商業登記関係 資産管理会社として合同会社を利用するときに検討すべき点(法務面)
資産管理会社と合同会社
資産管理会社として法人を設立するときは、株式会社ではなく合同会社が用いられることが少なくありません。
合同会社が用いられる理由としては、次の点が挙げられるでしょうか。
- 設立費用や株式会社より安い
- 決算公告義務がない
- 役員の任期がない
- みなし解散がない
合同会社のメリット
資産管理会社として株式会社ではなく合同会社を用いるメリットとして大きな点は、設立費用が安い点でしょう。
実費ベースで比較すると、例えば資本金100万円の会社を設立するときに約14万円も合同会社の方が安くなります。
また、資産管理会社は役員構成が変わることが少ないため、役員の任期がなく役員の更新(再任)手続きが不要な点も、合同会社の便利な特徴と言えます。
役員の任期がなく再任手続きも不要なことから、合同会社はみなし解散の対象外となっていることも資産管理会社として優れている点の一つです。
合同会社の気を付ける点
資産管理会社として優秀な合同会社ですが、その仕組みを知っていないと自分の想いを実現できないという事態も発生してしまうかもしれません。
その注意点をここで全て網羅することはできませんが、何点か挙げてみます。
合同会社を利用する目的や登場人物によって気を付けなければならない点が異なるため、気になる方は専門家へ相談をしてみてください。
議決権、業務執行
合同会社が定款を変更するとき(会社法第637条)や新しい社員を加入させるとき(会社法第585条1項)は、総社員の同意によって行います。
合同会社の業務執行は、業務執行社員の過半数の決定によって行います(会社法第591条1項)。
ところで、合同会社は定款自治が広く認められており、定款に規定することにより会社法の定めと異なる定めを設けることが可能です。
多くの場合、資産管理会社を動かすのは1名(例えば父親)ですので、そうであれば総社員の同意による解散(会社法第641条3号)以外の意思決定については、特定の社員の意思決定だけで合同会社が運営できるように定款で定めておくのも一考です。
相続に関する規定
合同会社の社員は死亡によって退社します(会社法第607条1項3号)。
そして、死亡した社員の相続人は原則として社員とはならず、持分の払戻請求権を相続するに留まります。
社員が1名の合同会社の社員が死亡により退社すると、社員が1名もいなくなってしまい、合同会社が解散してしまいます。
これでは、もしかしたら資産管理会社を作った意味が失われてしまうかもしれません。
一方で、定款に定めることにより相続人が持分を相続し、相続人を社員とすることも可能です(会社法第608条)。
この、定款の相続規定は入れておいても損はしないと思います。
(法定退社及びその特則)
第○条 各社員は会社法第607条の規定により退社する。
2 前項の規定にかかわらず、社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人は、当該社員の持分を承継することができる。
遺言でフォロー
合同会社の社員に相続が発生した後に当該社員の相続人が合同会社の社員となるかどうかは、上記のとおり定款の規定の有無によります。
ところで、上記規定は相続人のうち誰が社員となるかまでは定めるものではありません。
相続人が複数名いるときに、実際に誰が社員となるかは遺産分割協議の結果によってしまいます。
特定の相続人(例えば長男)に合同会社の持分を相続させ社員となってもらうには遺言が必要です。
成年後見開始の審判
社員の退社の事由として「後見開始の審判を受けたこと。」があります(会社法第607条1項7号)。
社員が1名の合同会社の社員が後見開始の審判を受けると、社員が1名もいなくなってしまい、合同会社が解散してしまいます。
一方で、合同会社は社員が後見開始の審判を受けたとしても、そのことをもって退社しない旨を定めることができます(会社法第607条2項)。
社員が1名の合同会社の社員が後見開始の審判を受け、定款の定めにより退社しなかったとしても、業務執行はどうなるかという問題はあります。
社員が高齢である場合、認知症になる前に備えとして、子を社員に追加する等して対策を講じる必要があるかもしれません。
社員に誰でも入れない
合同会社の社員に、気軽に誰でも入れないようにすることをお勧めします。
社員として一度でも加入した人に出てってもらうことは非常に大変です。さらに、社員に相続が発生すると、知らない人に持分が承継されていく可能性があります。
除名という制度はありますが、除名をするには相手に帰責事由があり、かつ訴えをもって行わなければならないため簡単に行うことができません(会社法第859条)。
株式会社と異なり少数株主を追い出すスクイーズアウトや、相続人売渡請求という制度が合同会社にはありませんので、1円しか出資していない社員も追い出すことは難しいといえます。
社員として誰を加入させるかは慎重に検討をした方がいいでしょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。