従業員給与の法定控除項目及び納付期限及び業務委託に係る源泉徴収の留意点
2023年10月17日
はじめに
給与明細の詳細について理解している方は意外と少ないかもしれません。従業員に対して給与を支払っている場合、そして業務委託で外注費として対価を支払っている場合などは、源泉徴収をしっかり理解する必要があります。今回は従業員給与と業務委託に係る源泉徴収について確認します。
従業員給与
(1)従業員給与とは?
まず、従業員給与について解説します。詳しい計算は社労士事務所などに委託し、社労士より受領した数字をなんとなく仕訳入力しているというケースも多いのです。しかし本来は、入退社や扶養家族の変更といった社員の状況を把握しにくい社外の人より、社内のメンバーのほうが人件費計算のミスに気づけます。そのため、社内の管理部門メンバーによる基本の理解がとても重要です。
給与明細はおおむね以下の形式です。
多数の項目がある給与明細の中でも注意が必要な給与情報は控除に関する項目です。様々な控除の項目が要因の一つとなり、給与計算を複雑にしています。ここからはその項目を確認します。
(2)法定控除項目
法定控除項目には「社会保険料」と「個人の所得にかかる税金」があります。
【社会保険料】
法定控除項目となる「社会保険料」には以下の4つがあります。
・健康保険料
まずは健康保険料です。全国健康保険協会や各健康保険組合が運営している健康保険に対して、会社と折半して支払われます。この支払いにより、健康保険証を提示した医療機関において、3割負担で医療サービスを受けることができます。健康保険組合の種類は多様で、企業ごとに独立している組合や、業種ごとにいくつかの企業が集まって作られている組合も存在します。
・介護保険料
介護保険は、介護の必要な方に対する介護サービスの費用を、社会全体で賄う制度です。
一般的には、健康保険の加入者(介護保険第2被保険者)が支払う保険料として、満40歳から満64歳まで介護保険料が徴収されます。
・厚生年金保険料
厚生年金は、国民年金に対して上乗せで将来給付される年金として積み立てるものです。厚生年金適用事業所に勤務するすべての従業員は厚生年金に加入し、その保険料が徴収されます。国籍、性別、賃金の額に関係はありません。原則、その従業員は会社に入社した時点から70歳まで厚生年金に加入でき、その中で70歳以上の人は健康保険のみの加入になります。給付の開始は65歳からです。
・雇用保険料
雇用保険とは、労働者が失業して所得がなくなった場合に生活の安定や再就職促進を図るために、失業給付などを支給する保険です。加入者からは雇用保険料が徴収されます。
上記の「社会保険料」の他に控除される代表的なものは以下の「個人の所得にかかる税金」です。
【個人の所得にかかる税金】
「個人の所得にかかる税金」には所得税と住民税があります。
・所得税
所得(会社員の場合、給与)に対して課税されます。基本給および手当が課税対象とされており、住宅手当や地域手当なども合計した金額に対して税率を掛けた金額が控除されます。
・住民税
都道府県民税と市町村民税を合わせたものが住民税です。通常は会社が預かり、本人に代わって納税します。(特別徴収)ただし、事情がある場合には給与から控除せず、従業員本人が各々都道府県に直接納税します。
(3)給与の仕訳例
ここで、給与の仕訳の具体例を示します。例では社会保険料の当月徴収翌月払いを想定しています。また、数値は簡略化しており、実際の算定額とは異なるものです。項目が多く一見複雑ですが、給与確定時に未払給与とともに各控除項目である未払費用が計上され、支払時点で未払費用が消し込まれています。
(4)納付期限
各種控除にかかる預り金などの納付期限は以下の通りです。
・源泉所得税
原則は支払月の翌月10日払いとなります。一定の要件を満たしていれば特例徴収(年2回払い)にすることも可能です。
・社会保険料(雇用保険料を除く)
翌月末です。
・労働保険料
毎年6月1日から7月10日に支払確定した前年度(4月1日から3月31日分)の給与をもとに、一括して申告と納付を行います。一定の要件を満たせば、7月10日、10月31日、1月31日の3回に分割して支払いを行うことが可能です。いずれにせよ、労働保険料は、毎月で概算額が計上され、3月で確定額が算定されます。そして、確定額の算定時点で概算計上額と確定額の差額を法定福利費に計上します。
業務委託(外注費)にかかる源泉徴収
給与所得以外に、税理士への対価・原稿料・広告のデザイン料などの報酬にかかる支払については、源泉徴収が必要となるため留意が必要です。また基本的に、源泉徴収が必要なのは、報酬などの支払を受ける者が個人の場合です。
- 原稿料や講演料など
- 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
- 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
- ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
- プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
(国税庁HPより)
源泉徴収額は国税庁のHPで最新版を確認できます。
おわりに
今回は給与(人件費)計算のうち、従業員給与と業務委託に係る源泉徴収について説明しました。冒頭で述べましたが、給与計算は複雑であり、社労士事務所等の専門家に頼るのが合理的です。しかし、基本的なことは理解して、社労士事務所の計算結果を大まかにチェックできる体制を構築することが理想です。
※労働保険
労働保険とは雇用保険と労災保険を合わせた呼称になります。労災保険は、パート・アルバイトを含め労働者を1人でも雇った場合加入します。一方雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込があれば必ず加入します。
雇用保険は雇用者と被雇用者で負担しますが(負担割合は年度によって異なる)、労災保険は、全額が雇用者負担となるため、給与計上時の従業員からの預り金に含まれません。
そのため、労災保険は法定控除項目ではありません。ちなみに、雇用保険と労災保険以外の社会保険料は現状、雇用者と被雇用者の負担は50%ずつのため、給与明細から控除されている額の倍額がこれら社会保険料として納められています。
※注意点
・控除のタイミング
会社の視点で注意が必要なところには、控除のタイミングがあります。社会保険料を給与から差し引くタイミングは、当月徴収と翌月徴収の2つがあり、これを誤ると金額に差異が生じてしまいます。そのため、特に人事労務部門での人員の移動など、担当者が変更になった際には、勘違いなどが無いよう注意が必要です。
・その他
また、社会保険料は給与の金額によって確定します。特別な事情がなければ、4~6月の平均給与を月額報酬額として計算の基準とします。その年の月額報酬額から毎月の控除額が決定され、9月支給の給与から控除額に反映されます。