商業登記関係 株式会社が株券発行会社へ移行するときの手続きと登記
株券不発行会社から株券発行会社への移行
株式会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨を定款で定めることができます(会社法第214条)。
会社法においては、株券不発行会社が原則となっていますが、定款に定めることにより株券発行会社に移行することが可能です。なお、種類株式発行会社は特定の種類の株式についてのみ株券を発行する旨を定款に定めることができず、株券を発行しないor全部の種類の株式について株券を発行する、のどちらかです。
会社法が施行される前は株券発行会社が原則であったため、会社法が施行される前から存在した株式会社が株券不発行会社へ移行したケースは少なくないように思います。
株券発行会社から株券不発行会社へ移行する手続きについては、こちらの記事をご確認ください。
≫株式会社が株券を廃止するときの手続きと登記(スケジュール例あり)
以下、ここでは非公開会社・株主は1名という株式会社を前提としています。
株券の発行と株式の質入れ
株券発行会社へ移行するケースとして、株式の質入れ又は株式に譲渡担保を設定するときに株券が用いられることがあります。
株券を質権又は譲渡担保を原因として譲渡する方法により、対抗要件を具備することをその目的としています。
上記目的で株券が用いられる場合、株式の譲渡制限規定の内容として、株式の担保権が実行された場合の譲渡については当会社(※定款に定められた譲渡承認機関が入ります)が承認したものとみなす旨を追加するケースもあります。
株券発行会社への以降の手続き
株式会社は原則として株券不発行会社であるところ、株券を発行する旨を定款に定めることによって株券を発行することができるようになります(会社法第214条)。
そのため、株券発行会社へ移行するためには次の手続きが求められます。
- 株主総会の決議
- 株券の発行
- 登記申請
1. 株主総会の決議
株券を発行する旨を定款に定めるため、株主総会の特別決議によって定款を変更します(会社法第309条2項)。
株主が1名の場合、≫株主総会のみなし決議(会社法第319条1項)が便利です。
上記のような定款の定めがある株式会社は、一例として次のようにその内容を変更します。
第6条 当会社の発行する株式については、株券を発行する。 | 第6条 当会社の発行する株式については、株券を発行しない。 |
定款に株券を発行しない旨の定めがない場合、新たに「当会社の発行する株式については、株券を発行する。」旨を設けることになりますが、株式の章に新たな条文を追加することによる以降の条文繰り下げが気になる場合は、「第6条の2」等のような条数を追加する方法も有用です。
2. 株券の発行
株券発行会社は、株式を発行した日以後遅滞なく、当該株式に係る株券を発行しなければならない(会社法第215条)。
株券には、次に掲げる事項及びその番号を記載し、株券発行会社の代表取締役がこれに署名し、又は記名押印します。(会社法第216条)。
- 株券発行会社の商号
- 当該株券に係る株式の数
- 譲渡による当該株券に係る株式の取得について株式会社の承認を要する旨
なお、株券発行会社に移行する目的は株券を発行することではありますが、非公開会社においては株券不所持の申出という制度があります(会社法第217条1項)。
3. 登記申請
株券発行に関する定款変更の効力発生日から2週間以内に、法務局へ株券発行会社の定めの設定登記を申請します。
この登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録(定款の変更内容が分かるもの)
- 株主リスト
この登記の登録免許税は3万円です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。