ESGというと「E(環境)」や「S(社会)」が先に話題になりがちですが、実は“土台”になるのが「G(ガバナンス)」です。ルールや体制が弱いままだと、どれだけ良い施策を打っても「続かない/回らない/説明できない」状態に陥りやすくなります。特にミドルマーケット(中堅・中小企業)では、成長スピードに対して人材・時間・予算が追いつかず、ガバナンスが後回しになりやすいのが実情です。一方で近年は、取引先(大企業)や金融機関、海外顧客からの要請が強まり、サプライチェーン全体で“証跡”や“説明責任”が問われる局面が増えています。たとえばEcoVadisのような第三者評価(サステナビリティ評価)を取引先から求められるケースも広がっています。
本稿では、ミドルマーケットで頻出する「Gの主要課題」を整理し、自社として何から手を付ければ良いかを具体的にまとめます。
1. まず押さえたい:G(ガバナンス)は「透明性」と「再現性(属人化の排除)」
ガバナンスは、立派な規程を作ること自体が目的ではありません。ポイントはシンプルで、
- 意思決定が透明(なぜその判断をしたか説明できる)
- 運用が再現可能(担当者が変わっても回る)
- リスクが早期に見える(問題が起きる前に気づける)
この3点が揃うほど、コンプライアンス・情報管理・ハラスメント対応・事業承継など、幅広い論点が“まとめて強く”なります。ガバナンスの国際的な原則でも、透明性や情報開示、リスク管理といった要素が重要な構成要素として整理されています。
2. ミドルマーケットで起きやすい「G」の主要課題(8つ)
Gの論点は広いですが、実務上つまずきやすいポイントは概ね次の8つに集約できます。
(1) 経営陣の理解不足・推進体制の未整備
- ESGの目的や必要性が“体系”として腹落ちしていない
- コミットメントが弱く、現場への浸透が止まる
- 専任者/委員会がなく、テーマが宙に浮く
(2) リソース不足(人材・時間・予算)
- 人事・労務・法務・コンプラに強い人材が限られる
- 推進責任者が兼務で、意思決定・実行が遅れる
- 外部専門家の活用に踏み切れない
(3) 規程・内部統制が“整備止まり”になりやすい
- 規程はあるが、運用が形骸化(承認・記録・牽制が弱い)
- 文書はあるが、現場が自律的に判断できる状態に至らない
(4) 取締役会の機能不全・独立性の欠如
- 同族経営等で意思決定の透明性が下がりやすい
- 社外の視点を入れにくく、モニタリングが弱い(上場企業向けのコーポレートガバナンス・コードでは独立社外取締役の活用が重視されていますが、未上場でも“外の視点”の重要性は共通です。)
(5) ステークホルダー対話・情報開示の遅れ
- 非財務情報の整理・開示の勘所が分からない
- 取引先・金融機関・海外顧客の質問に回答しきれない
(6) 仕組みが形式的で属人的になりやすい
- 「できる人」依存でプロセスや判断基準が標準化されない
- 知見が個人に集中し、事業承継リスクが増幅
- サクセッションプランが不在
(7) 法改正・ガイドラインのキャッチアップ不足
- 労働法、個人情報、腐敗防止、内部統制などの対応が後手
- “知らないうちに違反”のリスクが上がる
(8) 大企業サプライチェーン要請への対応不足
- CO2や人権、取引倫理、証跡、第三者評価などの要求が増加
- 社内に回答の根拠が散らばっており、対応が不安定になる
3. 抽象論から抜けるコツ:Gを「具体的な困りごと」に置き換える
Gは抽象的に見えますが、実際の現場では次のような形で顕在化します。
- 社内ルールはあるが、守れているか把握できない
- 情報セキュリティ/個人情報/インシデント対応の型がない
- ハラスメント相談窓口はあるが、運用フローが曖昧
- 承認フローが属人的で、監査・DD(デューデリジェンス)で指摘されそう
このように“困りごと”として言語化できると、優先順位付けと改善設計が進めやすくなります。
4. まず確認したい情報:社内資料と公開情報で見るべきポイント
「何から見直すべきか分からない」場合、まずは社内資料(規程・手順書・教育記録など)と、自社の公開情報(HP、統合報告書、サステナビリティ関連ページ等)をざっと見直すだけでも現状把握に役立ちます。
拾いやすい観点の例:
- ガバナンス体制(委員会、責任者、推進部門、方針、権限)
- リスク管理(情報管理、サイバー、個人情報、BCP等の位置づけと手順)
- 人権・労務・取引倫理(方針、通報制度、教育、監査、是正)
- サプライチェーンへの要請(調達方針、アンケート対応、証跡の管理方法)
ポイントは「書いてあるか」よりも、運用と証跡が残る設計になっているかです。
5. 自社点検に使えるチェック項目(G編)
ここでは、すぐ使える“セルフチェック”の形をご紹介します。
体制・責任
- ESG/ガバナンスの責任者(最終責任・実務責任)は明確か
- 重要事項の意思決定・報告ラインは説明できるか
規程・運用
- 規程は現場の判断に使える粒度になっているか(例外時の扱いも含む)
- 承認・牽制・記録が機能しているか(「形だけ」になっていないか)
リスク管理
- 重要リスク(情報漏えい、品質事故、不正、ハラスメント等)の初動フローは整っているか
- インシデント対応の記録が残り、振り返り・再発防止に繋がっているか
教育・証跡
- コンプラ/個人情報/ハラスメント等の教育は、実施記録が残っているか
- 取引先や金融機関からの質問に対して、根拠資料をすぐ提示できるか
属人化・承継
- 重要な判断や運用が「特定の人しか分からない」状態になっていないか
- 引き継ぎに必要な手順書・判断基準・連絡網が整っているか
まとめ
ミドルマーケットのG(ガバナンス)は、「立派な制度」を一気に整えるよりも、まず 最小単位で“回る仕組み(体制・規程・運用・証跡)”を作ることが現実的です。このGが整うほど、EやSの施策も継続しやすくなり、外部からの要請に対しても「説明できる状態」に近づきます。
「自社の状況に合わせて優先順位を付けたい」「短期間で最低限の型を作りたい」場合は、外部の専門家を活用して、論点整理・現状棚卸し・運用設計までを短く回す方法も有効です。お気軽にご相談ください。
