建設仮勘定の制度的意義と会計・税務実務上の対応
2025年6月3日
はじめに
「建設仮勘定」は自社で使用する未完成の有形固定資産に関する勘定科目であり、建設業を営む企業の経理担当者であっても日常的に扱う機会が少なく、馴染みが薄いと感じられる場合もあるでしょう。一方で、建設業者からサービスを受ける発注側の企業でも、この科目が帳簿上に登場するケースはけっして多くないことから、固定資産関連の処理の中でも特にミスが起こりやすい項目の一つといえます。
そこで本記事では、「建設仮勘定」について、会計処理および税務対応の両面から、建設業に関係の深い方々にも理解しやすい形で解説していきます。
建設仮勘定の概要とその分類
建設仮勘定とは、自社での使用を目的とする建設中の建物のほかに建物付属設備や構築物、製造中の機械装置など、自社で使用する未完成の有形固定資産に関する材料費や建設のための支出を一時的に記録するための勘定科目です。たとえば、自社使用の建物などの有形固定資産を取得・建設する際には、完成前に多額の資金が必要となり、そのプロセスには相応の期間を要します。このような場合、もし支出を「前払金」といった科目で処理してしまうと、企業の資金がどのような目的で使われているのか、外部の利害関係者にとっては把握しづらくなってしまいます。一方で、「建設仮勘定」として記録することで、これらの支出が固定資産の取得に向けた投資であることを明確に示すことができます。つまり、財務諸表を通じて、支出の性質や行き先を正確かつタイムリーに示すことができ、会計上の透明性が確保されるのです。
建設仮勘定が用いられる代表的な場面は、次の2つに分けられます。
① 固定資産の完成前に支払を行ったとき
(借方)建設仮勘定 ×××/(貸方)現金預金 ×××
② 固定資産が完成したとき
(借方)固定資産(建物など) ×××/(貸方)建設仮勘定 ×××
建設仮勘定の対象となるのは、自社で使用することを目的とするまだ完成していない固定資産であり、その範囲は建物や付属設備、構築物、機械装置のほか、船舶・水上運搬具、車両などの陸上運搬具、工具、器具・備品、さらには土地など、多岐にわたる有形固定資産に関係する支出が該当します。
そのため、販売を目的とした資産については建設仮勘定の対象には含まれません。顧客からの注文に基づいて建設し、完成後に引き渡す建物などに関して代金を受け取る場合には、これらの支出は棚卸資産(未成工事支出金)として処理されることになります。
なお、建設仮勘定はあくまで有形固定資産を対象とする勘定科目であるため、自社で使用するソフトウェア(無形固定資産)の開発や取得にかかる支出については、「ソフトウェア仮勘定」として無形固定資産に計上されます。
これらの仕訳は仮勘定としての処理であるため、対象となる固定資産が完成した段階で、適切な固定資産の本勘定へと振り替えを行う必要があります。
建設仮勘定を処理する際の会計上の留意点
建設仮勘定を扱う際に、会計処理上で押さえておくべき主な留意点は、以下のとおりです。
Ⅰ.減価償却の対象外である
固定資産の減価償却は、実際に事業で使用を開始した日から計上されます。そのため、建設仮勘定に計上されている段階では、まだ償却の対象とはならず、損益計算書にも反映されません。
Ⅱ.減損損失の対象になる可能性がある
たとえ資産が完成していない段階であっても、収益性の低下により、投下資本の回収が困難と判断される場合には、建設仮勘定に計上されている資産であっても減損の対象となります。そのため、通常の固定資産と同様に減損の要否を判定し、回収可能価額が帳簿価額を下回っている場合には、その差額について減損損失を認識する必要があります。
Ⅲ.資産除去債務の計上対象になり得る
資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発、または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約により要求される法律上の義務、もしくはそれに準ずるものです。資産が完成する前の建設仮勘定も資産除去債務の対象に含まれます。資産除去債務が発生した場合、将来の除去費用を合理的に見積もり、現在価値に割り引いたうえで負債計上します。
Ⅳ.固定資産税の申告に関する注意点
毎年1月1日時点で未完成の固定資産については、原則として固定資産税の課税対象にはなりません。ただし、すでに完成しているにもかかわらず、適切な振替処理を行わずに建設仮勘定のままにしている場合には、課税対象とみなされる可能性があるため、十分な注意が求められます。
Ⅴ.消費税における仕入税額控除の適用時期
建設仮勘定に計上された取引であっても、他の課税仕入れと同様に、原則としてその取引が行われた日の属する課税期間において仕入税額控除の対象となります。ただし例外として、以下の方法も認められています。
「建設仮勘定として経理した課税仕入れについて、物の引渡しや役務の提供または一部が完成したことにより引渡しを受けた部分をその都度課税仕入れとしないで、工事の目的物のすべての引渡しを受けた日の属する課税期間における課税仕入れとして処理する方法」
引用元:国税庁「No.6483建設仮勘定の仕入税額控除の時期」
どちらの処理方法を採用しても差し支えはありませんが、実務上の煩雑さを避けるため、自社の運用に適した方式をあらかじめ決めておくとよいでしょう。
おわりに
建設仮勘定は実際に支出が発生しているにもかかわらず、費用としては認識されない性質を持つため、意図的に操作されやすいリスクがある科目ともいえます。そのため、決算時などには、費用として計上すべき支出が誤って建設仮勘定に含まれていないか、あるいは資産として計上すべき内容が費用処理されていないか、さらに固定資産勘定への振替処理が漏れていないかなどを定期的に点検することが求められます。特に、長期間にわたって建設仮勘定に残っている項目については、内容の精査が必要です。そのためには、プロジェクト単位で管理可能な台帳を整備するなど、内部管理体制の強化が重要となります。