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山口 壮太 Sota Yamaguchi

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山口 壮太 Sota Yamaguchi

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内部監査の基本と重要性

2023年10月19日

内部監査の定義と目的

「内部監査」とは、その名の通り、社内の担当部署による自社の監査です。代表取締役の直下に設置される「内部監査室」が、社内の監査を行います。上場会社、大会社では義務付けられている他、上場を目指すIPO準備会社においてもIPOプロジェクトの中で必要になってきます。

内部監査の目的は、「自社の企業価値の向上」です。

監査という言葉から、自社のダメ出しやチェックばかりを行うようなイメージを持たれがちかと思います。実際に、内部監査においては、自社の業務が諸法令に触れる可能性の有無や、業界・社会情勢に照らしたリスクの検証なども行いますが、同時に業務効率や有効性のチェックも行います。

第三者視点から自社をチェックするというのは、外部が行う監査も内部監査も共通していますが、内部監査は、リスクや非効率業務の洗い出しや管理などを行う「自社の企業価値を維持・向上の一環」と言い換えることが出来ます。

監査の役割

企業価値の維持・向上という目的に対し、内部監査室の担う役割は、第三者視点から自社をチェックすることです。

前述の通り、業務に法令違反やその原因となるものが無いか、業界的なリスクを把握できているか、時代や組織体制の変化に伴う業務の非効率化が起きていないか、といったことを確認するために、様々な論点で社内をチェックします。

ごく一部ですが、チェック項目の代表的なものを紹介します。

  • 必要なルールが存在するか
  • 必要な業務フローが整備されているか
  • 業務上のリスクを把握する体制は整っているか
  • 自己承認等、形骸化した業務フローが無いか
  • 業務体制にそぐわない業務が残っていないか

企業は規模の拡大や体制変更の様な大きなものは勿論、日々の業務の中でも絶えず変化しています。時として、現場の判断でチェックを省略したり、効率の為にフローがなあなあにされたり、ということが、やむを得ず生じることもあるでしょう。

しかし、そうした現場のだれを放置してしまうと、法令違反に繋がったり、組織内のコンプライアンス意識の低下を生じさせたりと、様々なトラブルやアクシデントの原因となります。こうした気の緩みも含め、社内の体制を定期的にチェックすることで、トラブルやリスクの抑制だけではなく、適切な社内の実態の把握も行うことが出来ます。

また、内部監査の役割を考える上では、組織内で生じるパワーを考慮することも必要です。経営層や特定の部署が大きな発言力を持ったことや、組織内の同調圧力など、様々な要因から、組織構成員が組織に対する指摘をするのが難しくなるケースは珍しくありません。特に組織の規模が大きくなればなるほど、様々なパワーや利害関係が組織内で発生し、複雑に絡みあうようになります。

こうしたパワーや利害関係で結ばれた会社内が組織だけになると、非効率な業務やルール違反などが放置されることも考えられます。

このように、組織のパワーや利害関係の中に置かれた立場では難しい自社に対するチェックを行うのが、内部監査のミッションです。こういった役割を果たすため、どの組織とも利害関係を結ばぬよう、内部監査室は代表取締役の直下に設置されることが一般的です。

内部監査のメリット

内部監査のメリットとしては、大きく下記の二つが挙げられます。

  • 企業のリスクヘッジ
  • 社内の業務効率化

まず多くの方がイメージしやすいメリットとして、社内を定期的にチェックすることによる、リスク低下が挙げられます。

フローをチェックすることによる直接的なアクシデントの防止効果もありますが、定期的な監査によって現場の意識を引き締め、組織内のコンプライアンス意識を高める意味でも、様々なリスク低下に寄与します。

また、社内の業務を総ざらいするため、業務ツールの導入や規模の拡大などによって生じやすい、業務の重複や不整合といった、非効率業務を発見することが出来ます。

こうした非効率な部分を一覧化し、各部署に対して指摘をすることで改善したり、経営層に伝えることで外部のコンサルタントの支援につなげることで改善の契機となったりと、直接的に改善を行うわけではありませんが、組織を効率化する役割を担います。

昨今はビジネス環境や社会情勢が目まぐるしく変化しているため、定期的に社内の業務を見直し、時代に取り残されることを防止する効果も期待できます。

内部監査の留意点

ここまで内部監査の役割やメリットを見てきましたが、内部監査がメリットを産めなくなる原因を確認します。

まず、経営者が内部監査を軽視することです。内部監査はその性質上、自社の様々な業務についてヒアリング・指摘・改善指示を行いますが、これら内部監査への対応を社業の減速要因として捉えられるケースが一定数存在します。内部監査の進行に必要となる指摘等への対応は、タスクを増加させる側面は確かに否めません。しかしそのタスク増を嫌った結果、内部監査が形骸化すると、いつの間にか自社に法令違反のリスクを抱え込んでいる、といったことになりかねません。

また、前述の通り社内には様々なパワーが存在しますが、内部監査室には一定以上のパワーが必要になります。というのも、内部監査室は時として経営層が絡む業務フローについても指摘を行う必要があります。この時、内部監査室のパワーが弱かったり軽視されたりすると、指摘がされるだけで無視され、やはり内部監査が形骸化することに繋がります。

更に、内部監査の必要性の周知が不足することによって、内部監査を厄介者扱いする雰囲気が組織に定着してしまうと、内部監査室とそれ以外の部署とで衝突が起きることにも繋がります。

その為、内部監査室を創設するようなフェーズから、経営者が正しく内部監査の重要性を認識し、内部監査の遂行に必要となる適切なパワーを与え、自社従業員に対して内部監査の必要性を周知する、といったソフト面のフォローが極めて有効になります。

まとめ

今回は内部監査の基本とメリット、更には留意点について確認しました。

内部監査が形骸化しないためには、あらゆる部署で内部監査に対する一定の対応が必要となり、ただの負担増になる印象を持たれるかもしれません。しかしながら、自浄作用を正しく機能させ、健全な経営を行っていくことは、先々の発展や取引先との信頼関係の構築にも繋がりますし、何より定期的なチェックによって、社業の発展に寄与します。

自社の企業価値の継続的な発展のためにも、是非内部監査の積極的な活用をご検討ください。

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