1. なぜ今、プロスポーツのサステナビリティが“経営テーマ”なのか
1. なぜ今、プロスポーツのサステナビリティが“経営テーマ”なのか
サステナビリティは、CSR(社会貢献)として語られるだけでなく、いまや「事業継続」や「ブランド」「ファン/スポンサーとの関係性」に直結する経営課題として扱われる場面が増えています。プロスポーツは、クラブ・選手・ファン/サポーター・スポンサー・自治体・メディアなど、多様な関係者が関わる産業です。その分、取り組みが社会に与える影響も大きく、また“スポーツの熱量”が行動変容を生みやすいという特徴もあります。
こうした流れの中で、Jリーグは気候アクションの一環として、国際的イニシアティブ「Sport Positive League(SPL)」への参画を決定しました。サッカーという文化に馴染みやすい形で、環境サステナビリティを推進していく動きが始まっています。
2. Sport Positive Leagues(SPL)とは何か
SPLは、サッカークラブ等の「気候アクション」を数値化し、進捗や目指すべき方向性を分かりやすく把握できる仕組みです。参画リーグの所属クラブを対象に、取り組み状況に関するデータを収集し、独自のスコアリングで分析したうえで、カテゴリ別の加重も踏まえた総合点を算出します。結果はスポーツファンに馴染みのある“順位表”の形式で示される点が特徴です。
また、JリーグのSPL解説では、評価対象として、試合会場や施設のエネルギー効率、再生可能エネルギーの利用、リサイクルや廃棄物削減、ファンや選手の移動に伴うCO2排出量の管理、ホームタウンとの連携、選手等への環境教育の推進など、スポーツ界ならではの環境パフォーマンスが挙げられています。単発の施策ではなく、「データの収集 → 可視化 → 共有 → 改善」を回す仕組みとして設計されている点がポイントです。
(ここが重要)
SPL参画は「施策を増やす」こと以上に、方針・体制・運用・発信をセットで回すための“共通言語”を得ることでもあります。導入検討の場では論点が散らばりがちですが、SPLの枠組みを参照することで、エネルギー/交通(移動)/廃棄物などの運用領域だけでなく、教育やコミュニケーション等も含めて全体設計を考えやすくなります。
3. JリーグのSPL参画が示す意味(アジア初)
Jリーグ公式発表によると、執筆時点でSPLには欧州の4つのプロサッカーリーグが参画しており、Jリーグは5番目、アジアでは初の参画とされています。参画に先立ち、気候アクションを後押しするための助成金制度(Jリーグサステナビリティ事業活動助成金制度)を新設し、SPL参画を推進するプロジェクトも発足したことが示されています。
これは、リーグ全体として「継続運用の仕組み」へ踏み込む意思表示とも捉えられます。今後、日本のクラブが何を、どの粒度で、どのように情報開示していくかが、より重要な論点になっていくでしょう。
4. 先行する英国:プレミアリーグの「戦略」とクラブの取り組み整理
英国では、リーグとしての方針・戦略の提示と、クラブの取り組みの可視化が進んでいます。
(1)プレミアリーグの環境サステナビリティ戦略
プレミアリーグは環境サステナビリティ戦略を公表し、「2040年ネットゼロ」を目指すことを掲げています。公表された方針では、優先領域として次の3点が示されています。
- 自らの事業を適応させる(2040年ネットゼロを目指す)
- リーグ全体の脱炭素化を支援し、競技を将来にわたって持続可能にする
- プログラムや発信を通じて、ファンを巻き込み行動を促す
ここで注目したいのは、「削減目標」だけではなく、“意思決定や運営にサステナビリティを組み込む”という考え方が前面に出ている点です。リーグとしての方針が明確になることで、クラブや関係者(スポンサー・自治体・サプライヤー等)も同じ方向性で動きやすくなります。
(2)クラブの取り組みを整理したオープンなレポート
クラブ側の取り組みについては、Sport Positiveがプレミアリーグ20クラブの活動を整理したレポート(2023/24シーズン)を公開しています。レポートは、環境サステナビリティ/気候アクションの「傾向・進捗・活動」をアクセスしやすい形でまとめたものとされ、クラブの取り組みを俯瞰する材料として参照できます。
さらにSport Positive Leaguesの説明では、このレポートがエネルギー、交通(移動)、廃棄物、水、使い捨てプラスチック、食、生物多様性といった運用領域に加え、コミットメント、ポリシーと報告、コミュニケーション、教育、調達、スポンサーシップといった戦略領域も含め、複数のカテゴリで整理していることが示されています。
つまり「現場施策(運用)」と「回し続けるための仕組み(戦略)」の両面から、クラブの活動を見渡せる形になっています。
5. 日本のクラブ・企業・ファンにとっての示唆
JリーグのSPL参画が意味するのは、単なる施策拡充というよりも、取り組みを“仕組みとして継続”させる方向性が強まることです。日本のクラブでも今後、次のような論点がより重要になると考えられます(※これは将来の方向性に関する一般的な示唆です)。
取り組みの標準化
どの領域を、どの粒度で、どう測り、どう示すか
体制設計
誰が責任を持ち、どの部門が関与し、外部とどう連携するか
運用の定着
教育・啓発、KPI、定期レビューをどう回すか
共創の広がり
スポンサーや地域と連動しやすいテーマ(移動・廃棄物など)をどう設計するか
ファン/サポーター側にとっても、SPLのような枠組みは「クラブの取り組みを知る入口」になります。自分の応援するクラブがどんな方針で、どの領域に注力しているのかを知ることは、観戦行動(移動・購買・参加)を通じた貢献にもつながります。
6. まとめ:まず何から始めるべきか
最初の一歩は、難しく考えすぎなくて大丈夫です。実務的には、次の順で整理すると進めやすくなります。
- 現状把握(エネルギー/移動/廃棄物など、どこが課題か)
- 体制づくり(担当・責任・社内外連携)
- 方針・目標・KPI(できるところから設定)
- 情報発信(取り組みの見える化)
- 定期レビュー(継続運用の仕組み化)
SPL参画は、こうした「継続運用」を後押しする枠組みとして活用できる可能性があります。まずは、リーグやクラブがどの領域を重視し、どのように可視化していくのかを追いかけること自体が、理解と実践の第一歩になります。
参考リンク
・【公式】アジア初となるSport Positive League(SPL)参画を決定(Jリーグ)
・Jリーグ気候アクション:SPLとは(仕組みの解説)
・PremierLeague:EnvironmentalSustainabilityStrategy(発表ページ)
・PremierLeague:EnvironmentalSustainabilityStrategy(PDF)
・SportPositive:PremierLeague Clubs Environmental Sustainability Report(2023/24、PDF)
・Sport PositiveLeagues:PremierLeague Clubs 2023(カテゴリ説明)
