企業の防犯・安全対策というと、防犯カメラの設置や入退室管理といった「設備」の話が中心になりがちです。しかし、警察に32年間勤務し、数多くの事件やトラブルに向き合ってきた立場から見ると、本当に問われるのは「誰が、どのように安全を守っているのか」という点です。
事務所、店舗、工場――。
多くの企業は複数の拠点を抱えていますが、それぞれの安全対策がどのように決められ、運用されているかを、経営として正確に把握できているケースは決して多くありません。
本コラムでは、防犯・安全対策を「現場任せ」にすることのリスクと、企業として考えるべき視点について整理してみたいと思います。
1.防犯・安全対策が「現場任せ」になっていないか
事務所や店舗、工場の安全対策について話を伺うと、次のような声をよく耳にします。
- 「現場の責任者に任せている」
- 「長年のやり方を踏襲している」
- 「特に大きな問題が起きていないので見直していない」
これらはいずれも、決して珍しい考え方ではありません。現場をよく知る担当者に任せること自体は、合理的に見えることもあります。しかしその一方で、防犯・安全対策が特定の個人の経験や勘に依存してしまう状態は、企業として大きなリスクを抱えているとも言えます。
2.「問題が起きていない」は、安全であることを意味しない
防犯・安全対策においてよくある誤解の一つが、「これまで問題が起きていない=安全である」という認識です。警察の現場では、「まさか自分のところで起きるとは思わなかった」という言葉を、何度も耳にしてきました。
事件や事故は、突然発生するように見えて、実際にはその前段階として、
- 小さなルール逸脱
- 見過ごされてきた違和感
- 誰も責任を持っていなかった領域
が積み重なっているケースが少なくありません。「何も起きていない」状態は、必ずしも「安全が確保されている」状態とは限らないのです。
3.事務所・店舗・工場で異なる安全リスク
拠点ごとに、安全リスクの性質は大きく異なります。
事務所では、
- 不審者の侵入
- 情報漏えいにつながる行動
- 内部不正
といったリスクが考えられます。
店舗では、
- 来訪者とのトラブル
- 万引きや強盗
- クレーム対応のエスカレーション
が現場の負担になりやすい領域です。
工場では、
- 外部からの侵入
- 内部関係者による不正
- 事故発生時の初動対応
など、人的・物理的なリスクが複雑に絡み合います。
こうした異なるリスクを、すべて現場の判断に委ねてしまうと、拠点ごとに対応水準がばらつき、企業としての統一的な安全管理が難しくなります。
4.防犯・安全対策は「運用」と「体制」が重要
防犯カメラやセキュリティシステムは、あくまで「道具」に過ぎません。それをどのように使い、異常があった場合に誰が判断し、どう動くのか。この運用と体制が定まっていなければ、対策は形骸化してしまいます。
例えば、
・異常を誰が検知し、誰に報告するのか
・現場と本社の役割分担はどうなっているのか
・定期的に見直す仕組みがあるのか
こうした点が整理されていない場合、防犯・安全対策は「あるだけ」で機能しなくなります。
これは現場の努力不足ではなく、企業としての設計の問題です。
5.第三者の視点を入れるという選択
防犯・安全対策を見直す際に有効なのが、第三者の視点を取り入れることです。現場に長くいると、「当たり前」になっていることほど、リスクとして認識しづらくなります。警察OBとしての経験を活かした防犯・安全アドバイザリーは、
- 現場の実態を踏まえたリスクの整理
- 過度に不安を煽らない現実的な改善提案
- 組織として運用可能な体制づくり
といった点で、企業を支援することができます。
防犯・安全対策を「現場任せ」にするのではなく、企業としてどう守るのかを考えることは、結果として経営の安定性や信頼性を高めることにつながります。
おわりに
事務所・店舗・工場の安全は、特定の誰かが孤立して背負うものではありません。企業としての姿勢と仕組みがあってこそ、初めて持続的に守られるものです。警察OBとして、そして防犯・安全対策に携わる立場として、「現場任せ」にしないという選択が、多くの企業にとって現実的な一歩になることを願っています。
