合)。
- コンピューターパワーシェアリング:ブロックチェーンの検証やAIアルゴリズム生成などのサービスを、迅速で安価かつ安全な方法で提供。
上場概要
A.L.I. Technologiesは、米国の親会社であるAERWINS Technologies Inc.が、NASDAQ上場済みのSPACであるPONO Capital Corp.に買収され、NASDAQ Capital Marketへの上場を達成しました。
合併前のAERWINS Technologies Inc.の企業価値は約6億ドルであったが、SPACによる買収により、償還がない場合は合併後の企業価値は約7.5億ドルになる見込みでした。
この合併によって得られる資金は、償還および取引経費の支払いを経て、製品製造、企業の運営資金、成長の支援、および一般的な企業の運用目的に使用される予定と公表されております。
SPACであるPONO Capital Corp.の株主が償還を行わない場合、AERWINS Technologies Inc.の現在の株主が合併後の発行済み株式の約80%を所有するのが当初のスキームです。
なお、上場(買収)の際の外部関係会社は以下の通りです。
- 弁護士法人:NELSON MULLINS RILEY & SCARBOROUGH LLP
- 監査法人:Marcum LLP /TAAD LLP
上場申請書類の提出及び合併のスケジュール
SPACであるPONO Capital Corp.の申請書類の提出スケジュールは以下の通りです。
日付 | 内容 |
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2021/4/23 | DRS(上場申請書類のドラフト)を提出 |
2021/8/10 | 上場申請書類が承認 |
2022/12/1 | S-4(SPACによる買収に関する申請書類)を提出 |
2022/12/15 | 提出したS-4に対するSECのコメントレターを受領 |
2023/1/4 | S-4のコメント箇所を修正し再度提出 |
2023/1/13 | 申請書類が承認 |
2023/1/13 | 424B4 Prospectus(目論見書)が発行 |
2023/2/3 | 合併が完了 |
出典:EDGARを基に作成
このようにSPACが上場して対象会社を買収するまでに約2年ほど経過しており、買収が完了し買収したAERWINS Technologies Incの上場が承認されました。
上場時の財務数値
A.L.I.Technologiesはその会社自身が実際にNASDAQに上場したわけでなく、その親会社「AERWINS Technologies Inc.」がSPACに買収されたことを持って上場が完了しました。
したがって、「AERWINS Technologies Inc.」の買収された時点の財務数値を見ていきたいと思います。
上場しているSPACの買収に関する申請書類S-4に記載されている財務数値は次の通りです。
科目 | 2021年12月期 |
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総資産 | 16,697,936ドル |
純資産 | △57,598ドル |
売上高 | 7,830,130ドル |
当期純利益 | △14,555,670ドル |
出典:AERWINS Technologies Inc.-S-4
上場の背景
AERWINS Technologies Inc.のNASDAQ上場を通じて、グローバルに事業を拡大し、エアモビリティのグローバルスタンダードを確立することを目指しています。A.L.I. Technologiesは、今後も「Establish the Theory」のミッションのもと、次世代を支える新たな仕組みを生み出し、世界に革新的なイノベーションを起こすと表明しています。
代表取締役社長である片野大輔氏は、AERWINSのNASDAQ上場を通じてエアモビリティ市場における事業のグローバル化を進め、今後も同社のビジョンを追求する考えを示しています。
その他(2023年12月27日破産申請)
残念ながら、2023年12月27日に東京地方裁判所へ破産申請し、1月10日に破産手続き開始の決定を受けたと報じられました。
A.L.I. Technologiesは、エアモビリティ社会の実現を目指し、自動車、バイク、ドローンなどを開発しておりました。会社は元代表の小松氏と東京大学の学生などで構成され、主な事業はドローンシステム、機体の受託開発、ブロックチェーンデータベースの実装案件でした。
2019年には「X TURISMO」と呼ばれる空飛ぶバイクを発表し、2021年には「X TURISMO Limited Edition」を価格7,770万円で発売。これは映画スターウォーズにインスパイアされ、災害救助やエンターテイメント利用を目指しており、2022年には国際デトロイトモーターショーで注目を集めました。また、日本では「仮面ライダーリバイス」とのコラボレーションや北海道日本ハムファイターズの開幕戦で新庄剛志監督が「X TURISMO Limited Edition」に乗って登場し話題となりました。
しかし、中長期的な展望では米国やUAEなどでのホバーバイクの販売を計画していましたが、研究開発投資費が嵩むなど大幅な赤字が続いておりました。2022年度決算の年間収入は約7億3000万円であるのに対し、約20億円の当期純損失を計上しており、厳しい運営を強いられていました。当時の負債は約21億300万円といわれています。