商業登記関係 DES、です。
DESとは
DES(デット・エクイティ・スワップ)とは、Debt Equity Swapの省略であり、Debt(=債務)とEquity(=株式)をSwap(=交換)することをいいます。
文字どおり「債務」を「株式」と「交換」しますので、DESを行うと会社の債務が減り、発行済株式総数や資本金(及び資本準備金)が増えることになります。
DESは募集株式発行(増資)の手続きによる
DESの手続きは募集株式の発行(増資)の手続きのうち、出資するものが金銭ではなく会社に対する金銭債権(現物出資)として行います。
募集株式の発行(増資)手続きはこちらの記事をご参照ください。
≫募集株式発行(増資)の登記費用
会社から見ると債務・借入である、会社に対する債権を現物出資することにより、会社の株式を債権者が取得する手続きをいいます。少人数で会社の場合ですと社長さんが会社に対して貸し付けている金銭債権を株式に変えるというケースがあります。
DESを「デス」と言ったりしますので、「今回の手続きはデスです」と(意図せずに)冗談を言っているように聞こえるのは私だけではないはずです。
DESのメリット
DESをすると現物出資をした分の債務(借入)が消えることになり、また資本金(及び資本準備金)が増えることになりますので会社の財務体質が改善します。
債務(借入)がなくなるため、債務(借入)に対する利息の支払いも不要となります。
DESのデメリット
債権者が外部の方の場合、当該債権者が新たに株主となります。
新しく株主になる人が所有する株式数によっては、会社の今後の運営に影響を与えることになる可能性があります。つまり、発行済株式数の過半数を保有すれば普通決議を、3分の2以上を
保有すれば特別決議を単独で行うことができるようになります。
また、1株でも株式を持っていれば行使することができる単独株主権、一定の割合以上の株式を持っていることにより行使することができる少数株主権というものがあります。
≫単独株主権
≫少数株主権
加えて、配当金の支払う必要も出てくるかもしれません。
DESの手続き
取締役会の無い会社の場合の一例は次のとおりです(総数引受契約による場合)。
- 取締役による株主総会の招集決定 ⇒ 招集通知
- 株主総会決議
- 総数引受契約の締結
- 効力発生日と定めた日にDESの効力発生
※全て同日付で行うことは可能です。
新しく株式を発行するのではなく自己株式を交付する場合はこちらの記事をご参照ください。
総数引受契約の承認が必要になりました
平成27年5月1日に施行された改正会社法により会社法第205条第2項が新設され、譲渡制限会社では総数引受契約の承認を株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の決議により得なければならなくなりました。
(募集株式の申込み及び割当てに関する特則)
会社法第205条1. 前2条の規定は、募集株式を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、適用しない。
2. 前項に規定する場合において、募集株式が譲渡制限株式であるときは、株式会社は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって、同項の契約の承認を受けなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
出資する債権額が500万円を超える場合
出資する債権の価額が500万円を超えるときは、引受人に割り当てる株式の総数が直前の発行済株式総数の10分の1以下である場合を除き、次の書類が必要となります。
- 価額の相当性を税理士や弁護士が証明した書類 または
- 総勘定元帳などの債権の金額や債権者名の分かる会計帳簿
なお、後者の会計帳簿には会社の代表者が原本証明等をして、会社実印を押印します。
登記申請の添付書類
DESを行うと、株式会社の場合は資本金の額が増えますのでその登記申請を効力発生日から2週間以内に法務局にしなければなりません。
その登記申請に必要となる添付書類は次のとおりです。
(取締役会の無い会社が総数引受契約による場合)
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 総数引受契約書
- 資本金計上証明書
- 税理士等の証明書または総勘定元帳等の会計帳簿(500万円を超えるとき)
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
DESにかかる登記費用
DESをすることにより資本金の額が増えることになりますので、次の費用が発生します。
なお、募集株式を全て自己株式で賄った場合は、資本金の額に変動はありません。
- 司法書士報酬 7万円(税別)~ ※司法書士に依頼した場合
- 登録免許税 増加する資本金の額の1000分の7
(3,000万円資本金が増加する場合は、21万円)
資本準備金への計上
DESにより出資された価額のうち、2分の1を超えない額を資本金ではなく資本準備金に計上することができます(会社法第445条2項、3項)。
増資と減資を同時に行う
増資と同日付で減資を行い、効力発生日の前後で資本金の額が実質的に変わらない場合も、増資・減資の登記申請は必要となり、その分の登録免許税は納めなければなりません。
1株の出資額をいくらにしたらいいの?
会社の資産状況により発行する株式数や債券の評価によっては、DESによって債務消滅益が生じることにより会社の益金扱いとなってしまう可能性があります。
1株当たりの出資金額をいくらにしたらいいのかは、何となくで決めるのではなく、顧問税理士の先生にご確認いただくのがよろしいかと思います。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。