商業登記関係 組織変更の手続き(合同会社から株式会社へ)
組織変更とは
組織変更とは、その組織を変更することにより株式会社が合名会社、合資会社又は合同会社となること、あるいは合名会社、合資会社又は合同会社が株式会社となることをいいます(会社法第2条26号)。
ここでは、合同会社が株式会社へ組織変更をするときの手続きについてご紹介しています。
以下、このページにおいて組織変更とは、合同会社が株式会社となる組織変更のことを指しています。
なお、持分会社(合名会社、合資会社又は合同会社)から特例有限会社へ組織変更することはできず、また、持分会社から一般社団法人や有限責任事業組合(LLP)へ組織変更することはできません。
組織変更のスケジュール
組織変更手続きには、最短で1.5ヶ月の期間、通常は2ヶ月程度の期間がかかるため、今日や明日すぐに組織変更ができるわけではありません。
また、組織変更は効力発生日までに一定の手続きを経なければならないため、スケジュールを立てて手続きに抜けや漏れがないようにすることが重要です。
例えば、4月1日を組織変更の効力発生日とするスケジュール例は次のとおりです。
1月中旬 | 組織変更の準備 (組織変更計画の内容決定、債権者の確認等) |
2月1日 | 業務執行社員の決定 (組織変更計画の承認、総社員から同意を得る準備) 官報公告の申込み |
2月25日 | 官報に組織変更公告が掲載 債権者への個別催告 |
3月25日 | 総社員の同意(組織変更計画の承認) 債権者異議申述期間満了 |
4月1日 | 組織変更の効力発生 |
4月1日以降 | 組織変更の登記申請(2週間以内) |
組織変更の一般的な手続き
組織変更を行うには一定の手続きを経る必要があり、その一例は次のとおりです。
- 組織変更計画の作成
- 官報公告
- 債権者への個別催告
- 総社員の同意
- 組織変更の登記申請
組織変更を行う会社の事情等により、これ以外の手続きが必要となるケースもあります。
組織変更計画の作成
組織変更をする合同会社は、効力発生日の前日までに、原則として組織変更計画について総社員の同意を得なければなりません(会社法第781条1項)。
組織変更計画には最低限、次の事項を定める必要があります(会社法第746条1項)。
- 組織変更後の株式会社の商号、本店所在地、目的、発行可能株式総数
- 組織変更後の株式会社の定款で定める事項
- 組織変更後の株式会社の役員の氏名
- 合同会社の社員が取得する株式の種類、数に関する事項
- 合同会社の社員に金銭等を交付するときはそれに関する事項
- 効力発生日
官報公告
組織変更をする合同会社はその債権者の保護のために、官報公告によって、組織変更をすること及び債権者が一定の期間異議を述べることができる旨を掲載しなければなりません(会社法第781条2項)。
これは、会社の公告方法を「日刊新聞紙」や「電子公告」と定めている合同会社であっても、官報公告は必須です。
組織変更の債権者保護手続きに関する官報公告は、申込みから官報に掲載されるまで5~6営業日程度かかります。
官報公告の記載例
当社は、株式会社に組織変更することにいたし
ました。
この組織変更に異議のある債権者は、本公告掲
載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。
平成28年7月3日
東京都港区新橋一丁目1番1号
汐留太郎合同会社
代表社員 汐留太郎
債権者への個別催告
官報公告と併せて、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければなりません。
なお、知れている債権者がいない場合は、この催告は不要です(できません)。
この知れている債権者への催告は、定款で公告方法を「日刊新聞紙」や「電子公告」と定めているときは、官報公告に加えて定款の公告方法による公告を行うことのより、省略することができます。
公告方法が官報である会社は知れている債権者への催告を省略をすることはできません。また、合資会社・合名会社が株式会社となる場合は、ダブル公告による各債権者への個別催告を省略することはできません。
総社員の同意
組織変更をする合同会社は、効力発生日の前日までに、原則として組織変更計画について総社員の同意を得なければなりません(会社法第781条1項)。
社員全員の同意があったことを証する書面としては、社員全員からそれぞれ同意書をもらっても良いですし、1枚の用紙に社員が連名で同意の意思を示したものでも問題ありません。
組織変更の効力発生
組織変更においては、登記が効力発生要件ではないため、組織変更計画において効力発生日と定めた日に組織変更の効力が発生します。
そのため、効力発生日として法務局が開いていない土日祝日を定めることも可能です。
代表取締役の選定
代表取締役を取締役会で選定する、あるいは取締役会非設置会社が取締役の互選や株主総会の決議で選定するときは、組織変更の効力発生後でないと選定できないとされています。
そのため実務的には、組織変更後の代表取締役の選定は、組織変更計画あるいは組織変更後の株式会社の定款において、組織変更後の代表取締役を定めているケースが多いのではないでしょうか。
こうすることで、組織変更後に取締役会の決議等をすることなく、組織変更の効力発生時に代表取締役選定の効力を生じさせることができます。
組織変更の登記申請
組織変更の登記は、効力発生日から2週間以内に、組織変更後の株式会社の設立登記と組織変更する合同会社の解散登記を【同時】に行います。
【株式会社の登記の添付書類(一例)】
- 組織変更計画書
- 株式会社の定款
- 総社員の同意があったことを証する書面
- 債権者保護手続き関係書類
- 役員の就任承諾書及び本人確認証明書類
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
【合同会社の登記の添付書類】
不要
組織変更の登記と同時にできる登記とできない登記
組織変更と同時に効力を発生させることはできても、組織変更の登記申請と同時に(同じ申請で)申請ができない登記があります。
ここでいう同時に申請ができないとは、同じ申請書にそれを記載することができないことをいい、通常は連件(別の申請書で同時に法務局へ申請すること)で申請することが一般的です。
組織変更の登記と同じ申請でできない登記については、こちらの記事をご確認ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。