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代表司法書士 石川宗徳の 所長ブログ&コラム

取締役会非設置会社において、株式や新株予約権の割当てを取締役の決定で行う方法

募集株式の発行と割当て

非公開会社が第三者割当の方法によって募集株式の発行をするときの一般的な手続きは次のとおりです。

  1. 株主総会の決議
  2. 募集株式の申込み
  3. 募集株式の割当て
  4. 出資の履行
  5. 登記申請

総数引受契約を用いる場合は次のとおりです。

  1. 株主総会の決議
  2. 総数引受契約の締結
  3. 総数引受契約の承認
  4. 出資の履行
  5. 登記申請
割当て又は総数引受契約の承認をする方法

上記手続きのうち「3.募集株式の割当て」を決定する方法は、取締役会設置会社においては取締役会の決議であり、取締役会非設置会社においては株主総会の決議です(会社法第204条2項)。

また、「3.総数引受契約の承認」をする方法は、取締役会設置会社においては取締役会の決議であり、取締役会非設置会社においては株主総会の決議です(会社法第205条2項)。

募集新株予約権の発行と割当て

募集新株予約権の発行の手続きも、募集事項の内容の違いや、有償・無償の違いはありますが、概ね募集株式の発行と同じです。

募集新株予約権の割当てを決定する方法は、取締役会設置会社においては取締役会の決議であり、取締役会非設置会社においては株主総会の決議です(会社法第243条2項)。

また、総数引受契約を用いる場合の当該契約を承認をする方法は、取締役会設置会社においては取締役会の決議であり、取締役会非設置会社においては株主総会の決議です(会社法第244条3項)。

取締役会非設置会社
取締役会設置会社
会社法
募集株式の割当て
株主総会の決議
取締役会の決議
204条2項
募集株式の総数引受契約の承認
株主総会の決議
取締役会の決議
205条2項
募集新株予約権の割当て
株主総会の決議
取締役会の決議
243条2項
募集新株予約権の総数引受契約の承認
株主総会の決議
取締役会の決議
244条3項

取締役への募集事項の委任との相性

今月に募集株式の発行を行う予定で、2-3カ月後に同じ株価で募集株式の発行をするようなケースがあります。

このようなケースでは、株主総会の回数を減らすために、株主総会の決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任する方法が採用されることがあります(会社法第200条1項)。

上記のケースにおいて、取締役会設置会社であれば、「①募集事項の決定」も「②募集株式の割当て」も取締役会の決議で行えるため、株主総会の決議は1回で済みます。

一方で、取締役会非設置会社の場合は、「②募集株式の割当て」は株主総会の決議が必要となるため、募集事項を取締役へ委任しても、「②募集株式の割当て」のために株主総会を再度開催します。

そのような意味で、取締役会非設置会社においては、取締役への募集事項の決定の委任は使う際に制約が少なくない仕組みかもしれません。

総数引受契約の承認も同様

申込み+割当て方式ではなく総数引受契約方式の場合はどうかというと、総数引受契約も会社の承認が必要であり、取締役会非設置会社の場合は株主総会の決議によって行います。

そのため、株主総会の決議によって募集事項の決定を取締役に委任しても、割当先及び総数引受契約の内容が固まった後に、当該契約の承認のために再度株主総会の決議が必要となります。

もちろん、1株の金額、割当先、割当数が決まっているのであれば(取締役に募集事項を委任しない前提)、株主総会の決議で募集事項の決定+総数引受契約の承認を1つの株主総会で終わらせることはできます。

割当ての決定機関と定款の定め

募集株式又は募集新株予約権の割当ては、定款の定めによって変更することができます。

募集株式の割当てに関する会社法の条文は次のとおりであり、「前項の規定による決定」とは募集株式の割当てに関する決定です。

会社法第204条2項
募集株式が譲渡制限株式である場合には、前項の規定による決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

募集新株予約権の割当てに関する会社法の条文は次のとおりであり、「前項の規定による決定」とは募集新株予約権の割当てに関する決定です。

会社法第243条2項
次に掲げる場合には、前項の規定による決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
(省略)

総数引受契約の承認機関と定款の定め

総数引受契約の承認についても、定款に定めることによって、その決議を株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議から変更することが可能です。

募集株式の総数引受契約の承認に関する条文は会社法第205条2項、募集新株予約権の総数引受契約の承認に関する条文は会社法第244条3項です。

会社法第205条2項
前項に規定する場合において、募集株式が譲渡制限株式であるときは、株式会社は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって、同項の契約の承認を受けなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

会社法第244条3項 
第1項に規定する場合において、次に掲げるときは、株式会社は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって、同項の契約の承認を受けなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
(省略)

割当て決定機関、総数引受契約の承認機関を取締役の決定に

取締役会非設置会社において、募集株式又は募集新株予約権の割当て又は総数引受契約の承認を取締役の決定とする旨を定款に規定しておくと、次のようなケースで役立ちます。

  • 1株当たりの金額が同じ条件で、1年以内に何回も募集株式の発行を予定しているときに、株主総会の決議を少なくして、取締役の決定だけで機動的に動きたい。
  • 新たに出資をする投資家との調整中ではあるが、株主総会の決議に時間がかかるため、先行して株主総会の決議だけ得ておきたい。
  • 従業員向けにストックオプションを発行する予定ではあり、誰に何個付与するかは検討中ではあるが、株主総会の決議を先に得ておきたい。

一方で、株主が、誰が株式を引き受けるのかについて関与したいのであれば、割当て決定機関等を取締役の決定とする定款の規定を設けない方がいいでしょう。

定款の記載例

募集株式又は募集新株予約権の割当て又は総数引受契約の承認を取締役の決定とする旨の定款規定の一例は、次のようになるでしょうか。

(募集株式及び募集新株予約権の割当て等)
第●●条 当会社の株式(自己株式の処分による株式を含む。)を引き受ける者の募集において、会社法第204条第1項の割当てに関する事項の決定は、取締役の過半数の決定によって行う。
2 当会社の株式(自己株式の処分による株式を含む。)を引き受ける者の募集において、募集株式を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、当該契約の承認は取締役の過半数の決定によって行う。
3 当会社の募集新株予約権(自己新株予約権の処分による新株予約権を含む。)を引き受ける者の募集において、会社法第243条第1項の割当てに関する事項の決定は、取締役の過半数の決定によって行う。
4 当会社の募集新株予約権(自己新株予約権の処分による新株予約権を含む。)を引き受ける者の募集において、募集新株予約権を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、当該契約の承認は取締役の過半数の決定によって行う。

この記事の著者

司法書士
石川宗徳

代表司法書士・相続診断士 石川宗徳 [Munenori Ishikawa]

1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)

2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。

2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。

また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。

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商業登記不動産登記相続手続き遺言成年後見など、
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