商業登記関係 2018年(平成26年)改正会社法施行後の株式併合の手続きと登記(キャッシュ・アウト)
株式の併合とは
株式会社は、株式の併合をすることができます(会社法第180条1項)。
株式の併合とは、複数の株式を、それよりも少ない株式数にすることをいい、例えば10株を1株にしたり、3株を2株にしたりすることができます。
株式併合は、上場会社は特有の利用目的は除くと、単元未満株主を増やすことで株主総会の運営等をスムーズに行うことを目的として利用されることがあります。
また、株式併合の利用目的として有名なものは、少数株主を追い出すためのスクイーズアウトかと思います。
少数株主の追い出し(キャッシュ・アウト)
発行済株式数が100株の株式会社Xにつき、株主Aが80株、株主BCDEがそれぞれ5株ずつ保有していたとします。
株式会社Xが10株を1株にする株式併合を行った場合、株主Aが8株、株主BCDEがそれぞれ0.5株ずつ保有することになります。
1株未満の端数の株式しか持たない株主BCDEは株主ではなくなりますので、株式会社Xの株主はAのみということになります。
ここでいうBCDEのような少数しか株式を保有していない株主を追い出すために、株式併合は利用されることがあります。
株式併合の手続き
株式の併合は、一例として次のような手続きで行います。
取締役会設置会社、普通株式のみ発行し、株券は不発行、単元株の定めなしの株式会社が、株式の併合をすることにより株式の数に1株に満たない端数が生ずることを前提としています。
- 取締役会の決議
- 株主総会の招集通知発送
- 株主総会の決議
- 書面等の事前備置き
- 効力の発生
- 書面等の事後備置き
- 登記
1. 取締役会の決議
株式の併合をすること、株主総会の招集することを取締役会で決議します。
2. 株主総会の招集通知発送
株主総会を開催するため、その招集通知を株主に発送します。
取締役会を設置している非公開会社は、株主総会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主に対してその通知を発しなければなりません(会社法第299条1項)。
ところで、株式会社は、株式併合の効力発生日の20日前(端数株が生じない場合は2週間前)までに株主及びその登録株式質権者に対し、下記株主総会で決議する事項について通知する必要があります(会社法第181条1項、会社法第182条の4第3項)。
当該株主への通知を株主総会の招集通知と一緒に行うことで、株主への通知を1回で済ませることができます。
なお、当該株主への通知は、公告をもってこれに代えることができます(会社法第181条2項)。
3. 株主総会の決議
株主総会の特別決議で、次の事項を定めます(会社法第180条2項)。
- 併合の割合
- 株式の併合の効力発生日
- 株式会社が種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類
- 効力発生日における発行可能株式総数
取締役は、この株主総会において、株式の併合をすることを必要とする理由を説明しなければなりません(会社法第180条4項)。
4. 書面等の事前備置き
株式の併合をする株式会社(単元株式数を定款で定めている株式会社は、当該単元株式数に併合の割合を乗じて得た数に1に満たない端数が生ずるものに限ります)は、次に掲げる事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければなりません(会社法第182条の2第1項、会社法施行規則第33条の9)。
- 併合の割合についての定めの相当性に関する事項
- 当該株式会社において最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容
- 当該株式会社において最終事業年度がないときは、当該株式会社の成立の日における貸借対照表
- 備置開始日後株式の併合がその効力を生ずる日までの間に、上記に掲げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項
※詳細は会社法施行規則第33条の9をご確認ください。
この備え置きは、次に掲げる日のいずれか早い日から効力発生日後6ヶ月を経過する日までの間、行います(会社法第182条の2第1項)。
- 株式の併合を決議する株主総会の日の2週間前の日(みなし決議の場合、当該決議に関する提案があった日)
- 株主への通知日又は当該通知に代わる公告の日のいずれか早い日
5. 効力の発生
株主は、効力発生日に、その日の前日に有する株式の数に株主総会で決議した併合の割合を乗じて得た数の株式の株主となります(会社法第182条1項)。
株主総会の決議で効力発生日における発行可能株式総数を変更したときは、効力発生日に、当該事項に係る定款の変更をしたものとみなされます(会社法第182条2項)。
6. 書面等の事後備置き
株式の併合をした株式会社は、効力発生日後遅滞なく、株式の併合が効力を生じた時における発行済株式の総数その他の株式の併合に関する事項として次に掲げる事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成します(会社法第182条の6第1項、会社法施行規則第33条の10)。
- 株式の併合が効力を生じた日
- 株主からの株式の併合をやめることの請求に係る手続の経過
- 反対株主の株式買取請求に係る手続の経過
- 株式の併合が効力を生じた時における発行済株式の総数
- 上記に掲げるもののほか、株式の併合に関する重要な事項
株式の併合をした株式会社は、この書面又は電磁的記録を効力発生日から6ヶ月間、その本店に備え置きます(会社法第182条の6第2項)。
株式併合の登記
株式会社が株式の併合をしたときは、効力発生日から2週間以内にその変更登記を申請します。
当該登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
この登記の登録免許税は3万円です。
株式併合のスケジュール例
株式併合のスケジュール例は次のとおりです(株券不発行、端数が生じない場合)。
取締役会の決議(株主総会の招集決定) | |
9月2日 | 株主総会の招集通知(株式併合の通知を兼ねる)発送 事前備置書面の備置 |
株主総会の決議 | |
9月29日 | 株式併合の効力発生 事後備置書面の備置 |
登記申請(2週間以内) |
単元株を定めている会社の端数の生じない株式併合
単元株式数を定款で定めている株式会社が、当該単元株式数に株式の併合の割合を乗じて得た数に1に満たない端数が生じない株式の併合をするときは、次の手続きが不要となり、手続きは比較的簡易となります。
- 書面等の事前備置き(会社法第182条の2)
- 株主からの差止請求(会社法第182条の3)
- 反対株主の株式買取請求(会社法第182条の4)
- 書面等の事後備置き(会社法第182条の6)
株主の保護
株式の併合が法令又は定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、当該株式の併合をやめることを請求することができます(会社法第182条の3)。
株式会社が株式の併合をすることにより株式の数に1株に満たない端数が生ずる場合には、反対株主は、当該株式会社に対し、自己の有する株式のうち1株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法第182条の4第1項)。
なお、株式買取請求をしない株主の端数株式については、その端数の合計数(その合計数に1に満たない端数が生ずる場合にあっては、これを切り捨てる。)に相当する数の株式を競売し、かつ、その端数に応じてその競売により得られた代金を株主に交付されます(会社法第235条1項)。
株券発行会社
株券発行会社が株式の併合をするときは、株式の併合の効力が生ずる日までに当該株券発行会社に対し当該各号に定める株式に係る株券を提出しなければならない旨を当該日の1ヶ月前までに、公告し、かつ、当該株式の株主及びその登録株式質権者に、各別にこれを通知します(会社法第219条1項)。
ただし、当該株式の全部について株券を発行していない場合は、この手続きは不要です。
株券提出日までに当該株券発行会社に対して株券を提出しない者があるときは、株券発行会社は、当該株券の提出があるまでの間、当該株券に係る株式の株主が受けることのできる金銭等の交付を拒むことができます(会社法第219条2項)。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。