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スポーツ選手におけるジム代・パーソナルトレーニング費用の必要経費性と確定申告上の留意点

スポーツ選手におけるジム代・パーソナルトレーニング費用の必要経費性と確定申告上の留意点

会計・税務
2026年5月15日

スポーツ選手の確定申告では、遠征費、用具代、治療費、栄養管理費などと並んで、ジム代やパーソナルトレーニング代をどこまで経費にできるのかが悩みやすい論点です。とりわけ、競技力の維持向上と日常生活上の健康管理が重なりやすい費目であるため、「スポーツ選手 ジム代 経費」というテーマは、実務上も非常に判断が分かれやすい領域といえます。結論からいえば、スポーツ選手のジム代・パーソナル代が当然に必要経費になるわけではなく、競技収入を得るために通常必要であったか、私的支出と明確に区分できるか、そしてその内容を客観資料で説明できるかが重要になります。国税庁は、必要経費として算入できる金額について、総収入金額を得るために直接要した費用や、その年に生じた業務上の費用であることを基本として示しています。1

この点は、スポーツ選手という職業の特殊性を踏まえても変わりません。たしかに競技者にとって身体づくりは仕事の中核であり、一般の個人事業者よりもトレーニング費用の業務性が認められやすい場面はあります。しかし一方で、ジムの利用には健康維持、体型管理、私生活上の美容・コンディショニングといった私的側面も入り込みやすく、税務上は「競技活動のための支出」であることを丁寧に示す必要があります。したがって、スポーツ選手のジム代を経費計上する際は、「アスリートだから全部経費」という発想ではなく、収入との関連性を一件ごとに整理していく姿勢が求められます。

まず押さえておきたいのは、必要経費の判断は「費用の名前」ではなく「費用の中身」で行われるという点です。たとえば同じ「ジム代」であっても、所属チームの練習とは別にオフシーズンの競技力維持のため継続的に通っているケースと、健康増進や体型維持のために一般的なフィットネスジムへ通っているケースでは、税務上の見え方が異なります。前者は競技収入との関連性を説明しやすい一方、後者は私的支出とみられやすくなります。税務では、費用が仕事に役立つかどうかだけでなく、収入獲得との距離がどれほど近いかが重視されます。そのため、競技特性、利用目的、契約内容、利用頻度、支払先、トレーニングメニューの内容などを総合して判断することになります。なお、家事上の支出と業務上の支出が混在する「家事関連費」については、業務遂行上直接必要であったことが取引の記録等により明らかに区分できる部分に限り、必要経費に算入できるとされています。ジム代やパーソナル代は、まさにこの家事関連費に該当しやすい費目であるため、後述のとおり、業務使用部分を客観的に切り分ける視点が不可欠です。

さらに実務上は、スポーツ選手の所得区分によっても考え方が変わりやすい点に注意が必要です。たとえば、スポンサー収入、出演料、指導料、賞金、個人契約に基づく活動収入などをもとに自ら事業的に活動しているスポーツ選手であれば、その活動に通常必要なトレーニング費用は必要経費として検討しやすくなります。

これに対し、チームやクラブから給与を受ける形が中心である選手については、給与所得の計算では一般に実費経費を自由に差し引けるわけではありません。国税庁は、給与所得者については給与所得控除とは別に、一定の要件を満たす「特定支出控除」があることを示していますが、その対象は通勤費、職務上の旅費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、図書費・衣服費・交際費等の勤務必要経費などに限定されています。2このため、チーム所属のスポーツ選手が自費で支払ったジム代やパーソナル代を、給与所得に対応する形でそのまま差し引けると考えるのは慎重であるべきです。トレーニング費用が職務と深く関係していたとしても、給与所得者の特定支出控除は対象範囲が限定されており、しかも一定額を超えることや証明書類を備えることなどの条件が伴います。実務では、ジム代やパーソナルトレーニング代がこの制度にそのまま当てはまるとは言いにくく、極めて限定的なケースを除き、ジム代やパーソナルトレーニング代が特定支出控除の対象となる余地は基本的にありません。

一方で、個人事業的な要素が強いスポーツ選手については、ジム代・パーソナル代の必要経費性を検討する余地が相対的に高まります。たとえば、一定の競技成績やパフォーマンスを維持することが直接的にスポンサー契約、賞金、出演収入等の条件として組み込まれている場合、その水準維持に必要なトレーニング費用は、収入を得るために必要な経費として整理しやすくなります。また、競技種目によっては、所属先の公式練習だけでは足りず、身体能力の維持向上のために外部施設や専門トレーナーを利用することが業務遂行上必要であるケースもあります。そのような場合には、当年の競技活動収入との対応関係、費用の必要性、継続性、競技との関連性を説明できるほど、必要経費としての位置付けは強まりやすいと考えられます。

実務上の判断イメージは、次のように整理するとわかりやすくなります。

支出の内容 必要経費としての考え方 実務上の留意点 
競技成績向上を目的とした専門ジムの利用料 競技収入との関連性を示しやすい場合は、必要経費として検討しやすい 契約書、利用明細、競技計画、コーチ指示の記録があると説明しやすい 
試合前調整のための短期集中パーソナル代 競技活動との関連性が具体的に説明できれば、必要経費として整理しやすい 試合日程や強化計画と支出時期が対応していることが重要 
健康維持目的の一般的なスポーツクラブ会費 私的支出と評価されやすく、業務との関連性の説明が必要(困難) 家事費との区分が曖昧だと否認リスクが高まりやすい 
家族も利用できる会員制ジムの会費 私的利用が混在しやすく、業務使用部分の合理的な按分が必要 業務使用割合の合理的説明ができなければ、経費算入は控える 
チームから給与を受ける選手の自費トレーニング代 給与所得の計算上では、基本的に控除できない 特定支出控除の要件を満たすことは基本的に 

