商業登記関係 会計限定監査役設置会社と監査役設置会社
監査役の権限を会計に限定したものにできる会社
監査役はその職務として、取締役(会計参与設置会社の場合は取締役及び会計参与)の職務執行を監査することを求められています(会社法第381条1項)。
しかし、監査役設置会社及び会計監査人設置会社をの除く公開会社でない株式会社は、上記にかかわらず、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができます。
以下、監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めがある株式会社の監査役を、通常の(業務監査権限+会計監査権限のある)監査役と分けて、会計限定監査役といいます。
監査役の権限を会計監査に限定する旨の定めが定款にあるとみなされている会社
平成28年5月1日に施行された会社法及び「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」により、次の会社は監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めが定款にあるとみなされています。
- 特例有限会社
- 平成18年5月1日以前に資本金1億円以下かつ負債の額が200億円未満であった非公開会社
(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社は除く)
会計限定の旨は登記事項
定款に監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めが定款にある場合は、その旨の登記をしなければなりません。なお、特例有限会社の監査役は会計限定監査役であると決まっておりますので、当該登記は不要とされています。
会計限定監査役の定めの登記は、登記簿上次のように記載されます。
役員に関する事項 | 監査役 汐留太郎 | 平成28年10月10日就任 平成28年10月11日登記 |
監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある | 平成28年10月10日設定 平成28年10月11日登記 |
※新しく監査役を選任し、会計限定監査役の定めの設定をした場合
責任免除規定と会計限定監査役
取締役が2名以上いる監査役設置会社、その取締役などが職務を行うにつき、善意でかつ重大な過失がない場合において、責任の原因となった事実関係等を勘案して特に必要と認めるときは、その責任の一部を、取締役の過半数の同意(取締役会設置会社においては取締役会の決議)によって免除することができる旨を定款で定めることができるとされています(会社法第426条1項)。
会社法426条1項のいう監査役設置会社とは、会計限定監査役しかいない株式会社を含みませんので、会計限定監査役のみの会社は当該責任免除規定を定款に定めることはできません。
責任免除規定を定款に定めるのであれば、監査役のいない会社であれば新しく監査役を選任し、会計限定監査役しかいない会社は定款から会計限定規定を削除し、新たに監査役を選任する必要があります(同一人物でも可)。
会社法施行前の責任免除規定
通常、責任免除規定の登記と監査役の会計限定の登記は併存できません。上記のとおり、会計限定監査役しかいない会社では、会社法第426条1項の要件を満たし得ないからです。
しかし、会社法が施行された平成18年5月1日以前に責任免除規定を設けていた会社については、責任免除規定と監査役の会計限定の登記が併存し得ます。
会計限定監査役しかいない会社だけれども責任免除規定があるから、監査役の権限を会計限定にする旨を削除するか責任免除規定を削除するかしかない・・・とは考えないようにご注意ください。
会計限定監査役しかいないのに責任免除規定のある会社
平成27年5月1日より前の日においては、「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨」は登記事項ではありませんでした。つまり、監査役は業務監査権限のある監査役も会計監査権限しかない監査役も、登記簿上は同じように監査役として登記されているだけで、登記簿上からその区別はできません。
株主総会決議によって責任免除規定を新しく定款に定め、その株主総会議事録があれば(会計限定監査役しかいない会社でも)責任免除規定の設定の登記は申請できてしまいました。
もし上記のような会社があったとしたら、定款に責任免除規定を本来置くことはできませんので、監査役の権限を会計限定にする旨を削除するか責任免除規定を削除しなくてはなりません。
会計限定監査役が退任するとき
会計限定監査役も業務権限のある監査役と同様に選任され、次のような事由により退任しますが、次のうち⑦だけは会計限定監査役特有の退任事由となります。
辞任したとき | |
株主総会の決議により解任したとき | |
任期が満了したとき | |
非公開会社から公開会社への移行したとき | |
監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社への移行したとき | |
監査役非設置会社への移行したとき | |
監査範囲を会計監査に限定する旨の定款の定め廃止したとき |
株主の権利の違い
監査役設置会社と会計限定監査役しかいない会社では、その株主の権利は次のように異なります。
監査役設置会社 | 会計限定監査役設置会社 | |
---|---|---|
取締役会の招集 | 株主はできない | 取締役が定款等に反する行為をしているときは、招集することができる |
取締役会議事録の閲覧 | 裁判所の許可が必要 | 営業時間内はいつでも可能 |
取締役の報告義務 | 会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を、直ちに監査役へ報告 | 会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を、直ちに株主へ報告 |
株主の業務監査 | 業務監査権限なし | 業務監査権限あり |
取締役への差止め請求 | 取締役が会社に回復することができない損害を及ぼすおそれのあるときは、差止請求が可能 | 取締役が会社に著しい損害を及ぼすおそれのあるときは、差止請求が可能 |
権限・義務が一部異なります
会計限定監査役には次の事項は適用されないとされています(会社法第389条7項)。
- 監査の権限と報告の作成、調査権限(会社法第381条)
- 取締役への報告義務(会社法第382条)
- 取締役会への出席義務(会社法第383条)
- 株主総会への報告義務(会社法第384条)
- 取締役の行為の差止め(会社法第385条)
会社法第389条7項
(会社法)第381条から第386条までの規定は、第1項(非公開会社の一部は、会計限定監査役の定めを定款に設けることができる)の規定による定款の定めがある株式会社については、適用しない。
※カッコは補足
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。