商業登記関係 一般社団(財団)法人の代表理事を選定する理事会議事録と定款の定め
代表理事の就任・重任登記
一般社団法人及び一般財団法人(以下「一般社団法人等」といいます)の代表理事の住所及び氏名は登記事項であり、その変更が生じたときは変更の登記を申請します。
一般社団法人等の理事の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時まで(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法人法」といいます)第66条、法人法第197条)ですので、選任懈怠とならない限り、少なくとも約2年に1回は代表理事の変更登記をする機会が生じます。
この変更登記は代表理事の交代だけではなく、新規就任、重任、同一の代表理事の退任・再任の登記を含みます。
ここでは理事会を設置している一般社団法人等を前提としています。
代表理事を選定した理事会議事録
理事会設置法人において、代表理事は、定款に別段の定めがない限り、理事会の決議によって選定します(法人法第90条2項3号)。
理事会の決議は、実際に開催をして行うか、法人法第96条に基づくいわゆる「みなし決議」で行います。
理事会の議事についてはその議事録を作成した上で、原則として出席した理事及び監事がこれに署名又は記名押印(以下「記名押印等」といいます)をします。なお、みなし決議の場合はその議事録に法人法上の押印の義務はありません(ただし、代表理事を選定した議事録については下記参照)。
定款の定めに基づく記名押印又は署名者の限定
一般社団法人等は、株式会社と異なり、開催型の理事会議事録に記名押印等をしなければならない者を定款で出席代表理事及び監事とすることが可能です(法人法第95条、法人法第197条3項)。
理事会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した理事(定款で議事録に署名し、又は記名押印しなければならない者を当該理事会に出席した代表理事とする旨の定めがある場合にあっては、当該代表理事)及び監事は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
理事会議事録の記名押印等の義務者は次のとおりです。
出席した理事及び監事 | 議事録の作成者たる理事(押印義務なし) | |
出席した代表理事及び監事 | ||
出席した理事及び監事全員が個人実印を押印(ただし、変更前の代表理事が理事又は監事として出席し、登記所に提出している印鑑を押印したときは、他の役員は認印可) | 理事会議事録又は議案への同意書に理事全員が個人実印を押印(ただし、変更前の代表理事が議事録作成者たる理事として記名され、登記所に提出している印鑑を押印したときは、他の役員の押印及び同意書は不要) | |
出席した代表理事及び監事全員が個人実印を押印(ただし、変更前の代表理事が代表理事又は監事として出席し、登記所に提出している印鑑を押印したときは、他の役員は認印可) |
代表理事の就任登記とその選定議事録
一般社団法人等登記規則第3条が準用する商業登記規則第61条により、代表理事の就任登記には次の書面が求められます。
1.理事会を実開催した場合(定款に記名押印等をする者の指定なし)
代表理事を選定した理事会議事録には出席した理事及び監事全員が記名及び個人実印で押印し、出席した理事及び監事全員が個人印鑑証明書を準備します。
ただし、変更前の代表理事が理事又は監事として出席し、登記所へ提出している印鑑を押した場合は、他の出席した理事及び監事の押印は認印でよく、印鑑証明書の準備も不要です(新任の代表理事につき商業登記規則第61条4項、5項に基づき印鑑証明書の準備は別途必要)。
新任代表理事の就任承諾を証する書面として理事会議事録を援用するときは、当該理事会議事録に、当該代表理事が個人実印を押印すること、当該代表理事の住所も記載すること、及び席上(即時)就任承諾をした旨の記載が必要です。
就任承諾を証する書面につき理事会議事録の記載を援用しない場合は、別途就任承諾書を準備します(新任代表理事は個人実印を押印し、再任代表理事に登記手続き上の押印義務はありません)。
2.理事会を実開催した場合(定款に記名押印等をする者の指定あり)
代表理事を選定した理事会議事録には出席した代表理事及び監事全員が記名及び個人実印で押印し、出席した代表理事及び監事全員が個人印鑑証明書を準備します。
ただし、変更前の代表理事が代表理事又は監事として出席し、登記所へ提出している印鑑を押した場合は、他の出席した代表理事及び監事の押印は認印でよく、印鑑証明書の準備も不要です。
新任代表理事の就任承諾を証する書面として理事会議事録を援用するとき、就任承諾書を用意するときの注意点、新任の代表理事につき印鑑証明書の準備が必要である点は前号のとおりです。
理事の人数が多い一般社団法人等においては、理事会議事録へ記名押印等をする者を出席代表理事及び監事とする定款の規定があると理事会への記名押印等がスムーズではあり、代表理事が交代する登記手続きにおいてその準備に関する負担が大きく下がる印象です。
理事会議事録につき毎回電子署名ではなく、1枚の紙(議事録)に出席理事(及び監事)全員の押印をもらっている一般社団法人等においては、当該定款の定めを設けることで負担が大きく下がる可能性があります。
3.理事会のみなし決議をした場合
代表理事を選定した理事会議事録に理事全員が記名及び個人実印で押印するか、理事会の決議事項に係る同意書へ各理事が個人実印を押印し、理事全員が個人印鑑証明書を準備します。
ただし、変更前の代表理事が議事録を作成した理事として理事会議事録に登記所へ提出している印鑑を押した場合は、他の理事につき理事会議事録への記名押印や印鑑証明書の準備も不要です。
代表理事の就任承諾書が必要となること、就任承諾書を用意するときの注意点、新任の代表理事につき印鑑証明書の準備が必要である点は前第1号のとおりです。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
![代表司法書士・相続診断士 石川宗徳 [Munenori Ishikawa]](/js/wp-content/themes/shiodome/dist/img/mr.ishikawa_02.jpg)
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。