この表からもわかるとおり、スポーツ選手のジム代・パーソナル代を経費にできるかどうかは、競技との結び付きが具体的に説明できるかどうかで大きく変わります。とくに重要なのは、「その支出がなくても同じ収入が得られたのではないか」と見られにくい状態を作ることです。競技別の身体要件、試合成績への影響、指導者の関与、スポンサー契約で期待されるパフォーマンス水準など、支出の背景を実務的に言語化できるほど、必要経費としての説得力は高まります。必要経費の判断は抽象論ではなく、具体的事実の積み重ねで決まる傾向があります。

パーソナルトレーニング代については、ジム会費以上に内容の差が出やすい点も見逃せません。たとえば、競技復帰に向けた機能改善、試合に向けた爆発力強化、フォーム矯正、体重階級調整、競技別の身体操作の習得など、競技実務と強く結び付いた指導であれば、必要経費性を説明しやすい余地があります。これに対し、一般的なボディメイク、見た目の改善、生活習慣の改善、健康維持を主目的とする指導は、たとえアスリート本人が受けていても私的支出と評価されやすくなります。名称が「パーソナル」かどうかより、契約の内容、指導の目的、実施記録の中身こそが税務上は重要です。

また、スポーツ選手は収入源が複数に分かれやすいため、費用配分にも注意が必要です。たとえば、チームからの給与のほか、スポンサー契約による広告出演料、イベント登壇料、SNS発信に基づく収入、個人レッスン収入などがある場合、ジム代やパーソナル代の全額をひとつの所得に対応させるのではなく、どの収入獲得活動に必要な支出なのかを整理する必要があります。競技活動そのものに関する費用と、タレント活動・インフルエンサー活動に関する費用が混在している場合は、目的ごとの区分が求められやすくなります。税務上は、費用の性質と収入の性質を対応させる視点が重要であり、ここが曖昧なまま一括で処理すると、後で説明が難しくなることがあります。

確定申告の場面では、領収書を保存しているだけでは十分でないこともあります。税務署に説明する際には、「いつ、どこで、誰に、何の目的で、どのような内容のトレーニングを受けたのか」が整理されていることが重要です。たとえば、トレーナーとの契約書、請求書、利用明細、トレーニングメニュー、競技日程表、試合前後のコンディション調整記録、所属先やコーチからの指示内容、スポンサー契約で求められる活動内容などを紐付けて保管しておくと、業務関連性を説明しやすくなります。必要経費に当たるかどうかは、最終的には支出の実態に基づくため、資料の厚みがそのまま税務リスクの差につながります。また、電子帳簿保存法の対象となる電子取引の記録については、所定の保存要件に沿って管理することを忘れてはなりません。

さらに、家事関連費との線引きも見落とせない論点です。アスリートにとって身体の維持管理は日常生活とも深く重なりますが、税務上は「生活のための支出」と「収入を得るための支出」を区別する発想が基本になります。そのため、24時間ジムの会費を日常的な運動習慣としても使っている場合や、家族と共通で利用している場合、あるいはプライベートの健康目的が大きい場合には、全額を経費とする整理は慎重に考える必要があります。反対に、競技専用メニューに基づく利用が中心で、利用時間帯や内容も明確であり、私的利用が限定的であれば、必要に応じて合理的な按分を検討する余地もあります。重要なのは、按分率そのものより、その算定根拠が客観的資料に基づいて説明可能であることです。これが示せない場合は、按分計上自体が認められない点に留意が必要です。

チーム所属選手について、もう一点意識したいのは、勤務先との費用負担関係です。所属チームが本来負担すべきトレーニング環境を選手個人が任意に上乗せしている場合、その全額が税務上当然に認められるとは限りません。給与所得者については、国税庁が示すとおり、実費が広くそのまま控除できる構造にはなっておらず、特定支出控除についても対象範囲と要件が限定的なため、基本的に適用は見込まれません。したがって、給与型のスポーツ選手は、ジム代を「必要経費」と呼ぶ前に、自身の所得区分、所属契約、チームからの補助の有無、給与の支払者による証明の可能性などを整理してから判断することが大切です。

反対に、個人事業的な側面が強いプロアスリートやフリーランス型の競技者は、「スポーツ選手 ジム代 経費」の論点において、より実態重視の整理がしやすい傾向があります。もっとも、その場合でも、すべてのトレーニング費用が無条件で認められるわけではありません。競技に不可欠な費用であること、支出額が社会通念上不相当に高額でないこと、私的利用が混在していないこと、継続的な記帳と証憑保存がされていることなど、必要経費算入のための基本的な実務処理は不可欠です。確定申告実務では、単に経費に落とすかどうかを考えるのではなく、「第三者に説明しても筋が通るか」という視点で整理すると、申告の質が大きく向上します。これはスポーツ選手のように身体が商売道具となる職業であっても同様です。

最後に、スポーツ選手のジム代・パーソナル代については、税務上の可否を白黒で単純化しないことが重要です。必要経費の判断基準は、収入を得るために直接要した費用か、または業務上の費用かという原則にあり、給与中心の選手については、自己負担したトレーニング費用を自由に差し引けるわけではなく、特定支出控除の枠組みも限定的です。1,2そのため、申告前に「自分の所得区分は何か」「この支出はどの収入に対応するのか」「私的利用をどう区分するか」を確認しておくことが、不要な税務リスクを避けるうえで有効です。スポーツ選手のジム代・パーソナル代の問題は、アスリート特有の事情を踏まえつつも、最終的には税務の基本原則に忠実に判断することが、実務上重要といえるでしょう。


参考文献

[1] 国税庁「No.2210 必要経費の知識」
[2] 国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」

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