日本の法律専門職制度とは?海外の弁護士制度との違い
2025年3月26日
世界のビジネス環境がますますボーダレスになる中で、外国企業や投資家が日本に進出する機会も増えています。その際にしばしば直面するのが、日本独自の「法律専門職制度」に対する戸惑いです。
欧米では“Lawyer”があらゆる法的業務を担うのが一般的ですが、日本では「弁護士」「司法書士」「行政書士」など、役割ごとに資格制度が分かれており、それぞれが異なる領域を担っています。
本コラムでは、日本の法律専門職制度の仕組みを整理しながら、アメリカ・イギリス・中国の制度と比較し、その違いや背景について解説します。企業活動に携わる読者の皆様にとって、日本法務の理解が深まる一助となれば幸いです。
日本:法律専門職の「分業制」
弁護士(Bengoshi)
- 裁判・契約・交渉・企業法務などを担当
- 日本の“Lawyer”に該当
- 刑事事件・民事紛争からM&Aや内部通報対応まで対応範囲は広い
司法書士(Shihō Shoshi)
- 不動産登記・商業登記のスペシャリスト
- 裁判所への提出書類作成、一部簡易裁判所の代理権あり
- 会社設立時や不動産取引で多く活躍
行政書士(Gyōsei Shoshi)
- 官公署への書類提出代理、許認可・在留資格申請などに対応
- 企業の立ち上げ支援や外国人雇用において重要な役割を果たす
このように、日本では各専門家がそれぞれの業務領域に特化しており、「必要な時に、必要な専門家に依頼する」ことが前提となっています。
アメリカ:幅広くカバーする“Attorney at Law”
アメリカでは、法的業務は基本的にすべてAttorney(弁護士)が担当します。業務内容は多岐に渡り、民事・刑事・企業法務・登記・移民手続き・行政訴訟など、日本の弁護士・司法書士・行政書士の業務をすべて包含しています。
アメリカの特徴:
- 各州ごとに弁護士資格が必要(州試験制Bar-Admitted Attorney)
- 小規模事務所で“General Practitioner”という幅広い分野を担当する弁護士がいる一方、特定の専門分野に特化される弁護士は多い
また、アメリカの公証人制度(Notary Public)は、各州の法律の枠組みの中で運営されています。公証人の主な職務は、署名の認証、本人確認、文書の合法性の保証です。公証人は法律代理や法的助言を提供しませんが、法律文書や手続きの実行において欠かせない役割を果たしています。公証人になるためには、通常、研修と試験を受け、州政府の承認を得る必要があります。
イギリス:SolicitorとBarristerの「二層制」弁護士と法的専門職
イギリスはアメリカと異なり、法曹資格が二分化されています。
資格 | 概要 |
---|---|
Solicitor(事務弁護士) | 契約書作成・企業顧問・相談対応など、一般法務を担当 |
Barrister | 裁判における弁論、判例研究、法廷対応のスペシャリスト |
通常は、企業や個人はまずSolicitorに相談し、訴訟が必要な場合にBarristerを起用する形になります。近年では垣根が薄まりつつあるものの、伝統的な制度として根付いています。Solicitor-Advocate: Solicitorは現在、Solicitor-Advocateという資格を持つことができ、これにより一部のSolicitorは直接法廷に出廷し、訴訟を行うことができます。これにより、従来Barristerが担っていた役割を一部のSolicitorが担うことが可能となりました。また、登記や許認可申請に関しては、Solicitorや専門事務所が対応します。
それ以外、「法務執行官(Chartered Legal Executive)」は、イギリスの法律業界における専門職で、弁護士(Solicitor)と同様の業務を一部担いながら、弁護士資格を持たない法律専門家です。企業設立や商業契約、移民手続きなど、日常的な法的事務を担当します。ある程度、日本のような「司法書士」の制度と類似します。更に、イギリスの公証人(Notary Public)は、法的資格を有する専門職で、文書認証や署名証人などを行います。公証人は法的代理業務や訴訟には関与しませんが、法的訓練と試験を受けて資格を得ており、法的な文書の認証や署名の有効性の確認など、法的手続きにおいて重要な役割を果たします。
中国:弁護士中心+公証制度が特徴
中国では、弁護士(律师 / lǜshī)が法務業務を総合的に担います。民事・商事・刑事すべてをカバーしており、企業法務においても契約書レビュー、訴訟代理、知財支援、労務問題などを担当します。
また中国には、日本やアメリカに見られない「公証人(公证员)制度」が強く機能しています。契約書・宣誓供述・登記書類などの公証(Notarization)が重視され、対外的な証拠力を持たせるために公証手続きを行うことが一般的です。
中国の特徴:
- 弁護士以外に独立した「司法書士」や「行政書士」のような資格は存在しない
- 公的文書の信頼性を重視し、「法務=弁護士+公証」の二本柱
比較表:各国制度の違い
業務/国 | 日本 | アメリカ | イギリス | 中国 |
---|---|---|---|---|
裁判・紛争解決 | 弁護士 | Attorney | Barrister | 弁護士 |
企業法務全般 | 弁護士 | Attorney | Solicitor | 弁護士 |
商業登記 | 司法書士 | Attorney | Solicitorなど | 弁護士 |
許認可申請 | 行政書士 | Attorney | Solicitorなど | 弁護士 |
在留資格申請 | 行政書士 | Immigration Attorney | Solicitor | 弁護士 |
公証 | なし (公証役場あり) | Notary Public | Notary Public | 公証人 (公证员) |
まとめ:日本の「分業制」は企業支援の強みになり得る
こうして比較してみると、日本の法律専門職制度は世界的に見て特異な構造であることがわかります。しかし、分業により高い専門性が確保されるというメリットもあります。
特に企業にとっては、業務ごとに最適なプロフェッショナルを活用することで、効率的かつ的確な対応が可能となります。日本におけるビジネス展開を検討されている海外企業の皆さまには、ぜひ日本独自の制度を正しく理解し、有効に活用していただきたいと考えています。