商業登記関係 新株予約権の放棄と登記手続き
新株予約権の放棄
新株予約権者はその保有する新株予約権を放棄することが可能とされており、新株予約権の放棄は、発行会社に対して新株予約権を放棄する旨の意思表示をする方法によって行います。
口頭で新株予約権を放棄する旨を会社に伝えてもその放棄の効力は生じますが、新株予約権は会社・保有者どちらにとっても大切な事項ですので、放棄証書に署名又は記名押印をするか、あるいは電子署名をする等して証拠を残しておくのが良いでしょう。
新株予約権が放棄されると、放棄された新株予約権は消滅するとされていますので、新株予約権の一部が放棄されたときはその新株予約権の数が減り、新株予約権の全部が放棄されたときは当該新株予約権は全て消滅します。
新株予約権を放棄するケース
役員や従業員に新株予約権を付与している会社が、当該役員や従業員が退職するときに新株予約権を放棄してもらうことがあります。
新株予約権の行使条件として行使時に発行会社の従業員であることが定められている場合に、従業員である新株予約権者が発行会社を退職するようなケースでは、一見当該従業員が保有する新株予約権は行使不能により消滅するように見えます(会社法第287条)。
しかし、退職した従業員が復職する可能性はゼロではなく、仮に復職すれば新株予約権の当該行使条件を満たすこともできることから、従業員が退職してもその保有する新株予約権がそれをもって行使不能により消滅しないことを考えると、退職者に新株予約権を放棄してもらうことには一定のメリットがあります。
なお、新株予約権者が放棄するたびに登記申請が必要となり、当該登記には毎回登録免許税として3万円がかかることを考えると、放棄してもらうのではなく自己新株予約権としておき一定のタイミングでまとめて自己新株予約権の消却をすることも効率的であり経済的かもしれません。
他には、協力会社に新株予約権を付与していたけれども協力関係を解消するときに新株予約権を放棄してもらうこともあるでしょうか。
新株予約権の個数の減少と登記
放棄された新株予約権は消滅し、その分新株予約権の数が減少することにより登記事項に変更が生じますので、新株予約権が放棄されてから2週間以内にその旨の登記申請を行うことが必要です(会社法第915条1項)。
新株予約権の一部が放棄されたときは、登記すべき事項として新株予約権の数が減りますのでその変更登記を行うことに加えて、当該新株予約権の目的である株式の数も減りますのでその変更登記も行います。
新株予約権の目的である株式の数ではなくその数の算定方法を定めているときは、その記載内容によっては新株予約権の数の変更だけで済むこともあります。
新株予約権の全部が放棄されたときは、全部放棄によって新株予約権が消滅した旨の登記申請を行います(各新株予約権者の放棄日が異なる場合は、その変遷も登記します)。
添付書類
代理人に依頼する場合は委任状のみが必要となり、自社で登記申請するときは添付書類は不要です。
この登記の登録免許税は3万円です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。