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IFRS S1・S2の全体像:概要、適用ロードマップ、組織対応の要点

IFRS S1・S2の全体像:概要、適用ロードマップ、組織対応の要点

ESG・サステナビリティ
2026年1月19日

ISSBは2023年6月、初の国際サステナビリティ開示基準(IFRS Sustainability Disclosure Standards)であるIFRS S1およびIFRS S2を公表し、年次報告期間の期首が2024年1月1日以後の事業年度から適用可能としました。これらの基準は、従来の国際会計基準(IFRS)が担ってきた役割をサステナビリティ情報領域へ拡張する取り組みであり、以下の背景があります。

1990年代以降、国際資本市場の拡大に伴い、企業を公平に比較できる共通指標の必要性が高まりました。各国基準が異なる状況では、連結財務諸表の作成や上場・M&Aの手続きが複雑化し、取引コストおよび情報の非対称性が増大します。透明性と一貫性を確保するため、EUを中心に制度統合が進み、国際的に整合した基準が求められるようになりました。

さらに、無形資産の重要性増大や会計不祥事を受け、経済実態を的確に反映する原則主義の国際統一基準の整備が急務となりました。財務報告の領域でIFRSが整備され、その流れを受けてサステナビリティ開示でも国際基準の確立が求められ、IFRS S1・S2が策定されました。

本稿では、IFRS S1・S2の位置づけと目的、両基準の要点、適用ロードマップ、そして組織に求められる対応について概説します。

IFRSのサステナビリティ開示基準は、IFRS S1とIFRS S2の二つで構成されています。

IFRS S1は全社的な総則、IFRS S2は気候関連の開示に特化した基準であり、TCFDの提言を中核に据えることで、財務報告との接続性と比較可能性を高めます。なお、義務化の可否や時期は各国・地域の規制当局の判断に委ねられます。

S1は、短期・中期・長期にわたる重要なサステナビリティ関連リスク・機会が、企業の資源や関係性への依存・影響を通じて企業価値に及ぼす影響を投資家が評価できるように情報を体系化します。報告範囲(適用スコープ)の明確化、重要性(マテリアリティ)に基づく開示、財務報告との接続性、統制されたデータに基づく継続的な報告プロセス(データガバナンスと内部統制)の確立を柱とします。

これにより、透明性の向上と投資家の意思決定支援を実務的に実現します。さらに、業種別の開示項目・指標についてはSASB基準を参照し、その適用可能性を検討することが求められ、基準間の調和性と比較可能性の向上、国際的な共通基盤の構築に資します。

S2は気候関連のガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4領域での開示を求めます。開示の中心は、物理的リスクと移行リスク、機会の特定、移行計画、レジリエンス評価(シナリオ分析を含む)、温室効果ガス(GHG)排出量(Scope1–3)および削減目標・進捗です。

S1と併用することで、TCFDと整合した枠組みの下、比較可能性を確保しつつ、気候が財務に与える影響(資本コストや資本配分への含意)を明確化し、投資家等(投資者・債権者等)の評価と意思決定を直接支援します。

以上の概要を踏まえ、IFRS S1・S2の策定目的は次の4つに整理されます。

  • サステナビリティ報告の透明性向上
  • フレームワーク間の不整合の是正と比較可能性の確保
  • 包括的な国際基準の確立
  • 投資家(投資者・債権者等)による評価と意思決定の支援

これまでIFRSの概要と目的を概観しました。こうした背景を踏まえ、企業としてどの時点で何に備えるべきかを把握するために、第3節のように基準更新のタイムラインを整理しておくことが重要です。

まず、2023年6月26日にIFRS S1とIFRS S2が公表されました。併せて、業種別の開示項目・指標についてはSASB基準を参照し、その適用可能性を検討することが求められ、国際的な比較可能性を高める枠組みが示されました。

適用開始(有効日)は、企業が当該基準に基づいて報告を開始できる期の起点を指します。IFRS S1・S2は、年次報告期間の期首が2024年1月1日以後の事業年度から適用可能で、早期適用も認められています。義務化の有無や開始時期は、各国・地域の規制当局が自国制度への組込みを通じて決定します。

移行は段階的に進めることを当社の推奨方針としています。初年度は、S1の対象を気候関連に限定し、まずはS2と整合したガバナンス、リスク管理、指標・目標の開示基盤を整えることを重視します。気候はサステナビリティ全体の一部であるため、「まず気候から着実に土台を固める」アプローチを推奨しています。

2年目以降は適用範囲を広げる段階です。当社としては、S1を気候を含むすべての社会的・環境的課題へ拡張しつつ、S2では気候リスクの詳細開示を一層深めていくステップを推奨します。スコープ3排出量はこの段階では必須とはなりませんが、データ収集やサプライヤー連携の仕組みづくりを前倒しで進めておくことで、その後の円滑な移行が期待できます。

3年目には、S1およびS2の全体範囲をカバーする状態への到達を目標とします。財務報告との統合、内部統制と保証スキームの設計、KPIの継続的な改善までを含む運用サイクルを構築することが、当社としての最終的な推奨到達点です。

要するに、公表時点から3年目の姿を見据え、バックキャスティングでロードマップを描くことが実務上の要諦であり、これを当社としての基本的な移行方針として推奨します。データ整備、統制・保証、サプライヤーとの協働を早期から計画的に進めることで、比較可能性と投資家への説明力を一段と高めることができます。

IFRS S1・S2は、サステナビリティ情報を財務情報と同等の統制環境で扱うことを前提としており、開示実務と経営管理の再構築を迫ります。制度統合が世界的に進む中、準備状況は「対応の有無」ではなく「対応の深度」が問われます。

実務上、以下の観点で現在地を把握し、移行計画を具体化することが求められます。

  1. 報告要件への準備状況のアセスメント
  2. 必要な人材・プロセス・システムの整備状況
  3. 必要なデータの所在把握とギャップ分析
  4. GHG排出量(Scope1〜3)の測定状況
  5. サステナビリティ・気候関連リスク/機会の特定と評価
  6. 5年・10年・15年といった複数時間軸でのシナリオ分析の実施
  7. 経営層・取締役会・監査/リスク委員会への情報共有プロセスの設計

S1・S2は、ESGを「開示中心」から「経営判断を支える仕組み」へ発展させる基準です。ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標を財務報告と接続することで、情報は示すだけのものから「意思決定を支える資産」へと変わります。

これにより、事業ポートフォリオの見直し、投資判断、リスクテイクの設計など、企業の経営判断そのものを裏づける情報基盤を構築できます。さらに、財務・非財務データを統合し一貫した説明が可能となることで、投資家との対話の質が向上し、結果として資本コスト低減や長期的な株主基盤の形成にも寄与します。

S1・S2への対応を単なる規制対応ではなく、経営インフラ高度化の機会として捉えられるかどうかが、今後の企業価値向上を左右するポイントといえます。

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